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蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
仲間からの暴言があるうえ試合に出られない5年生。移籍したほうがいいのか問題
公開:2021年1月27日
1年の頃からボール拾い。練習したくても一部のメニューにしか入れてもらずチームメイトからも「下手だな」と言われてきた。それが苦痛でやめようとしたことも。それでもあるきっかけで気持ちを持ち直し、上達のためにかけもちで練習を頑張って、試合にも出られるようになっていたのに、県大会でメンバー入りできなかった。
それを知ったチームの子たちから暴言が始まり、泣いて帰ってきた。5年生後半だけど移籍させるべき? ほかのチームでも同じことがある? というお悩みをいただきました。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、15年以上の取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。
(文:島沢優子)
<<努力しないのに根拠のない自信だけはある息子に手を焼いてます問題
<サッカーママからのご相談>
はじめまして。
5年生の息子が市内の強豪クラブチームに通っています。サッカーのレベルはBチームでベンチ頻度が高い子です。
大人しくて人見知りが強く、1年生から入部しているのですが似たタイプの子としか仲良くできません。
1年の頃からずっとボール拾いで、練習をしたくてもパス回しのメニューしかさせてもらえない事も多々あり、チームメイトからも「下手だな!」などと言われ続けてきました。
一時はその環境が苦痛となり、辞めるように話した時期もありましたが、ちょうどそのタイミングで小学校の同級生が入部してきたことで、現在は少しずつまわりとの距離感が縮まりつつありました。
今では「下手だと言ってきたみんなより上手くなりたい!」と地元のチームの練習にも行って、掛け持ちで頑張っています。
いまだに、クラブチームの練習になると周りからの反応に萎縮してなかなか本来の動きができずにいますが、地元のチームでは、周りの保護者から「この子が1番うまいね」と言われるくらい動きもよくなりました。
練習試合でも、Bチームですが試合に長時間出れるようになってきて、本人も自信がついてきたようにも思えました。ですが、最近あった県大会の試合にレギュラー入りできず、ユニフォームさえも与えられませんでした。
県大会に選ばれなかったことを知ったクラブチームの子たちから、またもや言葉の暴力が始まったと泣いて帰ってきました。
今までそれを乗り越え頑張ってきてましたが、この環境ではやはり能力が発揮できないのでは?
このままではサッカーが大嫌いになってしまうのではないか? と感じています。
5年生も後半になりましたが、クラブチームの移籍を検討した方が良いでしょうか? 高学年だとどのチームでも似た現象があるのではないかと心配してしまい、悩んでおります。
何かいいアドバイスを頂けたら大変嬉しく思います。 よろしくお願い致します。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談のメールをいただきありがとうございます。
ご相談文を読むと、お母さんが息子さんをどれだけ大切に思っているのかがよくわかります。また、息子さんがどのような環境でサッカーに取り組んでいたかなど、置かれた境遇は私なりに理解しました。
5年生の3学期という今の時期に、クラブチームの移籍を検討した方が良いのか。まずは、この質問に答えます。
■移籍するかどうかは当事者が決断すること
結論から申し上げると、移籍を検討したほうがいいか、しないほうがいいのかは、私には意見できません。なぜなら、それは当事者の息子さんが決めることだからです。他人である私はもちろんのこと、お母さんが検討することではないからです。
お母さんの相談文を読むと、息子さん本人が「こうしたい」「こう思っている」などと、彼が意思表明をした話が出てこないのが気になります。それをお母さんがメールに書かなかっただけで、彼が「移籍したい」「チームを移りたい」と自分の意見を述べているのであれば、一緒に考えてあげればいいと思います。
■気をつけなければならないのは「移籍までのプロセス」
ただし、ひとつ気をつけなければならないのは、移籍までのプロセスです。例えば、彼が移籍したいと希望する理由は、以下のものでしょうか?
「試合に出たいから、出場機会を求めたい」
「いじめがひどくて、もう我慢できない。いじめてくる友達にはいつも抗議しているし、コーチにも自分から話して相談したけれど、収まらない。違う環境でサッカーをしたい」
「自分で移籍先も考えている。一緒に見学に行ってほしい」
以上のように、自分自身で状況を打破するためにいろいろ努力していたけれど、変わらない。だから移籍したい。そんなふうに息子さんがしっかり意思を示しているのであれば、彼が率先垂範してチームを探し出してきた情報に対して、一緒に考えて意見を述べるなどして手伝ってあげればいいと思います。
一方で、もし、息子さんがそういった意思を表明していないのであれば、特にお母さんが動く必要はないでしょう。
あるとすれば、「あんまり辛いなら、チームを変わっていいよ。自分で探しておいで」と、環境を変える方法もあることを伝えればいいと思います。小学5年生とはいえ、最上級生の6年生はすぐそこです。コロナ禍でオンライン授業も受けているでしょう。ネットでも何でも使えるはずです。
ここは、自分で道を切り拓く力をつけてほしいと考えます。したがって、お母さんは息子さんの好きにさせておけばいいのです。
■今のままではお子さんがこの先嫌な経験をしたとき「お母さんのせいだ」となる可能性も
私は、息子さんが移籍したほうがいいか云々よりも、お母さんが綴っている息子さんの身に起きるかもしれないことへの不安の強さが気になります。
この環境ではやはり能力が発揮できないのでは?
サッカーがこのままでは大嫌いになってしまうのではないか?
高学年だとどのチームでも似た現象があるのではないかと心配してしまい、悩んでおります。
ご自分で読んでみていかがでしょうか。
「この環境」と書かれていますが、さまざまなことを他罰的にとらえてしまってはいませんか。例えば「息子がサッカーを上手くならないのはチームのせい」「楽しめないのは仲間のせい」と、こころの中で思ってはいないでしょうか。
どれも、完全に息子さんのサッカーが完全に「自分事(じぶんごと)」になっていませんか。親が子どものネガティブなことに同化してしまうと、ついつい「転ばぬ先の杖」を用意してしまいます。転んでもいないのに杖を渡すので、足腰は鍛えられません。
そして、親の選んだ方向にばかり引きずられると、そこで何か嫌なことが起きたときに「お母さんが移籍させたからだ」と、子どももまた"他罰的"になってしまいます。
■良かれと思ってやったのちに「自分で考えさせれば良かった」と後悔する親たち
サッカーの育成に関する取材を始めて15年以上経ちます。
出会った何百組もの親子さんで、親御さんが先に先に杖を用意したり、道をこしらえてしまった人たちは、後でみなさん後悔していらっしゃいました。
「自分で考えさせれば良かった」「選ばせればよかった」
そうおっしゃるのです。
その時は「良かれと思って」親が動いたことはほとんどの場合、子どものためになっていないことのほうが多いのです。子どもが何かに取り組む際のモチベーションに、「外発的動機付け」「内発的動機付け」があります。外発的動機付けは、親に言われたり、コーチに「こうやれ」と命令されること。内発的動機付けは、自分から「こうしよう」「こうしたい」と考えたものです。いわずもがなですが、内発的な動機付けのほうが、子どもは大きく成長します。
息子さんのサッカーは「他人事」だと心得ましょう。
彼がサッカーを大好きになれる環境はどんなものか。
そんな提案をして、本人に選ばせることが重要です。そして、少しずつでいいので自分でさまざまなことを選べる人間にする。それがお母さんの役目だと思います。
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