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W杯出場欧州列強 U-12育成事情
干渉しすぎる保護者は追放されることも! サッカーの母国、イングランドのU-12育成とは?
公開:2023年4月 6日
これまでドイツ、スペイン、クロアチアと欧州列強のU-12育成環境や方針について伺って来ました。今回紹介するのはサッカーの母国であるイングランドです。
最も長くサッカーの歴史を持つこの国では、どういったスタンスで子どもたちを指導しているのでしょうか?また、指導のスタンスとは。
イングランド・プレミアリーグは世界最高峰のリーグとして隆盛を極めていますが、その陰でリーグを支える母国人、イングランド代表自体は国際大会での成績が振るわない状況が続いていました。しかし近年は他国の情報も取り入れ育成の改善を図り、2018年に行われたFIFAワールドカップロシア大会では、若い選手の躍動もあって4位と大健闘。サッカーの母国として復権も近いと期待できます。
そんなイングランドの育成環境をご紹介します。
今回は、1989年にイギリスのロンドン郊外に開設された文部科学省認定の在外教育施設である、帝京ロンドン学園高等部サッカーコースで指導者を務める末弘健太さんにお話を伺いました。
※過去に配信した記事を改めて紹介します
(文:竹中玲央奈 写真:新井賢一)
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■幼少期からサッカー以外の世界を見せる
末弘さんが最初にイギリスに来たのは2011年。留学生としてイギリスに足を踏み入れた後、一時帰国して日本で働いた後に再度イギリスへ戻りました。その後現地のユース世代のサッカーアカデミーに通いインターナショナルコーチングライセンス(イングランド・サッカー協会が認めている外国人のためのライセンス)を取得。マンチェスターユナイテッドサッカースクールの通訳を務めるなどイングランドのサッカー指導現場で活躍され、現在は日系の現地高校を指導しています。
そんな末弘さんに在英中に現地のジュニア世代の指導をしていた経験をもとにお話を聞きました。
「今現在ジュニア世代を指導をしているわけではないのですが、だからこそ過去の経験を踏まえ客観的に見られるという部分もあると思います。その中で感じたのが、イングランドは『緻密に考えられた指導』はされていないという点ですね。クラブチームの育成組織はともかく、街クラブレベルでは基礎的な指導はしますが、メニューの設定を難しくしたりせず、細かい戦術的な指導をすることもあまりないです。戦術的には日本でもテレビ観戦で人気の強豪国に比べると全体的に遅れている印象はありますね。未だに男子のフットボールでは"キックアンドラッシュ"が色濃く残っています。
とはいえ、ジュニア年代もクラブチームのアカデミーレベルになると下部組織は戦術を含め細かくしっかり育成している印象も同時に持っています。クラブチームはお金もあるので、最新の機器を揃えてテクノロジーに頼りながらやっている、というのもあります。技術的なことも高めていますね。ただ、街クラブについてはお父さんコーチがたくさんいる現状があります」
イングランドのジュニアチームは地域に紐付いて存在し、活動時間は試合を含めて週に3〜4回とのこと。1度の練習時間について、U-10になると1時間という短さがあり、U-11、U-12でも90分。2時間みっちりやる、というジュニアチームはないと語ります。平日も夜まで練習、土日は試合がなければ1日練習など、練習漬けのチームも多い日本と比べるとイングランドの練習は比較的少ない印象を持ちます。
「ユース年代も夏のオフが1か月くらいあるんです。その期間は練習がないので、家族と旅行に行ったり、自分のやりたい分野の勉強をしたりできるんです。サッカー以外の時間も大事にすることで、結果として人間的に成長していくのです。
また、そういう長期間サッカーから離れる休暇があるからこそ『またサッカーをしたい』『サッカーが楽しい』と思えるのかなと感じます。少し物足りない感じを残しているからなのか、サッカーが嫌いになって辞めてしまう子はあまり聞きません」
サッカーの母国なので、生活の全てがサッカー一色だったり、オフも自主練に勤しんだり、サッカーに徹した毎日を送っていることをイメージしてましたが、決してそうではないということが末弘さんの言葉からもわかります。
