蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2020年12月 9日
他の子が成長しないため上の学年でプレーできない。息子を伸ばしてくれないチームをやめたい問題
チームメイトよりはるかに上手い息子。同学年の子が少ないので年齢ミックスの練習もあるが、上達の遅い子がついていけないからと上の学年に合流させてもらえないことに不満がある様子。
また、コーチとそりが合わず苦手で嫌いなため何かあるとすぐ「辞めたい」と言う。何とかしたくて他のチームに行ったら、子どものレベルに合わせて選手を伸ばすような練習をしていて、自分の子がそういった指導を受けられてない現状が悔しくなった。
本人の意思が大事だけど、子どものレベルに合ったチームに移籍させたいというのは間違っている? とご相談をいただきました。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。
(文:島沢優子)
<<何か言えば怒鳴って大暴れ。思春期の中1にどう向き合えばいいの問題
<サッカーママからのご相談>
初めまして。 中1、小5、小3、未就学児のいる母です。
小3の次男の件でメールさせていただきました。
次男の学年は来月入る子含め5人です。サッカー歴は息子ともう一人が年長からやっていて、他の3人は、1年生からこのチームでサッカーを始めた子、サッカー経験ありで最近入団してきた子、近日入団予定の子はサッカー未経験の子です。
親の欲目なしにうちの息子は兄2人を見ているせいか、同い年の他の子より遥かに知識も技術もあると思います。
同学年の人数が少ないので、学年ミックスの練習になることがあります。その際4年生チームに入りたいとこなのですが、未だに2年生以下と一緒でゲームもおだんごサッカーです。
理由は、1年生からやってる子が中々成長しないからです。その子が上についてけないという理由で4年の方に合流させてもらえてない状況です。子どもたちはみんな一緒に上にあがりたいのかなという気持ちは分かりますが、息子の事を考えるとステップアップ出来ないまま止まってる感じでモヤモヤします。
練習を見ていても、その子はやる気あるのかないのか......、という感じでモヤモヤに拍車をかけるのです。
それが原因なのか、これまで何度か練習中や練習後に「サッカーやめたい、行きたくない」と言ったこともあります。ひどい時は大泣きです。
また、コーチのことが苦手かつ嫌いです。それもあり、何かあるとすぐに辞めたいと言います。
私の方でも、今のチームでは伸ばせる所も伸ばせてない状況なので、移籍を考えています。
子どもの気持ちが最優先なのですが、本人の「YES」が出ない限り進められないですよね......。それでも何とかしたくて先日ちょっと他のチームへ体験に行ってみました。
今のチームと全く違うことをやっていて、それを見ていると「子どものレベルに合わせてスキルを伸ばす指導はこうだよね」と感じ、今息子が指導者に伸ばしてもらえていないことがちょっと悔しかったです。
子ども自身にも頑張ってもらいたくて、親のほうが先走ってるかとは思います。 親として失格だと思います。
子どものレベルあった育成指導を受けられる環境にいかせたいのが本音ですが こういうのは間違ってますか??
よかったらアドバイス等あったらいただきたいです。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
結論から言うと、移籍を考えたほうが良さそうです。
「コーチが好きで、仲間とサッカーをするのがめっちゃ楽しい」
そう言える子が幸せです。他者を傷つけなければ、何を言ってもどんなプレーをしても怒鳴られたりしない安心安全な環境でこそ、子どもは最も成長できます。
ところが、息子さんは「コーチのことが苦手かつ嫌いです。それもあり、何かあるとすぐに辞めたいと言う」と書かれています。大泣きして「練習に行きたくない」と訴えています。であれば、何も迷うことはありません。本人が辞めたいと言うのであれば、お母さんが書かれている「子ども自身にも頑張ってもらいたくて、親のほうが先走っている」とは言えないでしょう。
■チームメイトに対して「あの子のせいで」となってない?
