蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2019年8月15日
最後までやり通せとサッカー辞めさせない親をどうするか問題
いつも親の言いなりで自分の意見を言わない小6の子が「辞めたい」と初めて意思表示してきた。チームを辞めるのは残念だけど、自分の意見を言えたことが嬉しいと思っていたら、保護者が退団を許してくれない。
チームより楽しくサッカーできる環境がある、というのが理由だし本人の意思を尊重して退団させてあげた方がいいと思うけど、指導者としてどうしたらいい? と少年団のコーチからご相談をいただきました。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、辞めていく子どものために頑張るコーチにアドバイスとエールを送ります。みなさん参考になさってください。(文:島沢優子)
<<試合を嫌がる息子に自信を持たせるにはどうしたらいいの問題
<U-12世代の指導者からのご相談>
いつも参考にさせていただいております。
保護者としての相談ではないのですが、アドバイスをお願いします。
現在スポ少で6年生を指導していますが、先日ある子からチームを辞めたいと相談を受けました。
その子はいつも親御さんのいいなりで自分の意見を言わない子でしたので、正直に申し上げますとやっと自分の人生を歩きはじめた訳で、残念が半分うれしさ半分でした。
理由を聞くとチームでサッカーの練習をしているより、学校の友達とサッカーをしている方が楽しいから......とのことです。特にチーム内で嫌なことがあったワケではないとのことですが、以前より同様の理由でチームを辞めたいと言い出し、その際は「あと半年間頑張ってみよう」と約束をしたことで目標ができ、これまで続けることできました。
親御さんの考えとしては「一つのことを最後まで続ける経験をして欲しい。最後までやり遂げて欲しい」とのことで、現在退団を許してもらえない状況にあります。
私個人の考えとしては当の本人がチームでの活動を続ける気のないのであれば本人の意志を尊重し、退団させてあげるべきだと思いますが、どうしたらよいのでしょうか。
なにか良きアドバイスがあればと思い、ご相談させていただきます。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
ご相談いただいたコーチと、その親子の付き合いの深さがどれほどかはわかりませんが、もう6年生ですのである程度長く過ごしてきているという仮定でお話いたしますね。
もしかしたら、学年のカテゴリーでコーチが交代するのかもしれませんが、一緒に活動する時間の長さにかかわらずご相談者様はこの親子をご自分なりに把握されているようです。
■「うちの子を辞めさせたいの!?」とならないために、まず保護者の本音を吐き出させてあげる
結論から申し上げると、親御さんと対話したほうがよいと思います。両者ともに大人です。練習の前後に立ち話をするのではなく、一度椅子に座って向き合って話し合ってください。その場合、最初に二つのことを伝えます。
「息子さんの成長をどうすれば支えられるかを一番に考えるという前提で話しましょう」と切り出します。
次に、「息子さんが戦力にならないからやめてほしいなどとはこれっぽっちも思っていない」ということを伝えます。このことは話し合う前に保護者に理解してもらったほうがいいでしょう。
そこをハッキリさせてからでなければ、何を話しても「うちの子が邪魔だからいなくなってほしいのだ」「戦力にならないからやめさせたいんだ」と疑心暗鬼のままコーチの話を聴くことになります。
こうこうこんな理由だから「息子さんの意思を尊重してあげましょう」と言っても、「そんなこと言って、コーチはうちの子をやめさせたいんでしょ!」とならないとも限りません。
習い事にしても、塾にしても、今の小学生の親である30~40代の人たち自身が、親から「ひとつのことを最後までやり抜け」と教えられています。
四文字熟語にもその哲学を表現したものが存在しますね。よく知られるもので「初志貫徹」「有終完美」、難しい表現で「慎始敬終(しんしけいしゅう)」。手抜きせずに、驕らずに最後まで取り組めという意味です。
日本人のメンタリティーの一部であり、悪いことではありません。ただ、やれるスポーツが限られていた昭和の時代に比べると、今は劇的に変化しています。スポーツも、子どもの生活、その可能性、そして社会全体が多様化しています。いろんなことをたくさん経験し、いかに豊かな子ども時代を送るかが、あとの人生の糧になります。
そんなことを話しながら、まずは親御さんの思いを吐き出させてあげましょう。
ひとつのことをやり遂げてほしい旨を子育ての哲学として挙げているようですが、彼らは子どものサッカーに何か思いがあるのかもしれません。やめるのは格好悪いとか、6年生までやったのにひとりだけやめるなんて、と、実は感傷的になってネガティブなこととしてとらえている。サッカーをやめようとする息子イコール、ダメな子と映っているのかもしれません。
■過干渉でなければOK、と親を励ます方向にもっていく
そこで、サッカーをやめることイコールダメなことではなく、成長の証だと話しましょう。
あなたの息子さんはダメな子ではないと伝えるのです。
半年頑張ろうとコーチが話して、そこまで頑張ったこと。
自分からやめたいと言えたこと。
その理由も自分でコーチに説明できたこと。
息子さんは自立しようとしている。そのことを保護者に対したくさん褒めます。あなたの息子さんは素晴らしいよと肯定しましょう。
なかには、親御さんに遠慮して6年生になっても自分の意思を表に出せないケースもある。そのことは中学、高校と自分で進路を選び取っていくべき道を歩むスタート地点としては、非常に危ういことだ。でも、あなたの息子さんは違いますよ。
そんな言葉が、保護者の方のわが子をネガティブに感じるかたくなな心を溶かすでしょう。
彼らを「過干渉だ」と責めるのではなく、過干渉にしなければあなたたちの子育てはOKですよと励ます方向にもっていくのです。
保護者セミナーをしてたくさんの親御さんの話を聴いてきましたが、みなさん子育てに自信をもてずにいます。見本になるのは唯一自分が受けてきた子育てなので、「最後までやらせるべきですよね」とそこに着地点を目指そうとするのです。
したがって、そこをぜひほぐしてあげてください。
さらにいえば、初志貫徹の思想に一番欠けていることは、楽しめていないことは、何ひとつ身にならないということです。最初は「サッカーを6年間頑張る」と宣言したかもしれません(それさえも親が設定した目標かもしれませんが)。ところが、そうではなくなってきた。であれば、ほかの楽しいことを探すことを親は手助けしてあげたほうがいい。
そのことを、ぜひ親御さんに言ってあげてください。
楽しいと思えないことをさせてはいけない。
「じゃあ、サッカーの代わりに何をやる?」と問いかけて、他の楽しみや熱中できることを一緒に探すことを勧めてあげてください。
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