蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2019年11月19日
楽しさ重視のスクールにお金と時間をかけるメリットがあるのか問題
運動神経が悪くて体操やスイミングも、3つか4つぐらい年下の子より下手なほどの息子がサッカーをやりたいと言い出した。きっと試合には出られないだろうし、今より劣等感を持たせたくない。でも、楽しさ重視のスクールは通わせるメリットが見いだせない。
夫婦ともにスポーツができないし、近所の友達付き合いもないのでプライベートでサッカースキルを上げてやることもできない。さらに、親の私自身が「スポーツの得意な子の親」の雰囲気が苦手......。どうしたらいい? とご相談をいただきました。
すべての項目が、ではなくても共感される親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、アドバイスを送ります。(文:島沢優子)
<<チームで一番上手いから? 息子が努力しないんですけど問題
<サッカーママからのご相談>
息子(10歳)は運動神経が悪く不器用な子です。器械体操とスイミングを二年程習っていますが、どれも3、4歳下の子より下手なくらいです。
最近サッカーがやりたいと言い出し、本人が望むならやらせてあげたい気持ちもありますが、団体競技で、なかでも人気のスポーツであるサッカーをやらせることに親としては抵抗があります。
絶対ということはないかもしれませんが、監督やチームの温情以外では試合には出られないだろうし、そのような中でも試合を見ないといけないと思うと耐え難いです。
そもそもスポーツが得意な子や親御さんの雰囲気が、親の私自身が苦手で、息子も年下や気の強い子どもにいじめられるのでは、という心配もあります。
サッカーを始めることで、「自分は出来ないんだ」と今以上に劣等感を持ってしまうのではと子どもが実感してしまうことが人格形成上心配でもあります。
一方で、楽しさ重視のスクールにはお金と時間をかけて通うメリットが感じられません。
私たち夫婦はサッカーやスポーツは出来ませんので相手をしてあげることもできませんし、近所での友達付き合いもないので、スクールにいれるほかなく。
色々と矛盾しているのですが、子どもがこれ以上スポーツが苦手にならず、嫌いにならず、サッカーに参加したりスクールや少年団に入る前に、サッカーに関する基礎が身に付けられる方法はないでしょうか。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談、ありがとうございます。
ご相談文を読んで、お母さんはお子さんをとても愛しているのだなあと感じました。
なぜなら「運動神経が悪く不器用な」息子さんに、器械体操とスイミングを習うことを許可しています。文中に「サッカーをやりたいと言い出した」とあるので、器械体操もスイミングも通いたいと言い出したのは息子さん本人なのだと推測します。
「下手なんだからやめなさい」「やっても無駄」と出来栄えだけを見て辞めさせることもできるのに、お母さんはそれをずっと見守ってきた。「本人が望むならやらせてあげたい」と書かれているように、子どもの気持ちを尊重する子育てをやってきた。とても素晴らしいと思います。
■子どもの「好き」を優先させましょう
ところが、今度はサッカーをやりたいと言ってきた。サッカーは体操や水泳とは少し勝手が違う。試合に出る、出ない。試合に勝つ、負ける。先の2競技よりも、子どもがシビアな局面にさらされる。
試合に出られないのでは?
いじめられるのでは?
劣等感をもつのでは?
お子さんが傷つくと、同じように痛くてたまらず混乱するタイプの親御さんにとって、少年サッカーは(ところによって)ハードな要素がてんこ盛りです。そのため、お母さんが貫いてきた「本人が望むことをやらせてあげたい」子育ての軸が揺らいでしまったのではありませんか?
どこかのチームに入る前に、息子さんに基礎的なスキルをつけさせて、入っても苦労しないよう準備させよう。ところが、最近のスクールときたら「楽しさ重視でお金と時間をかけて通うメリットが感じられない」
こんなんじゃ、ダメじゃん、ってなりますよね。どこかに、サッカーの家庭教師とかないのかな? 何かいい方法はないのかな? と、一所懸命に考えて私にメールをしてくださったのでしょう。
しかしながら、今の子育てのベクトルがゆがんだ状態で突き進んではいけません。ちょっと立ち止まってみませんか。ここは、ぜひお子さんの「好き」を優先する子育てに戻りましょう。そこがお母さんの原点だと私は思います。
■子ども時代の挫折や失敗などかすり傷以下
原点に戻らなくてはいけない理由は、「転ばぬ先の杖」のリスクです。
昨今は、サッカーやったら? 野球やったら? スイミング行ったら? と、親の思惑に振り回されて自分が一体何が好きなのかさえわからなくなっている子どもが少なくありません。
大学生にしても、就職する前に自分の好きなこと、やりたいことが見つからない。それは好きだと感じる機会や、やりたいことかどうかを確かめる冒険をしていない。いろいろな経験を積ませてもらっていないからです。
つい最近も「何の資格取ったらいい?」と大学生の息子に尋ねられ「自分の意思がないんです」と困惑するお母さんの相談に乗りました。このような場合、親がわが子に、あれはダメ、こっちをやれと指示命令してきたことが往々にして影響しています。
そんなふうに指示してしまうのは、子育てのベクトルがゆがんでいるからです。
「子どもに決めさせた方がいいのかもしれないけれど」「好きなことをさせてあげたほうがいいかもしれないけれど」「余計な口出しはしないほうがいいかもしれないけれど」
多くの親御さんが、「子育てに大切なこと」を知っています。つまり、正論は理解しているのです。
ところができない。私も同じ道をたどっていているので、痛いほどわかります。
転ばぬ先の杖を渡してしまうのは、親自身が子どもが失敗したり、苦労する姿を見たくないからです。お母さんも「そのような中でも試合を見ないといけないと思うと耐え難い」と書かれています。
お母さんは、ぜひ達観する力をつけてください。目の前の子どもではなく、私はこの子の人生を応援するのだ。そんなふうにマインドセットを変えましょう。子ども時代の挫折や失敗などかすり傷以下。逆に、早期の栄光や名誉がその先の人生を狂わせることだってあるのですから。
子どもが試合に出られず、途中でサッカーが嫌になれば、やめるでしょう。もっと試合に出られそうなチームへ行きたいと言えば、一緒に考えてあげればいい。でも、子どもがそこで仲間と続けたいと言えば「ああ、そうなんだね。じゃあ、頑張って」と送り出せばいい。試合を見たくないなら見に行く必要はありません。当番などがないクラブを選べばいいし、行きたいチームにそれがあるなら、当番のときだけ行けばいいのです。