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楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた
少年サッカーの天才が消えた本当の理由とは
公開:2019年3月14日 更新:2019年3月27日
サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜経済大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。
聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。
高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。
日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。
根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。これから数回にわたってお送りします。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)
■日本代表のライバルだった元天才サッカー少年が消えた理由
2020東京五輪が近づいて、スポーツがさまざまな側面から報じられることが増えています。そのなかで「早期教育」にもスポットが当たっています。
テレビ番組で「あの天才が消えた理由は何か?」といった特集では、よくサッカー選手が登場します。日本代表になって成功したその選手が、子どものころはライバルだったけれどいつの間にかサッカーをやめてしまった昔の仲間の話をする。そして、その「元天才」が現われて、「なぜサッカーで挫折してしまったか」を語ります。
理由はさまざまです。
「テングになっていた」とか「周りに合わせられなくなって、サッカーをあきらめてしまった」などいろいろです。非常に残念です。
彼らにとって有益な大人に出会っていれば、運命は違っていただろうと思います。それはどんな大人か。きっと、こんなふうに問いかけてくれる人です。
「君は自分を大切にしているかな?」
自分が大切なら、自分を磨くということ。自分を大切にしていない人は努力をしない。一緒にやってみようよ。親でも、コーチでも誰でもいい。そんなふうに心の道筋を一緒に考えてくれる人です。
■子どもが本来持っている「トライする気持ち」を大人が潰していないか
人間は誰もが、人間以外の動物に比べると飛びぬけて大きな脳みそを持って生まれてきます。そして、すべての赤ちゃんは溢れんばかりの好奇心と何事に対しても真っすぐに挑戦するこころを備えてもいます。
何もできない状態で生まれた赤ちゃんは、約1年の月日を経てやっと歩き出し、そして言葉を発するようになります。自分が生まれ落ちた環境から刺激を受けて、いろいろな事がどんどんできるようになります。そうです、人間と言う存在は学習をすることを前提に、大きな脳みそを携えて誕生するのです。言葉を変えれば生まれた瞬間から自分の中で眠る可能性を磨き続けることを宿命としてこの世界に誕生しているのです。
そのことは、赤ちゃんや小さい子どもたちの姿を見ればよくわかります。彼女・彼らはやる気の塊です。ハイハイで移動できるようになると、もう目を離せません。さまざまな場所にどんどん向かっていこうとします。そして、何か物があればさわって、なめて、口に入れ......。子どもという存在は誰もが生まれながらに、そんな好奇心やトライする気持ちを持っているわけです。
ところが、大人たちがそれを見守り切れずに「だめでしょ!」「何でそんなことするの!」「あなたダメな子ね!」「どうせできないんだから!」といって、子ども達の可能性の芽を摘んではいないでしょうか。
以前に一度お伝えしましたが、私が子どもたちに講義するとき「自分を磨くときに、どういうイメージか」をわかってもらうために、宝石の原石の写真を見せます。
「磨く前」(宝石の原石)と「磨き切った後」(宝石)。
「君たちはどっちがいい?」と尋ねると、大抵の子どもたちは「こっち(宝石)がいい」と言います。
しかし、私は念の為に子どもたちに「原石のままでいた方が何の苦労もないし、何もしなくていいし、物凄く楽なんだよね。でも、宝石になろうとしたら、たくさん努力する必要があるし、大きな壁も出てきて打ちのめされて、それでもそれを乗り越えないと宝石にはなれないからめちゃくちゃ大変なんだよね」と伝え、もう一度「どっちがいい?」ききますが、それでも子どもたちは「こっち(宝石)がいい」と言います。
そのうえで「へえ、じゃあ好きするといいよ。だいたい、スポーツというものは人に言われてやるもんじゃないよな。自分が好きだから、楽しみたいからやるんだよな。お父さんがやれと言うから、お母さんがやれと言うからやるんじゃない。自分がやりたいからやるんだ。だから、自分がやると自分で決めること。こっち(原石のまま)になるのもよし、こっち(宝石)になるのもよし、自分の人生なんだから自分で決めましょう!」と伝えています。
これは、心理学者であるデシとライアン(E. L. Deci & R. M. Ryan)が明らかにした「自己決定理論による内発的動機づけ」の考え方に基づいています。
私は子どもたちに対していつも「自分で決めろ」と自己決定することを求めます。「みんなが手を挙げているからって、つられるのはよくないぞ」などと若干の突っ込みも入れます。
子どもたちは苦笑いしながら、手を挙げます。
ただし、判断の材料をそろえてあげなければ子どもたちの限られた知識では決めようがないので、「こちらは楽だぞ、こっちは大変だぞ、どうする?」と説明します。
「自分で考えよう。そして、自分で決めよう。コーチは君たちが自分で考えて、自分で決めるために必要な材料は教えてあげるよ」というのは、ティーチングとコーチングに添ったものです。
教えるべきことは教えるティーチング。コーチングは、コーチの働きかけで子どもたち自身が自分で答えを導き出して、決断させるところは決断させる。
日本サッカー協会の使っている言葉だと、これをガイディッドディスカバリー(Guided Discovery)と言います。若干わかりづらい言葉ですが「自分で発見させる」ということです。
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