蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2020年4月22日
どうすればスイッチが入るの? 息子のサッカーに疲れてきた問題
運動神経がいいとは言えない息子だけど、頑張りたいならと家族総出で応援してきた。だけど、2年、3年とたち運動神経の良い子たちとの差が出てきた。
技術向上のためにスクールにも通っているけど、そこでも後から入ってきた子たちより下のレベルに。本人は悔しいというものの、やる気が出ているように見えず、こんなに協力しているのに親の自分が疲れてきた。やる気スイッチを入れるにはどうしたら良い? 親はいつまで見守るの? という悩みをいただきました。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにお母さんの心を軽くする3つのアドバイスを送りますので参考にしてください。(文:島沢優子)
<<コーチが否定してばかりのせいか自信を無くす息子。移籍したほうがいいのか問題
<サッカーママからのご相談>
初めまして。
長男は、この春から4年生です。地域のサッカーチームに小1から息子たっての希望で所属してます。
元々、運動神経が良いとは言えず、ボールを蹴ったこともない子です。サッカーをやりたいと言ったのも、サッカーに興味があったわけではなく、単純に小学校の校庭で練習している友達が楽しそうに見えたからです。
ですがここまで3年、辞めるなど1度も言わず頑張って来ました。
正直、入った当初は練習に飽きて砂いじりをしていたり、試合の時にボーッとしていることもありましたが、2年3年と経つうちに、サッカーを好きになってきたようには感じます。
地域のサッカーチームなので、親の負担も大きいのですが息子が頑張りたいならと家族総出で協力しています。ただ、ここへ来て運動神経良い子、勘の良い子との差が出てきました。所属しているチームのコーチは、卒団した子の父親達がやっているので、基礎やボールのコントロールの仕方を教えてくれる訳でもないです。
上述の通り息子は運動神経が良い方ではないので、本人の希望で基礎からちゃんと教えてもらえる別のサッカースクールにも通っています。息子の学年だけ周囲からは楽しそうに見えるのか、他の学年に比べて人数が増えすぎて、最近は学年で2チームに分かれることになりました。チームを分けられることに関しては不満はありません。息子の実力はサッカー素人の私でさえ見ていたら分かるので......。
しかし、最近入った子の方が選ばれているのを見ていたら、ここまで息子に協力しているのに疲れてきたのが本音です。
本人は「悔しい」とは言うものの、良いのか悪いのか割り切れる性格なので、その場その場で気持ちをリセットしてしまえるようです。本人がやりたいなら、親は見守ってあげて。いつかはスイッチが入るから。等と聞くので、ここまで信じて見守ってはいますが、周りの子はスイッチが入り出しているのに、と少し焦りもしています。いつまでこの状態なのか、ゴールが見えないので私が辛いのです。
息子のような子はよくいるタイプなのでしょうか。親として、いつまで見守っていたら良いのか分からなくなってきました。スイッチを入れるためにどんなアプローチをしたら良いのか教えていただきたいです。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談いただき、ありがとうございます。
ご相談文を読んで、お母さんはお子さんがAチームでないことや、レギュラーに選ばれないことがとても悲しいのだろうなと思いました。
「親の負担も大きいのですが息子が頑張りたいならと家族総出で協力」してきたというのに、「最近入った子の方が選ばれている」わけですよね。したがって、「ここまで息子に協力しているのに疲れてきたのが本音」なのでしょう。
■自分が思っている以上に子どものサッカーに感情的になっている可能性
私も息子が試合に出られない時期があったので、お気持ちはとてもよくわかります。そして、似たような経験をされている親御さんはたくさんいらっしゃいます。それでも皆さん、息子さんのサッカーを応援しています。『サカイク』の読者の方も、すべての親御さんがわが子がエースでレギュラーというわけではないでしょう。
では、なぜ応援し、サポートしているのでしょうか?
それは、子どもがサッカーが大好きだから。大好きなサッカーに子どもなりに取り組む姿を見ていたいからです。決して、いつかレギュラーになってくれると「信じて見守っている」わけではないと思います。
それプラス、皆さん、子どものサッカーを通して、自分が親として成長していることを実感されています。それなりに競争のあるスポーツで、わが子が負けたり勝ったりする。ダメだったり、良かったり。ジェットコースターとまでは言いませんが、感情が揺さぶられるなかで「親としてどう向き合ったら、わが子のためになるか」を考えます。
親としても、人としても、真価を試される瞬間がすごく多い。ある意味、とてもよい親修行。だから、続けさせられる。まずは、そのことを心に留めてください。
ご相談文に「息子は運動神経が良いわけではない」と二度書かれています。そのことが余程悔しいのだろうなと感じました。ご自分が思っている以上に、実は子どものサッカーに感情的になってはいませんか?
「周りの子はスイッチが入り出しているのに、と少し焦りもしています」
「スイッチを入れるためにどんなアプローチをしたら良いのか」
そのように書かれているので、お子さんが練習をサボったり、やる気のないプレーをしているのかなと思いましたが、ご相談文にはそういったことが書かれていません。スイッチが入らないと言っている割には、意欲的でない姿は何も書かれていません。
ということは、お母さんの中で「スイッチが入る」という意味を何か取り違えてはいないでしょうか?
私は息子さんはすでに、十分スイッチが入っていると思います。なぜならば、運動神経も良くなくて、Bチームで、後から入った子にも抜かれてしまう状態なのに、ずっとサッカーを続けているではありませんか。
「割り切れる性格なので、その場その場で気持ちをリセットしてしまえる」とお子さんのことを表現されていますが、ずっとBチームで、後から入った子にも抜かれてしまう辛さは、恐らく息子さんにしかわかりません。
■「ゴールが見えなくて自分が辛い」を考え直そう
お母さんに、三つアドバイスをさせてください。
まずひとつめ。
お母さんの、息子さんに対する「負の感情」を整理しましょう。
前述したように、彼は厳しい環境にいながら、ずっとサッカーを続けています。ぜひ、このことを褒めてあげてください。
「よく続けているね。それほどサッカーが好きなんだね。だったら、お母さんも卒団まで協力するよ!」
お母さんのこの言葉が、どれだけ彼の力になることか。それこそが親の役目です。
ふたつめ。
お母さんが励ましたからといって、すぐにレギュラーになれるわけではありません。そこで考えたいのは、お母さんがなぜお子さんにサッカーをさせているか? ということです。運動神経が悪いのを克服してJリーガーになってほしいですか? そうではありませんよね。サッカーをすることで楽しく、健康に、健やかに育ってほしいと願っているはずです。
それなのに結果ばかりが気になる。
この「結果主義」を、いまここでお母さんのなかで修正しなければ今後の子育ても大変つらいものになると私は思います。
なぜなら、家庭は子どもにとって安全基地。何かが上手くいかなくても「いいんだよ。君が生きてるだけでお母さんは幸せだよ」という、「無条件の愛情」が子どもの成長には欠かせないからです。無条件の愛情は、子どもが何も努力しなくても、親から笑顔を向けてもらえる状況です。「あなたの髪の毛つやつやでいいねえ」とか「声が好き」「よく食べてくれるからママは嬉しいよ」といったものです。
その逆で、サッカーが上手くないとダメ、成績が良くないとダメといった「条件付きの愛情」では、子どもは常に追い詰められた状態になってしまいます。