ロンドンはヨーロッパ一1の国際都市なので、色々な人種、宗教、言葉、考え方が存在しており、幼い頃から自分について考えさせられることが多く、結果的に人間として成熟するということでしょう。
そういう面もあり、イングランドの子どもは日本より大人びているという印象を末弘さんは持っているようです。
「中学生以上の子は既にサッカー以外の色々なスポーツやアクティビティ、文化的な経験をしているんです。だからこそ、いろいろと考えるし、自分の体験やそれによって得た知識を元に発言もする。文化的な違いも影響していると思いますが、土日も長期休暇もサッカー漬けの日本の子どもとイギリスの同じ年代の子を比べると、意見の主張や考え方の部分に差が見られますね」
■スポーツは「楽しむもの」イングランドの育成哲学
イングランドの育成において、大切にされているものがあります。「4 Corners」と呼ばれるこの要素を紐解くと、
サッカーの技術を指す「テクニカル」
チームワーク、コミュニケーション能力などの社会性を意味する「ソーシャル」
判断力、忍耐力、認知力などを示す「サイコロジカル」
そして、体の部分である「フィジカル」
指導においてはこれらの4つを元に練習を作られるのだそうです。練習を考えるときに「これらの要素はどこにあるのか」ということを指導者は常々考えるとのことです。
また、指導の中で"スポーツは楽しむものだ"という考えが根本にあるのが特徴だと末弘さんは言います。
「スポーツは楽しむものという考えがあるのですが、イングランドは日本みたいに親が子供に対して激しい言葉をかけることが多いのも事実です。近年は少なくなってきていますが、前はよくありました。そういうのをやめて楽しませるようにしないと、という考えは広がっています。とはいえ、イングランドでは日本よりもカッとなると激しく言ったり行動にする人が多いように感じます。
少年サッカーではピッチから2〜3m離れたところに『リスペクトバリアー』と呼ばるものものがあります。これは保護者がいていい区域です。そこから先は立ち入ってはいけない。そういう仕組みを作ることは、イギリス人は上手いですね。そのエリアから入ったり、干渉しすぎたりすると、クラブや協会から注意がきて、それこそ追放されることもあります」
子どもたちへの厳しい声掛けを抑制する制度として、ある週では「サイレンスウィークエンド」というものを設けているとのことです。
「指導者の言い過ぎややりすぎは良くないという認識があります。その中で、州がサイレンスウィークエンドと定めた週末2日間にある大会や試合は指導者も保護者もプレーヤーに声をかけてはないけない、拍手のみOKというものです。」
多くのプレーヤーがスポーツを始めた根底には、"楽しい"という感情があったからというのは間違いありません。
イングランド人は褒めるのが上手で、褒め言葉のバリエーションも豊富。たとえ失敗しても「アンラッキー」という言葉で、運が悪かっただけだよと声をかけます。なのでイングランドの子どもは上手い下手に関わらず自信を持ってプレーできるし、しっかり自分の意見を主張できるようだと末弘さんは教えてくれました。
日本の指導現場で見られるように、むやみにダメ出ししたり、勝つためにその時点で上手い子・強い子ばかり起用していたら、のちに伸びるポテンシャルのある子たちも自信を失い、「自分はダメなんだ」「勝つために自分は試合に出ない方がいいんだ」とサッカーが楽しくなくなってしまいます。
厳しい練習の中でも上手くなるために何よりも大事な「楽しい」という気持ち。その感情を損なわせないために様々なアプローチをしているイングランドの取り組みからは、日本も学ぶ部分がたくさんあるのかもしれません。
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末弘健太(すえひろ・けんた)
帝京ロンドン学園 高等部 サッカーコースダイレクター兼監督
日本体育大学を卒業後、指導者の道へ。日本とイングランドで幼児から高校生まで幅広い年代の指導経験を積む。FA International Coaching Licenceやその他指導者ライセンスを取得。日本ではマンチェスターユナイテッドサッカースクールで通訳を務めた経歴も。現在は帝京ロンドン学園サッカーコースダイレクター兼サッカー部監督として日々指導に当たっている。
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