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あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]

目立たないけどいい選手、なのにセレクション全滅。受かるためにわかりやすい個性をつけさせるべき?

公開:2020年12月11日 更新:2020年12月14日

キーワード:1対1セレクショントレセンドリブル個人技判断力池上正目立たないけどいい選手

派手なプレーは好まず、スペースを見つけてパスを捌く、狙えたらシュートを打つような連係プレーが得意で判断力が高い子。単騎でドリブル突破したり対人プレーをどんどん仕掛けるタイプじゃなく、スペースを見つけて動ける「目立たないけどいい選手」。

なのに、力試しで受けてみたトレセンでは「素人が混じっているレベル」と酷評。上の年代のトレセンに携わっているチームの代表は、「このまま成長すればトレセンメンバーでやれる」と言うけど、これまでの自分の育成方法が失敗だったのか悩む、というご相談をいただきました。

これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが今回もコーチにアドバイスを送ります。
(取材・文 島沢優子)

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(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)

 

<<下級生との練習は上の子たちにメリットがないのでは。という上級者の親たちに年齢ミックスの良さを分かってもらうには?

 

<お父さんコーチからの質問>

いつも参考にさせていただいています。 U‐9、U‐10を指導していますが、どう育成したら良いのか悩んでいる3年生の選手がいます。

私は日頃の指導の中で、試合で使える技術を大切にした練習などを行ってきました。

例えば、昔からある対面での基礎練習やリフティング、1対1などには時間をかけず、1対2、2対1、4対4、ゲーム形式など、複数を意識したメニューを多めに実践しています。

スター選手はいませんが、平均より少し上の選手が集まっていて、 個で勝負するよりもチームの連動性が良いチームです。

その中で1人、この子は上のレベルでも十分やれるだろうなという子がいるのですが、 その子についての相談です。

ドリブルや1対1など派手なプレーや対人プレーは好まず、スペースを見つけて動き、パスを捌いて、狙えたらシュートを打つような「あまり目立たないけどとてもいい選手」というタイプで、相手チームにスター選手がいても全然引けを取らないレベルではあります。

本人は海外でサッカーをやりたいという夢をずっと持っていて、意識も非常に高いです。

しかし、その子の父親が力試しを兼ねて強豪チームやスクールのセレクションを色々受けさせてみたところ、合格どころか「素人が混じっているレベルだ」と評価されたというのです。

不合格の理由としては「基礎練習が他の受験生と同じように出来ない。ゲームでも、周りは1対1やドリブルで仕掛ける子ばかりで、どう動いていいか分からず終始あたふたした状態だった」という内容だったそうです。

その父親からは「ドリブルや1対1に特化したスクールに通った方がいいかな?」と相談をうけていますが、個人技に傾倒していくと今の良さが消えてしまうのではないかとも危惧しています。

正直、これまでの自分の育成方法が失敗だったのではないか、もっと違うやり方があったのではないかと悩んでいます。

U-12地区トレセンの監督も務めているうちのチームの代表は「彼は目立たないけど、このまま成長すればトレセンメンバーでやれる」と認めてくれていますが、それは身内で特色を知っているからで......。

知らない人が見たときに彼の良さに気づいてくれるのか、もっと分かりやすい特色を付けていくために練習を変えた方が良いのか、彼の大切な時間を潰してしまったのではないか、など葛藤している状態です。

このような問題に正解はないと思いますが、指導者としてどのように考えたら良いのかアドバイスいただけると幸いです。

 

 

<池上さんのアドバイス>

ご相談ありがとうございます。

いただいたメール文を読む限り、やろうとしている育成にまったく問題ないと思いました。

対面での基礎練習やリフティングといったクローズドスキルに時間をかけず、1対2、2対1、4対4やゲームなどのオープンスキル、対人練習をたくさんやっているとのこと。まさしく私がみなさんにこうあってほしいと伝えている指導です。

恐らくそのような練習によって、上のレベルでやれそうな子どもが育っているのでしょう。

ドリブルや1対1など派手なプレーや対人プレーは好まず、スペースを見つけて動き、パスをさばき、狙えたらシュートを打つ。

ご相談文に書かれているような選手をたくさん育ててほしいと願っています。

 

