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- 「自分で考えるサッカー」を実践しているクラブ・少年団を訪問!
- プレイヤーの選択や判断を尊重する――相模原市相東ユナイテッドフットボールクラブ
「自分で考えるサッカー」を実践しているチームを訪ねるこの連載。第3回は神奈川県相模原市で活動する相東ユナイテッドFCにお邪魔しました。子どもたちをプレイヤーとして尊重しつつ、責任感のあるサッカー選手として育ってもらうためには? 子どもたちの気持ちに寄り添い、意見に耳を傾けながら“サッカー頭”をレベルアップしていくヒントをいただきました。
■日常の光景 選手の選択は絶対的に尊重される
「うちなんかでいいんですか? 特別なことはやっていませんよ」
待ち合わせ場所に現れた相東ユナイテッドFCの代表、尾張敏和さんは笑いながら私たちを迎えてくれました。この日は練習を見させていただきながらお話を伺う予定だったのですが、強風と夕方にかけて大雨という天気予報のため練習は中止に。それでも尾張さんの「グラウンドに行ってみますか? 誰か来ているかもしれない」の一言で、練習場所である近くの小学校に移動しました。
グラウンドに到着すると、3人の子どもたちがユニフォームに着替えていました。強風も中止を決めた午前中の勢いはありません。
「これならちゃんと練習できましたね」
尾張さんは残念そうでしたが、子どもたちは黙々と練習の準備を始めています。
「いつもこんな感じで来た人から準備して、練習を始めるんです」
相東ユナイテッドはもともと二つの少年団がひとつになってできたチーム。15の小学校から選手が集まるため、来る時間も帰る時間も不揃いなことが多いのだそう。集まった選手たちは自分たちができることを見つけて、早く練習に取り掛かれるように準備をしています。
「相東ユナイテッドでは、3年生までは“サッカー小僧”で、4年生からは選手。3年生まではポジションも固定しませんし、全員が試合に出る。子どもたちに選手としての自覚が出てくる4年生からは“プレイヤー”として扱います。こちらの言うことを聞かせるのではなく、プレイヤーの選択や判断を尊重するように心がけています」
地域の子どもを広く受け入れている相東ユナイテッドには、色々な思いを持った選手たちがやってきます。子どもたちがサッカーの面白さに気付いてひとりのプレイヤーとしてプレーし始めたら、あとは子どもたちの考えを尊重しようというのがクラブ全体の方針です。
■すべて任せっきりではない プレイヤーとしての権利と責任
「口を出したくなることもあります。以前は『チームを強くしなければ』と安易に口出しをしていたこともある。でもそれでは、子どもたちのためにならないと気づいたんです」
尾張さんは決してすべてを選手に委ねるわけではありません。それが冒頭の「特別なことはやっていない」という発言にもつながっています。
「だからと言って、選手に何も言わず黙って見ているわけでもないんです。たとえば、こちらからすると間違った判断をした選手がいたとしましょう。頭ごなしに『違う』とは言いません。子どもたちにそのプレーを選択した理由を聞いてみる。すると、ちゃんと答えが返ってくる。プレイヤーとして選択したプレーについては尊重します。だけど、それが3回続いた。3回ともボールを失った。そうなるとそのプレーは正しいのか?そこでは周りの選手にも意見を聞いてみんなで一緒に考えます」
自由の方が難しい。子どもたちが主体的に“考えるサッカー”を取り入れ始めると、考えるための下地、判断するための材料が重要になってきます。尾張さんは子どもたちにプレイヤーとしての権利をすべて与えるかわりに「プレーには責任が伴うことも教えたい」と言います。
■年齢関係ナシ! 大人も子どもも入り乱れるサッカーの原点『夜スペ』
相東ユナイテッドでもうひとつ特徴的なのは、水曜日の夜に行われる通称『夜スペ』という時間です。風間八宏さんがはじめられた小学生から高校生までが一緒になってプレーする「清水スペシャルトレーニング」を参考にしたという夜スペでは、通常練習終了後の19時半から学年に関係なく、指導者、保護者も一緒になってストリートサッカーを楽しむ時間です。
「冬場の練習時間確保に頭を悩ませていたのですが、保護者の方々のご理解もあって、形にできました。夜スペ参加には約束があって、練習を終えて食事をしっかり済ませ、宿題や明日の学校の準備を終えてから参加すること。それを守ればあとは大人も子どもも“いちプレイヤー”としてサッカーを楽しみます」
学年を横断したコミュニケーションで、上級生が下級生の面倒を見たり、自分たちで工夫するようになったりと、単純な練習時間の増量以外の効果も。
「普段は自分たちで判断するためのトレーニング。ここでは厳しいことも言いますが、夜スペではそれを披露する場。子どもも大人にチームメイトとして大声出して要求していますよ」
チーム発足から12年、選手たちの環境作りのためチームバスを導入したり、グラウンドの確保、練習時間の確保に奔走してきた尾張さんは「特別なことをやっているつもりはありません」と強調します。
「こだわらないことにこだわる」これもお話を聞くなかで何度か飛び出した言葉です。
後日伺った練習でも、尾張さんはグループごとに練習を進める選手たちの間をゆっくり見て回り、ときには短く声をかけ、全体を柔らかく見つめていました。
2000年(平成12年)神奈川県相模原市に発足。常に新しい指導技術を取り入れ、豊かな人間性を持ち合わせたクリエィティブな人材育成と選手の技術向上をめざし、相模原市内の双葉小学校、若草小学校で活動している。サッカーの出来る環境を与えてくださった両親や、クラブを支えてくださる人たちに感謝する気持ち、一緒にサッカーの出来る仲間を大切にする気持ち、本来当たり前の事を当たり前に指導する事を心がけている。
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取材・文/大塚一樹 写真/サカイク編集部
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