蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2021年6月23日
父親が自主練に付き合わないと子どもは上手くならないのか問題
幼稚園から「サッカーをしたい」と言っていたが年齢的に通えるクラブがなく、小学校入学とともにようやくこの春入会。チームの理念に共感して入会させたが、入ってみたら下から数えた方が早いぐらい下手なことが判明。試合中はほかの保護者にヤジを飛ばされるぐらいトンチンカンなことをしている。
なんとか子どもを上手くしたいが、夫はサッカーに興味がない。自分が練習に付き合うものの、サッカー経験もないし、どうしたらいいかわからない。というお悩みをいただきました。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんに3つのアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
<<子どもが次々辞めていくためコーチが病んでしまい困っている問題
<サッカーママからのご相談>
こんにちは。先日サカイクの記事を初めて拝見し、分かりやすいお答えに私も相談してみたくなりました。
現在7歳の息子についてです。
息子は年中からサッカーをやりたいと言っていましたが、幼稚園児から入会できるクラブが近所になく、ずっと我慢させていました。
この春小学校に入学し、子どもが自分で通える範囲にクラブチームがあることを知り、チームの方針「自分で考え行動する。親は口出ししないで」に共感したので、軽い気持ちで入れてしまいました。
入会したところ、チームの子たちがとても上手く、息子は下から数えた方がいいくらい下手なことが判明。運動が苦手な子ではなかったので、驚いてしまい......。出来ているのはチームの方針である「自分のことは自分でやる。リーダーシップをとる。試合中に声を出す」くらい。
試合中はうちの息子へ他の保護者がヤジを飛ばすくらいトンチンカンなことをしています。本人が気にしているかどうかはわかりませんが。
どうにかしたく、上手な子のママさんにそれとなく相談したところ、パパが付き合って家でもかなり練習しているとのこと。
夫は他のスポーツに夢中でサッカーは眼中にありません。私が練習に付き合えば良いのでしょうが、仕事をしているため公園に付き合えるのは日曜のみですし、何よりサッカー経験がないのでどうもうまく指導できません。
幸いなのは本人が楽しく通っていることですが、息子が上手になるために、私ができることは何かありますでしょうか?
もう少し成長するとヤジの意味も分かって、モチベーションが下がることもあると思うので、楽しんで続けるためにもスキルアップのサポートができればと思っています。
親としてどうすればいいか、アドバイスをお願いします。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
冒頭の「記事を初めて拝見し、分かりやすいお答えに私も相談してみたくなりました」というコメント、非常に嬉しいです。連載を112回も続けていると、「こんな書き方するなんて」と否定されることはあっても、もうどなたも褒めてはくれません(笑)。
さて、本題です。
結論から申し上げると、お母さんは息子さんのサッカーに関して何もしてはいけません。一切、口を出さない、手を出さないこと。そうしたほうがいいと私が思う理由は、三つあります。
■子どもが下手でつらいのは親なのでは? 低学年で上手い下手は関係ない
まずひとつめ。お母さんは、大きな勘違いをしていないでしょうか。
スポーツは下手でも楽しめます。
「少し成長するとヤジの意味も分かって、モチベーションが下がることもあると思うので、楽しんで続けるためにもスキルアップのサポートができれば」とおっしゃっています。が、スキルアップしなければ、つまり、上手くならないと楽しんで続けられないわけではありません。現にお母さんが「幸いなのは本人が楽しく通っていること」と書かれているように、息子さんはサッカーを楽しんでいます。
子どもが上手でないと、サッカーを楽しめないのは親御さんのほうかもしれません。私のこの連載へも、子どもが上手くならない、レギュラーになれないことで悩む保護者からたくさん相談が舞い込みます。多くがお母さんのように低学年のお子さんの保護者です。6歳、7歳の子どもは、自分が上手いとか下手とか才能があるとか、そんなに気にしません。仲間とボールを追って体を動かしているのが楽しい時代なのです。
そんな低学年の今から、「息子は下から数えた方がいいくらい下手」などと息子さんを批評するのはやめましょう。「運動が苦手な子ではなかったので、驚いてしまい......」と書かれているように、お母さんは少しショックを受け、焦っていらっしゃるようです。親が焦燥感でいっぱいで冷静になれていないときに何かをしても、ほぼ100%子どものためにならない。これが二つめの理由です。
■父親がサッカーについてあれこれ言ってないのは良いこと
そして、三つめ。相談文の端々から、今のお母さんは息子さんのサッカーに関して、過干渉気味のようです。
息子さんがサッカーのスキルが周りに追いつかないから「どうにかしたい」とお母さんが思っても、どうにもなりません。本人が「もっとうまくなりたい!」と思えば、勝手にやり始めます。
お父さんに自主練をやらせようと考えたけれど、お父さんは他のスポーツに夢中なのですね。ここを読んで「良かった!!」と私は思いました。わが子に自主練を強要するなど、熱くなってしまう父親が子どもからサッカーを楽しむマインドを奪っているケースが非常に多いからです。
あれこれ言われて素直に従えば、子どものマインドは指示待ちになり、主体性や自立する機会を奪います。
■親ができるのは正しい生活環境を整え、子どもに安心を与えること
以上、お母さんが息子さんのサッカーに干渉しないほうが良い三つの理由に賛同いただけるようなら、ぜひ何言わず見守ってあげてください。
美味しい食事を作り、早寝御早起きさせて、朝ご飯を食べさせる。正しい生活リズムで過ごしていれば、息子さんは健やかに成長するはず。この時代は、生活の中で「恒常性」がとても大事です。いつもと同じ仲間、同じ場所、同じコーチ。「同じ環境」で安心してサッカーができれば、それで良いのです。
■チームの方針ができている息子さんは素晴らしい子
しかも息子さんは、私から見ればすでに「素晴らしい7歳」です。チームの方針である「自分のことは自分でやる。リーダーシップをとる。試合中に声を出す」ができていると、お母さんも書かれています。そこを、まずは褒めちぎってあげてください。
これができるということは、お母さんのここまでの子育てが何ら間違っていなかったということです。
いくら試合でゴールを量産するくらい上手でも、自分で自分ことができない、自立できない子どもはたくさんいます。12歳くらいでもいます。ぜひ、わが子を見る視点を変えて子育てしましょう。
■6年の間で大きく伸びる子も多数。低学年で力は計れない
加えて、小学校6年間で子どもはこれからどんどん変化します。「低学年では力なんて計れない」は、少年サッカーのコーチがみなさんおっしゃることです。
サッカーの認知力(どんなふうに点を取るのか、どう動けばいいのかといった力)がついてくると同時に、体格も変化してきます。背が伸びたり、伸び悩んだりもあるでしょう。低学年で目立たなかった子がエースになったりします。その成長のプロセスを支えるのは、何だと思われますか? それは「サッカーが大好き」という気持ちです。