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蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
少年サッカーの移籍は基本よろしくないのか問題
公開:2019年5月 1日 更新:2019年5月 2日
子どもに悪影響だと感じるチーム。我慢させてきたけど「逃げ」ではなく「避難」と思って移籍を決意。移籍することを伝えたら保護者から非難轟々で毎日文句の電話が......。「裏切り者」「本当は引き抜きでしょ」「もう一生口もききたくないくらい」。
移籍を決意した本人は新しいチームでこれまで見たことが無いくらい楽しそうにサッカーをしている。最初に所属したチームで続けることも大事だと思うけれど、自由に移籍できた方が子どものためになるのでは? とのご相談です。
今回も、スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、ご相談者さまにアドバイスを授けます。参考になさってください。(文:島沢優子)
<サッカーママからのご相談>
はじめまして。悩みを聞いてください。
息子(10歳)が4月から地元のサッカー少年団をやめて、隣町のサッカークラブに移籍しました。移籍理由は、息子本人の意思、監督・コーチの質が悪い、親御さんたちとの価値観の違いです。
当初、子どもの教育のためにも我慢させようと考えて、1年間過ごしましたが、悪影響しかなく、いろいろな人に相談して「逃げ」ではなく「避難」だと思って移籍を決意しました。
しかし、親として失敗したと思っているのは、移籍理由をすべて監督に話をして、同じ学年の親達にも話をしてしまったことです。
その日以来、他の親からの文句の電話が毎日あります。
基本的には、「裏切り者」、「親も友達だとこっちは思っていたのに、なんで事前に相談しなかったんだ」、「もう一生口をききたくないくらいキレている」、「本当は、引き抜きされたんでしょ!」等々の文句です。
これから頻繁にこういう電話が来るかと思うと、たまりません。
うちの子は、チームのエースではないのですが、チーム内のどの子どもも嫌がっているキーパーをずっとやっていました。
恐らく他の親御さんは、自分の息子がキーパーをさせられるのが心配だというのが根底にありそうだと感じているのですが、それは子ども達で解決できると私は考えています。
そこで質問なのですが、合わないからと言ってチームを移籍することは「悪」なんでしょうか?
息子は、いま新しいチームで練習に参加させてもらっていますが、あんなに楽しそうにサッカーをしている姿は見たことがないくらいです。
指導者への感謝、チームの保護者と上手くやることも大事だと思いますが、もっと自由にチームを移籍できた方が子どものためになるのではないかと思っています。
ぜひアドバイスをお願いします。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
まずは、いただいたご質問にお答えしますね。
チームと合わないからと言ってチームを移籍することは「悪」か?
これはすでに、ご相談者様ご自身が答えを出されていますね。「あんなに楽しそうにサッカーをしている姿は見たことがないくらい」と書かれています。
とりあえず今後、また移籍するかどうか、という話になったときのことを想定して少年サッカーの移籍について思うところをお伝えします。
■一番大事なのは「本人の意思」 少年サッカーは移籍は禁止されていない
前に所属したチームについては「監督・コーチの質が悪い、親御さんたちとの価値観の違い」としか書かれていないので、具体的に何があったかはわかりません。
ただ、「息子本人の意思」と書かれています。ここが一番重要です。
子どもが「ほかのチームに移りたい」と言ってきて、親サイドがその理由に納得したのなら、移籍してもいいと私は思います。
つまり、子どもはサッカーは好き。でも、クラブのことはきらい。その理由はもっともだ。しかも、少年サッカーはミニバスケットボールなどと違って、移籍を禁じていない。何も障壁はありません。
一般論として言うならば、親のほうが移籍をリードしてしまうと、親子間にしこりが残るし、子どもにとってマイナス部分も少なくありません。
親が監督やコーチ、ほかの保護者ともめてしまう、わが子の起用の仕方に意見を言ってしまう、といったことがもとでチーム側とこじれてしまい移籍をするケースはよく見聞きします。
親は子どものためによかれと思って動くわけですが、その人たちが子どもに移籍を話すときは「A君もいやでしょ? 移ろうか」と誘導するか、もしくは有無を言わせず大人同士で話をつける場合もあります。特に親御さんが「怒りコミュニケーション」のタイプだと、移籍を繰り返す傾向があるようです。
よって、とにかく子どもの話をよく聞いてあげてください。
加えて、もっと自由に移籍できたほうが子どものためになると思う、ぜひアドバイスを、と書かれています。
では、実態はどうでしょうか。
■海外の育成年代の移籍はもっと前向きで活発
例えば、ドイツなど欧州では、育成年代の移籍は非常に活発です。地元のプロリーグの下部組織にスカウトされて移籍すると、チームメイトやコーチは「頑張ってきて!」と励まします。そして、移籍してうまくいかず、また元のチームに戻ってきても「また一緒にやろう」と温かく迎えます。
これは、サッカーの育成環境にいる大人たちの価値観が、「(チームの)勝利よりも個の育成」というひとつの哲学で貫かれているからでしょう。
対する日本は、「個の育成」が勝利の上に成立すると受け止められているため、同じエリアやブロックでいい選手に出ていかれることを良しとしない風潮があります。ご相談様のお子さんはゴールキーパーとして貴重な戦力だったようなので、風当たりも強かったのでしょう。
よって、私は移籍を自由にすること以上に、「勝利よりも個の育成」の概念を根付かせることが重要だと思っています。どのクラブに行っても、同じ空気感、同じ価値観で子どもがサッカーを楽しめるようにすることです。
勝つことは、サッカーを追求するモチベーションを保持するひとつの動機付けではありますが、あくまで外発的な動機付け。「サッカーが好き」「サッカーってホント面白い」というような、子ども自身から湧き出る内発的な動機付けには叶いません。
しかも、一生勝ち続けることはできません。負け続けると「負けると面白くないからやーめた」「中学になったらレギュラーになれないから面白くないからやーめた」となってしまいます。サッカーを継続する土台をつくるのがジュニア期なのに、日本の子どもたちは足元がグラグラしたままサッカーをしているように見えます。
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