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超集中状態! ゾーンに入る方法

吉田沙保里に学ぶ! 超集中状態"ゾーン"に入る方法

公開:2014年4月21日 更新:2024年7月 9日

キーワード:ゾーンパフォーマンスアップフローメンタル吉田沙保里松岡修造集中

一度は耳にした話かもしれませんが、南アフリカワールドカップでベスト16に輝いた岡田ジャパンは、ゾーン(超集中状態)にあったと言われています。「ボールが止まって見えた」と表現されるほどの集中力。トップアスリートなら、一度は経験するそうです。
「ゾーン」とは、集中力が極限まで高まり、自分の感覚が研ぎ澄まされ活動に没頭できる特殊な意識状態のこと。
そんなすごい個人やチームを目の当たりにすると、人は「どうすれば僕もゾーンに入れるの!?」と当たり前のように考えます。
ところが、スポーツドクターとして多競技のチームやアスリートのメンタルトレーニングを務める辻秀一氏は、ゾーンという現象について、次のように説明してくれました。
シュート
取材・文/清水英斗 写真/田川秀之・サカイク編集部

<目次>

1.ゾーンには簡単に入れない? 吉田沙保里さんの言葉
2.ゾーンの準備段階「フロー」状態を作る

■ゾーンに簡単に入れるわけがない!

「基本的に、ゾーンには入ろうと思って入れるものではないです。以前、報道ステーションという番組で、松岡修造さんと一緒にレスリングの吉田沙保里選手のインタビューに行きましたが、そのとき修造さんは『ゾーンを目指して必死にメンタルトレーニングをやった』と言っていました。
そうしたら吉田選手はこう答えたんです。『修造さん、ゾーンに入ろうとするから、ダメなんですよ』と。まさにその通りで、ゾーンは入ろうとして入れるものではないです。
ボールが止まって見えるような、一生に何回あるかという現象を、安易に求めても無理です。ゾーンは究極のメンタリティーですから、それを求めすぎたり、とらわれすぎたりすると、逆にゾーンから遠ざかります」
ゾーンは偶然性が高く、それを意識してコントロールするのが難しい。そうではなく、ゾーンがやって来るように、日頃から心にエントリーをして心創りをしておくこと。そのマネージメントこそが大切であると辻氏は言います。
「意識するべきは、ゾーンの手前の"フロー"という心の状態を作ることです。揺らがず、とらわれず、流れがあり、集中とリラックスが同時に行われているような、一言で言えば"余裕"や"ごきげん"な状態。
それがフローです。自分の心をフローの状態に切り替える脳の習慣を持っておき、ゾーンがやってくる可能性がある。その状態を作り出すのが僕の仕事です」
ゾーンの準備段階である、フローの状態。心がスムーズに流れている"ごきげん"を、いかに作り出すか? 
スポーツのみならず、企業で働くビジネスマンの脳トレーニングとしても適用されているそうです。これから4回の連載を通じて、辻氏のメンタルトレーニングをじっくり伺っていきましょう。
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■ゾーンの準備段階「フロー状態」を邪魔する"意味付け"