ただ、私が移籍を進める理由は、お母さんのおっしゃるように、息子さんが指導者に伸ばしてもらえていないからではありません。
息子さん、お母さん双方に、仲間へのリスペクトや愛着がなさそうだからです。
上の学年である4年生のほうに入れてもらえない理由は「1年生からやってる子がなかなか成長しないから」で、その子が上についていけないという理由で合流させてもらえない、とあります。そのひとりの子どもが息子さんのように上手ではないため、息子さんがステップアップ出来ない。その子を見ていて、やる気があるのかわからずモヤモヤしていることを正直に書かれています。
そのうえ、その上手でない子が原因なのか、これまで何度か練習中や練習後に「サッカーやめたい、行きたくない」と言い、大泣きした、と書かれています。
そういった点から見ると、お母さんも、息子さんも、一緒にサッカーをしている仲間に対して他罰的であるようにうかがえます。「他罰的」は漢字を見た通り、攻撃を他者に向け、その人物を責める傾向がある様子を指します。
無論お母さんも「それが原因なのか」と前置きしているので確かではありませんが、お母さんはそのように推測しています。
お母さんの、わが子にうまくなってもらいたいという親心は非常にわかります。
しかし、同じチームで一緒にサッカーをするのならば、その子ができないことやその子のミスを受け入れるこころがなければ仲間にはなり得ません。自分のほうが上手いからと言って、なかなか技術が身につかない仲間に対する歯がゆさから「サッカーやめたい、行きたくない」と感情をあらわにしてしまうのであれば、チームメイトとは言えないでしょう。
■サッカーに行きたくない理由、コーチの意図を問いかけてみよう
ご相談文を読む限りの印象なので、合致しているかどうかはわかりません。が、ひとつ言わせていただくと、息子さんが「サッカーやめたい、行きたくない」と言って大泣きしたときに「なぜ、やめたいの?」「どうして、行きたくないの?」と問いかけたでしょうか?
「コーチのことが苦手かつ嫌いで、何かあるとすぐに辞めたいと言った」ときも、どうしてコーチが嫌なのか、苦手なのかということを深く掘り下げて尋ねたでしょうか?
私から見ると、思慮深く良いコーチに思えます。3年生にパスすることの楽しさをもっと教えてほしいとは思いますが、例えばひとりだけ上の学年でやらせることをしないのは何か考えがあるかもしれません。そこも憶測で判断せず尋ねるといいでしょう。
加えて、もし私が似たシチューエーションに置かれた親で「なぜ行きたくないの?」と尋ね、息子が「○○君が下手だから、面白くない」みたいなことを発言したならば、鬼のように叱ります。
・上手くいかないことを仲間のせいにするのはスポーツマンシップに反すること。
・サッカーをする資格がないこと。
・技術が追い付かない仲間をカバーし、「ドンマイ」と言ってあげることがスポーツマンシップであること。
それらを伝える絶好の機会としてとらえます。
■「もっと伸ばしてほしい」と親が先走るのは子どもの成長に良くない
その意味で言うと、お母さんは、息子さんのサッカーをどのようにとらえているでしょうか?
サッカーが上手くなって、強豪クラブに行って、ユースクラブか高校サッカーの強豪校に入れるのが夢でしょうか?
これまで何人ものサッカー少年、中学生、高校生、大学生と、わが子のサッカーを応援する親御さんを見てきました。
多くの選手はサッカーを通して大切なことを学び、人生の糧にしていました。それを支える親御さんもサッカーをすることで人として成長してほしいと願っていました。不思議なことに、そういう人たちの子どもたちほど選手としてキャリアアップしています。
その一方で、サッカーをすることで不幸な境遇に追い込まれた親子もいます。小学生時代に何度も移籍を繰り返す人たちです。彼らの話は指導者からも聴くことも多いのですが、そういう子どもはなかなか成長せず、中学や高校に入る前にサッカーをやめてしまっています。
そういった事実を鑑みても「自分の子どもをもっと伸ばしてほしい」「もっと評価してほしい」と、親御さんが先走ってしまうのは、子どもにとってまったくいいことではありません。
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