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楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた

教え子の未来に影を落としかねない「くそゲーム」発言

公開:2019年1月30日 更新:2019年2月15日

キーワード:ひいきボトムアップ理論予祝全国高校サッカー選手権指導者理不尽罵声

サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜経済大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。

聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。

高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。

日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。

根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。これから数回にわたってお送りします。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)

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自分が受けた指導を後輩、子どもたちにやってしまう「連鎖」 ※写真はサカイクキャンプです

■指導者に言われたことを、自分もやってしまう可能性。言葉の連鎖

1月に行われた全国高校サッカー選手権の決勝で、敗れた高校の監督さんが、戦い終えた選手たちに「くそゲームだった」とおっしゃったそうです。

報道では「厳しい中にも次へのエールが詰まったものだった」とあるので、言葉の前後では選手たちを励ます言葉をかけたのでしょう。記者は監督さんを通じてこの発言があったことを聞いているし、私自身その場にいなかったので詳細はわかりません。

しかしながら、決して上品とはいえない表現は話題になりました。

ネット上には「一生懸命頑張った選手がかわいそう」「対戦相手が聞いたら嫌な気分になるはず」と反発する声が多かったようです。「くそゲーム」という表現を「罵った」ととらえているわけですが、肯定する声も一定数あり、それらは「励ました」と理解しているように見受けられました。

「あくまで真意は違うというわけだし、あとは選手がどう考え、今後のサッカー人生につなげていくか」
「2年連続でファイナルまで連れてきた手腕だけでなく、こうした教育的な部分でもさすが名将」

同じ事象、同じ言葉でも、このように受け止め方が異なるわけです。
そのなかで、私がひとつ共感したのは、以下のようなコメントです。

「子ども達は、この監督を人生の恩師と呼べるのかな。危惧するのがこの教えを受けた選手達が、同じ様に指導者になった時に、クソみたいなゲームって同じように使っちゃうんだろうな」

使う言葉の「連鎖」を危惧されていました。このように「あの生徒たちが指導者になったら」と憂う声は少なくありませんでした。

「いや、たった高校の3年間だし、そんなに影響はないでしょう」と思われますか? 実は非常に大きいのです。

■子どもたちにとって「理解不能」な指導者の私情をはさんだ態度

先日、大学で日本サッカー協会のC級コーチ資格を取得できる「サッカーC級コーチ演習」という授業を行いました。
資格認定の最終段階では、学生が自らコーチ役となって選手役の学生達を対象に指導実践をします。すると、テキストに示されているコーチングポイントではないプレーに対して、そのプレーを止めて改善しようとする学生がいました。


「さっきのコーチングポイントはテキストに載っていないのに、なぜそこで止めて改善したの?」

私の質問に、彼はしまった、という表情で「僕があの指摘を受けたことがあるので......」と答えました。この授業では、しばしば見られることです。また中には、普段は温和な選手なのに、コーチ役になった途端に怖い顔で、厳しい声を出して指導する学生もいます。

学生ひとり一人の姿から、彼らを教えた「コーチ像」が浮かび上がってくるのです。

ベンチでの会話。ミーティングで話す内容。たった3年間でも、非常に影響を受けることがわかります。思春期のやわらかい感性は、目の前で起きたことや見聞きしたものを吸収するものです。

では、彼らが高校3年間をどうとらえているでしょうか。

こちらは大学のスポーツ原論での講義のことです。私が行っている「スポーツマンのこころ」を15回の授業で様々な角度から伝えた後、毎回ミニレポートを書いてもらいます。1月に行った際のレポートのテーマは「これまでのスポーツ人生」を振り返るものにしました。

主旨は二つ。ひとつは「与えられた苦悩や困難を乗り越えて成長に繋がったこと」と、もうひとつは「与えられた苦悩や困難がいまだに理解不能で消化しきれていないもの」です。

成長については各自さまざまでしたが、2番目の「理解不能で消化しきれていないもの」の中に、多く見られたのが「指導者の私情をはさんだ態度」でした。

・すぐに感情的になって罵声を浴びせる(バカ、アホ、クズなど)
・明らかに選手をひいきする。差別する。
理不尽なトレーニング(大会で優勝したのに内容が気に入らないと言って、30キロ走って帰らされたなど)

私も、一度理解不能な態度を診たことがあります。
ずいぶん前ですが、ある高校に選手のスカウティングに言ったときのことです。監督さんに「向こうのグランドで走っているのも、サッカー部の生徒ですか?」と尋ねたら、その方はこう答えました。
「あれは、ゴミ、ゴミ。2軍ですよ」
非常に気分が悪くなりました。

このような理解不能なことが多い指導者のチームは、試合前の空気が非常に重いことに気づきます。逆に、そうでないチームは明るいです。

次ページ:期待した結果を引き寄せる「予祝」とは?

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監修:高橋正紀 構成・文:「スポーツマンのこころ推進委員会」

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