人間は、第一の脳の機能として"認知"があり、次のような要素と結びついているそうです。
・環境
・出来事
・他人
「環境というのは、たとえば天気やホーム&アウェーといったもの。出来事は、周りの雰囲気や試合の展開など。そして他人とは、相手選手やコーチ、チームメートのこと。
この3つの要素と、僕らの認知の脳は接着して『なにをやるべきか?』を常に判断しています。
こうやって僕の話を聞いているあなたも、メモる、メモらない、うなずく、うなずかない、笑う、笑わないと反応していますよね。
人間はこういう認知に長けていて、スポーツができる人はまさにこの認知の脳が発達しているわけです」
シュートを打つべきか、パスをするべきか、ドリブルをするべきか。キックならば、どの足をどうやって動かすべきか。認知の脳はこれらを判断し、スポーツの技能や戦術を高めてくれます。ところが......
「認知には厄介なこともあります。つまり、人間は環境、出来事、他人に対して勝手に独自の"意味付け"を起こすんです。
たとえば試合時間が残り3分を切って、サッカーで3点差で負けていたら、どんな意味がつきますか? 『ヤバい!』という意味がつきますよね。
しかし、それは脳が作った単なる"意味"なんです。『相手が強い』と言うけど、本当は、"強い"なんてチームは世の中に存在しないんですよ。あのチームが強いと、意味をつけているチームがあるんです。『苦手』という相手も存在しない。
誰かが"苦手"という意味をつけています。『あの審判が嫌い』と言うけど、"嫌い"なんて審判は存在しない。
魔物がひそんでいるオリンピックも存在しないし、魔物がひそんでいるロスタイムもない。僕らは意味付けに支配されて、自分の心の機嫌を悪くしているんです」
オリンピック3大会連続の金メダル、そして世界選手権の14連覇を果たしたレスリングの吉田沙保里選手。常に安定したパフォーマンスを出せる"フロー"の心がなければ、このような結果は出せません。
「吉田選手が世界選手権で負けそうになったとき、残り3秒で逆転勝ちをした試合があるんです。松岡修造さんが『ああいうとき、焦ったりしないんですか?』と聞いたら、吉田選手は逆に『みんな焦るんですか?』と聞き返してきて、『普通は焦るじゃん』と。
だけど吉田選手は、『ただ一生懸命にやっていればいつも一緒で、それが楽しいんじゃないですか』『今に生きるということだけを意識していればそれでいい』『すべきことにだけ全力を注ぐしかないです』と」
3秒は短い。3点差は厳しい。雨はイヤだ。晴れは気持ちがいい。人間は自分たちが作った意味にまみれて生きています。ところが動物はそうはなりません。残り3分で3点差をつけられていても、犬は変わらず駆け回るだけで、『ヤバい』と意味を付けるのは人間だけと辻氏は言います。
「ただ、僕が言いたいのは『意味付けをやめろ』ということではないんです。自分が意味を付けていることに気づくこと。自分の"揺らぎ"や"とらわれ"は、自分自身が勝手に作り出していることだと、"気づく力"が重要なのです」
良い意味付けはそのまま放っておけばいい。しかし、ネガティブな意味付けから影響を受ける可能性がある。人間はそういう生き物なのだと知っておくこと。それだけで脳はスッキリと楽になり、フローの状態へと近づきます。
次回は、あるJリーグの試合例を用いながら、より具体的にフローを作り出す方法について取り上げます。
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辻 秀一さん
辻 秀一
スポーツドクター。株式会社エミネクロス代表。
http://www.doctor-tsuji.com/
1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業、慶應義塾大学で内科研修を積む。その後、人の病気を治すことよりも、「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、すなわちクオリティーオブライフ(QOL)のサポートを志す。
12年間やっていたバスケットの経験をもとに、スポーツにそのヒントがあると閃き、同大スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学ぶ。99年、QOL向上のための活動実践の場としてエミネクロスメディカルセンター(現:(株)エミネクロス)を設立。
スポーツ心理学を日常生活に応用した応用スポーツ心理学をベースに、パフォーマンスを最適・最大化する心の状態「Flow」を生みだすための独自理論「辻メソッド」でメンタルトレーニングを展開。
エネルギー溢れる講演と実践しやすいメソッドで、一流スポーツ選手やトップビジネスパーソンに熱い支持を受けている。現在、「辻メソッド」はスポーツ界だけではなく、そのわかりやすく実践しやすいメソッドに反響を得てビジネス界、教育界、音楽界に幅広く活用されている。
またドクターという視点を活かし、現在は健康経営という考え方を取り入れた新しい企業の経営の在り方を、産業医として取り組み、フローカンパニー創りに大きな成果を上げている。辻メソッドの真髄を学べる「あなたの人間力を10倍高める心と脳のワークショップ」は、一流アスリートやトップビジネスパーソンから大学生や主婦、コンサルタント、経営者まで、老若男女が参加。心と脳の仕組みをわかりやすく、すぐに実践できるこのワークショップは毎回大きな感動を呼び、受講者から「世界NO.1」との声もあがっている。
また、スポーツの文化的価値の創出を提供するNPO法人エミネクロス・スポ-ツワールドの代表理事もつとめる。複数のスポーツが1日で楽しめるスポーツのディズニーランド「エミネランド」や、スポーツを "する" だけではなく "聴く" "支える" という形でスポーツに触れる機会を独自の形で提供している。
「スポーツを文明から文化」にする活動をミッションに一般社団法人カルティベイティブ・スポーツクラブを設立。2013年より日本バスケットボール協会が立ち上げる新リーグNBDLに東京エクセレンスとして参戦予定。
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取材・文/清水英斗 写真/田川秀之・サカイク編集部

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