蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2021年2月10日
気に入らぬなら辞めて結構!? コーチに無視される息子をどう支えるか問題
フル出場の子は毎回同じ。高学年で試合経験をほとんど積めていない6年生。どうすれば試合に出れるか本人がコーチに聞いて、アドバイス通り努力しても報われず。最近では「辞めたい」と口にしたことも。
春からは、今のチームの指導者が中学生のクラブを創設するけど、息子は構想に入っていない。だから別のクラブの体験に参加したら、指導者からの無視が始まった。もうすぐ卒業だし今更波風立てたくないけど、傷ついた息子をどう支えればいい? とのご相談。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、15年以上の取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)
<<仲間からの暴言があるうえ試合に出られない5年生。移籍したほうがいいのか問題
<サッカーママからのご相談>
こんにちわ。
もうすぐ卒団する6年の男児ですが、最近初めてサッカーを辞めたい、と口にしました。中学年の頃には試合もよくでていて、生き生きと頑張っていましたが、高学年になり出場時間が減り酷いときは2分位になりました。
フル出場している子は毎回決まっていて、高学年になり試合経験というものをほとんど経験させてもらえません。
練習時には、次の試合ではお前を......とか次、チャンスあるぞ、などと言われ子どもも「次」に期待し毎日トレーニングに明け暮れていましたが、結局「次」はありませんでした。そして今、息子は指導者に無視されています。
以前、息子はどうすれば試合に出れるのか指導者に聞いたそうです。その時はボールを持っていないときの動き等のアドバイスをもらい、意識し取り組んでいました。
しかし、出場時間は短くなるばかりか出れないという現実。そして、指導者が中学でクラブチームを設立するそうで今のスタメン組をそのまま引き寄せ指導したい考えだと知って、構想に入っていないであろう息子は最近、別のクラブチームの体験練習に参加したのですが、その事が気に入らなかったようで、あからさまな無視が始まりました。
公式戦をあと一つ残している今、親としては荒波を立てたくない一方、子どもが不憫でなりません。
息子にはあなたは何も悪いことはしてないのだから、堂々としていていいんだよ、と言っていますが、息子はそういった態度を指導者にとられたショックが大きく、サッカー自体に拒絶反応を示し始めています。
以前から「自分の指導が気に入らないなら辞めて結構」というスタンスで親の話など全てクレーム扱いで、何を言っても改善される兆しはありません。
早く親子で次のステップへ移行したいと思っていますが、本当に息子がサッカーを辞めてしまうのではないかと不安です。
とりとめのないご相談になってしまいましたが、自信を失っている息子をどう支えればいいのかアドバイスをいただけませんでしょうか。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談のメールをいただきありがとうございます。
なかなか難しい環境に身を置く息子さんを救いたいというお母さんのお気持ちが、相談文から伝わってきました。
まず最初にお母さんにお伝えしたいのは、息子さんにイニシアチブ(主導権)をとらせること。それが何よりも重要です。
■主体性のある子なので、好きにさせましょう
ご相談文を読むと、息子さんは自分から「どうしたら試合に出られますか?」とコーチに尋ねるなどしており、決して主体性のない子どもではなさそうです。自分で考えて自分で決める力を持っているように感じます。
したがって、いま息子さんが心の底からサッカーをやめたいというのであれば好きにさせましょう。ただ、今のクラブの練習に行きたくない、活動に参加したくないだけなのであれば、「無理にいかなくていいよ」と退団させて、中学になってサッカーをする場所を探せばいいのです。今もう2月になり、次のサッカーキャリアが始まるまではわずか2か月。サッカーをしなくても、他のことをして体を動かしてもいいですね。
そうではなく、本当にやめたいというのであれば「じゃあ、中学になって他に何か見つけられるといいね」と言ってあげてください。
「何をしてもいいよ。君が好きなように、やりたいようにしていいよ。お母さんはすべて支持するよ」と言ってあげましょう。
■まずはわが子の気持ちに寄り添うこと
息子さんが自分で動き出すために、お母さんが考えることを三つアドバイスします。
ひとつめは、息子さんの気持ちに寄り添うことです。
別のクラブチームの体験練習に参加したことは、何も悪いことではありません。現在所属するクラブのコーチが立ち上げるチームに進んだとしても、試合に出るチャンスはない確率が大きい。そう息子さん自身が判断したことは賢明だし、何より彼には選ぶ権利があります。
ところが、コーチは「その事が気に入らなかったようで、あからさまな無視」が始まったわけです。最も自分を認めてもらいたい「コーチ」という対象に、無視をされる。このことの辛さをまずお母さんは心から理解しなくてはいけないと思います。どれだけ辛いか、どれだけ苦しいか。
そんな思いを中高の部活動で味わった生徒が自死する案件は、近年もなくなりません。私はそういった案件をいくつも取材してきましたが、彼ら自身、息子さん同様最も認めてもらいたい、褒めてほしい相手に無視されたり、不当な扱いを受けたことに絶望し命を絶っています。
もちろん息子さんにその危険性があるよなどと、脅したいわけではありません。
「あなたは何も悪いことはしてないのだから、堂々としていていい」という言葉が息子さんを追い詰めないでしょうか。
■今回のケースは親が介入してよい。子ども一人に戦わせないこと
二つめは、可能であればコーチと話をすることをお勧めします。
「公式戦をあと一つ残している今、親としては荒波を立てたくない」のであれば、堂々としていろと息子さん一人に戦わせてはいけないと思います。
息子さんと話し合って、息子さんが精神的に活動を続けるのがきついのであれば、すでに申し上げたようにクラブは退団する。その説明をお母さんがしてもいいかと思います。お母さんが何かクレームを発したくらいではコーチの方の考えは変わらないでしょうが、子どもを無視する行為は今後やめてほしいと告げたほうが良さそうです。子どもにもおとな同様に人権があるのですから。不当な扱いをされたときに救ってあげるのは、保護者しかいません。
無論、コーチ側の言い分はあるかもしれません。が、お母さんの書いたことがすべて真実であれば、他クラブの体験に行ったことで大事な選手を無視したりする指導者に、サッカーコーチを名乗る資格はないと私は考えます。この大人の理不尽を、わが子に背負わせるのはあまりに酷です。