- サカイク
- 連載
- W杯出場欧州列強 U-12育成事情
- 足が速い選手が少ない代わりに技術と思考力で勝負! モドリッチらを生み出したクロアチア、小国ならではの育成事情
W杯出場欧州列強 U-12育成事情
足が速い選手が少ない代わりに技術と思考力で勝負! モドリッチらを生み出したクロアチア、小国ならではの育成事情
公開:2018年11月 6日 更新:2018年12月18日
今年6月から7月にかけて行われたロシアW杯において優勝を果たしたのはフランスでした。しかし欧州の上位リーグに移籍し活躍する有名選手がひしめくフランスではなく、決勝の舞台に駒を進めたクロアチア代表が大いに話題になりました。
また、この大会でMVPを獲得したルカ・モドリッチ選手(レアル・マドリード)はFIFAの年間最優秀選手に選出。ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド選手(ユベントス)とアルゼンチンのリオネル・メッシ選手(バルセロナ)以外の選手が受賞するのはなんと11年ぶりになります。
そんなクロアチアですが、決して大国ではありません。人口は417万人と、日本で言うと福岡県(約500万人)よりも少ないのです。そんな小国がなぜ、これだけの躍進を遂げたのか。そして、それを支える育成文化はどうなっているのでしょうか。2001年よりクロアチアに在住して現地でジャーナリストとして活動していた長束恭行さんに、お話を伺いました。
(文:竹中玲央奈)
<< スペインの育成 | 連載一覧 | イングランドの育成 >>
■スポーツ人口が多いクロアチアの国民性
クロアチアは人口に対するサッカーの競技者率が8.5%ほどでドイツなどの強豪国に比べると低いですが、国内の競技比率としては割と高い数字を誇っています。しかし、サッカー以外にも誇れるスポーツがあると長束さんは語ります。「クロアチアはスポーツの競技人口が多いので、満遍なく強い競技があります。ハンドボール、バスケットボール、テニス、陸上 、格闘技などなど。その中でも男の子はサッカーをやる子が多いですね。いわゆる学校部活はないので、親御さんが町のクラブに入れるケースが多いです。ただし、クロアチアは経済が良くないので、クラブに入れない子もいます」
クラブに入れない子どもたちは公園などでいわゆる「ストリートサッカー」に励んでいたのだそうです。しかしそれは過去の話で、現在ではインターネットやスマートフォンの普及により、ストリートに出てアクティブに動く子は減っているとのことです。
とはいえ、前述したようにサッカーを始めとした球技で結果を残しているのはなぜなのでしょうか。
「昔から競技において勝利に対する執着心がある。僕は国民性だと思います。周囲によく『どうしてクロアチアはこんなに球技が強いのか』と聞くんですが、みんな"遺伝"だとか"神様が授けた"とか言うんです。なので、なぜなのかはクロアチア人も分かっていません。ただ、共通して言えるのは勝利に対する意欲、勝利のためなら自己犠牲も厭わないという部分はあると、彼らとの付き合いの中で感じます」
■A代表のセレクションは11歳から始まっている
元来備わっている勝利への執着心が名選手を生む1つの要因であることは間違いなさそうですが、一方で技術的に優れた選手も多く輩出しています。それについて長束さんはこう語ります。
「クロアチアではテクニックが重視されているんです。というのも、もともと足が速い選手が生まれる国ではない。五輪でも陸上の短距離で活躍する選手はあまり見ないですね。走り高跳びや円盤投げでは見ますが、スプリンターはいないんですよね。なので、サッカーでも足の速いウィングの選手はあまりいないですね。その代わり彼らはテクニックを磨いたり、思考スピードを早くしたりすることに昔から取り組んでいますし、それが育成でも重視されています」
では、その中からどのように優秀な人材を発掘していくのでしょうか。クロアチアの育成システムは非常に興味深いものでした。
ユニフォームのサイドにはクロアチア代表ユニフォームでもおなじみの紅白の市松模様がデザインされている。(写真提供:長束恭行)
「例えばディナモ・ザグレブ(首都にある国内強豪チーム、過去に三浦知良選手も所属。モドリッチ選手がユース時代から2008年までに所属していた)の選手たちはクロアチアサッカー協会のディレクターであるロメオ・ヨザク氏が作った代表強化の方針に基づいたプログラムを取り入れています。このプログラムは一部リーグのクラブでも取り入れているチームがあります。代表の強化に繋がる話では、最も優秀な11歳と12歳の子ども達を県単位で集めて、月に2回づつ行うキャンプを通じてサッカーの基礎を叩き込んでいます。同時に子どもたちの才能や運動能力、キャラクター(個性)をチェックしながら誰が飛び抜けたタレントなのかをチェックしている。彼らのほとんどが国内の優良クラブに入団し、そこの下部組織で育成されています。つまり、代表のセレクションは11歳から始まっているのです。協会は、国内児童のタレントをほぼ把握しておりU-14に選ばれるような選手はキャンプを経験している選手ばかりです。
その中で12歳からは"ファンクショナルテクニック"、つまり試合で機能する技術を叩き込みます。クロアチアサッカー協会のダイレクターであるヨザクは『AとかBとかCとか、アルファベットがありそこから単語ができる。コーチは基本テクニック(アルファベット)をピッチ上で適用できるように、より応用的なファンクショナルテクニック(単語)を徹底的に教えていく。戦術や試合の勝ち方(文章)を学ぶのは14~16歳だ。』と言っていました。また、選手は素材だけど、それを裁縫し良い服にするのがコーチの役目だとも言っています。コーチ育成に関しては、クロアチアサッカー協会にもコーチアカデミーがあるので熱意のある方が多いと思います」
次ページ:ラキティッチは5カ国語 サッカーだけではなく、勉学も重視
募集中サカイクイベント
関連記事
W杯出場欧州列強 U-12育成事情コンテンツ一覧へ(5件)
コメント
- サカイク
- 連載
- W杯出場欧州列強 U-12育成事情
- 足が速い選手が少ない代わりに技術と思考力で勝負! モドリッチらを生み出したクロアチア、小国ならではの育成事情