■昨今のトレセンでは「今すぐ試合に勝つ」ための選手が選ばれることも少なくない

が、強豪チームの中心選手やトレセンの選考でピックアップされるのは、私が見る限り「今すぐ試合で勝つために戦える選手」が多いようです。

例えばドリブルが上手くて、スピードがあって、同学年の子どもを抜いて行ける子に、大人たちは「勝負、勝負」と声がけをしてドリブル突破を勧めがちです。その子が点を取ってくれれば、全国大会に行けたり、トレセンの地区大会で一番になったりできます。

その一方で、サッカーを賢く考えられ将来性のある子どもが、ベンチに置かれたり、後回しにされてしまっているのが、強豪チームの現実だと感じます。

Jリーグクラブで育成に携わった時期は、さまざまなセレクションに立ち会ってきました。そのときに、私が「この子、いいね」と指摘するのが、ご相談者様が育てている選手のようなタイプです。ところが、担当コーチは「うーん」と首をひねります。彼らが欲しいのは「今すぐ使える選手」なので、いいと思う選手像には常にギャップがありました。

統計的にみても、トレセンに選ばれて、そのまま選ばれ続けて日本代表に上がっていく選手はゼロです。ひとりもいません。この結果を、私たち指導者は受け止めなければいけないと思います。

トレセンに入っていたけれど、途中で落ちて、Jクラブに入った、育成期はまったく注目されなかったけれど海外でプレーした結果代表に選ばれた。それが今の選手たちの、日本代表までの通り道です。

そう考えると、育成方法が変われば、日本の選手たちにはまだまだ成長できる余白がたくさんあると私は見ています。もっとうまくなる。もっとサッカーを熟知した、どのクラブでもどこの国でも通用するプレーヤーになれます。

 

■トレセンに選ばれた子が必ずしも順調に伸びるワケではない

逆に言えば、育成方法が古いままの指導者に出会ってしまうと、サッカーを学べません。コーチが育成の本質を知らないまま、海外のコーチたちがどんなところに注目し、どう育てているかを知らなければ、選手自身も「今勝負できる子」を選ぶトレセンに入ったり、チームが全国大会に出たりすることがいいと思ってしまいます。

さらにいえば、そのようなやり方がいいと言われてしまいます。全国大会に出た全員が上手く伸びてプロに行くかといえば、それはあり得ません。

無論ですが、ご相談者様が書かれているように、正解はないのかもしれません。しかしながら、全員がどこのステージに行っても楽しめるようなサッカーの学びかたがあるはずです。上のステージでもできる学びを経験させてあげたいと私は考えています。

 

■今の指導を変えたり、思い悩む必要はない

したがって、今実践している練習を変えたり、この選手の「大切な時間を潰してしまったのではないか」などと思い悩む必要はありません。この指導をぜひ続けてください。

まずは賢い選手を育てることに軸足を置きましょう。それが私の指導の大前提でもあります。自分で考えられる子どもに育てていけば、カテゴリーが進むにつれて次々とハードルが現れても「チャレンジしよう。どんなふうにやればいいかな」と自分で考えられます。指導者の要求にも応えられる思考や創造力を発揮できるはずです。

例えば、ここはドリブルで抜くよりもパスを選択しよう、と考えられる。その時々で最も選択すべきプレーを選べるようになります。ドリブルで抜いたり、ゴールを決めることよりも、その力を磨くことのほうが重要です。

 

■個人の特長を伸ばすだけでなく、頭脳を育てるのが指導者の役目

現在Jリーグにいる選手で今後も生き残っていける選手は「僕のスタイルはこれしかない」ではなく、監督の要求に応えられるうえで、自分のやりたいこともできる。そんなタイプです。海外でプレーする選手は言わずもがなでしょう。

例えば「これしかできない」という選手は、そのチームに自分と同じ武器で、より高性能でかつプレーの幅が広い選手が入ってくれば負けてしまいます。

「一対一が強い」「ドリブルが上手い」は、個人の特長です。特長はあって然るべきですが、それがすべてでは困るのです。攻守においてチームとして連動するときに、イメージを分かち合える頭脳をもたなくてはいけません。その頭脳を育てるのが、私たち指導者の役目なのです。

 

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文:島沢優子

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