蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2022年2月16日
Bチームで苦しむ中学生の息子にどんな言葉をかければいいのか問題
フィジカルはないが足元の技術を買われ全国レベルのジュニアユースに昇格できたけど、一度もAチームにあがれない。
自分自身もサッカーをしているので苦しんでいる息子の努力はわかるが、なんて声をかければいいかわからない。中学生に過保護かもしれないけど、最善の対応を教えて、と苦悩するお父さんからのご相談。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、親、子それぞれのためにアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<自分は下手だからと卑屈になってモチベが落ちないか心配です問題
<サッカーパパからのご相談>
中学2年生の父です。
サイトに「ジュニアサッカー」とあったので、ジュニアユースも対象かと思ったのですが、主に中学にあがる前の保護者が対象のようですね。
中学生にもなって親が出てくるなんて過保護だと思われるかもしれませんが、相談させていただけますでしょうか。
息子は全国に行くレベルのクラブのジュニアユースに在籍しています。小学生から所属しており、「速い」「高い」といったフィジカルを全く持ち合わせていませんが足元の技術を買われ、ジュニアユースに昇格しました。
現在中学2年ですが、Bチームで一度もAに上げてもらえません。
私自身もサッカーを未だにしている為、息子が日々努力しているのはわかります。そういった息子に日々どういう言葉をかけたら良いか悩んでいます。
息子が小学生の頃は、サッカーに対してはかなり厳しく言って来ました。
しかし、中学生になりBチームで苦しんでいる息子に対して本当に最善の言葉がみつかりませんし、とても苦しいです。
何か参考になる対応を教えていただけませんでしょうか。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談いただき、ありがとうございます。
お父さんの苦悩が伝わってきて、読んでいるこちらも苦しくなるようなご相談です。小学生までは厳しく言ってきた、と書かれているので、今まではお父さんは息子さんのサッカーに介入されてきたのですね。
■親の言うことに耳を貸さない時期。見守りに徹して
でも、もう中学2年生で親の言うことには耳を貸さない思春期です。お子さんのサッカーにタッチするのは難しいでしょう。
「何か参考になる対応を」と書かれています。お父さんの私への要求はもしかしたら、息子さんを励ます金言などでしょうか。もしそうであればがっかりさせてしまうかもしれません。結論から申し上げると、見守りに徹することです。
■友達との揉め事を見てたのに何も言わなかった父のエピソード
高校女子サッカーの強豪・京都精華学園高校で監督を務めていらっしゃる越智健一郎先生のお父様とのお話を紹介します。お父様はすでにになり指導の一線からは退かれましたが、男子の高校サッカーで強豪チームを育て上げた方です。つまり、親子二代教員であり、男女の違いはありますが全国大会上位へ駒を進めるチームの監督というわけです。
越智先生がサッカー少年だった頃。近くの空き地で、毎日のように友達と延々と一対一に明け暮れていました。サッカーが楽しくて夢中になっていました。しかし、子どもなのでちょっとしたいざこざや、いさかいがあります。ある日、ちょっとしたことで揉めてしまい、友達が被っていたニット帽をむんずとつかんで、地面に叩きつけてしまいます。
バシッと投げつけた瞬間、越智少年が見たのは、金網の向こうに自転車にまたがったお父様の姿でした。一部始終を見届けていたのは明らかです。それなのに、何も言わずじっと見つめていました。動揺して先生が目をそらすと、次に見やった時はもうお父様はもうそこにいませんでした。
ニット帽を投げつけたところを見られ家に帰りづらくなったけれど、あまり遅くなれば逆に叱られる。観念して帰宅したそうです。
「ただいま」
家に戻った息子の顔を見ても、お父様は何も言いません。家族の食卓が始まり何事もなかったように一日が終わりました。
(お父さん、絶対、金網の向こうで見てたよな)
でも、結局翌日になっても何も言われませんでした。
■保護者は子どもが自発的に動いていくための介助者的役割
越智少年は、何も言わないお父様の態度があったからこそ、自分の行いを振り返ります。こうして、善悪や人としてどうあるべきかを学ぶのです。そして、そのときのことをこう振り返ります。
「教師は怒ること、教えることが仕事じゃない。子どもが自分で感じて、理解して、成長していくために、自発的に動いていくための介助者的役割なのかなって、何十年も経って思い知らされます」
A先生は教師の矜持としてこの出来事をとらえていますが、これは教師のみならず保護者にも通じるもの。子どもが主体的に自分の課題や問題に立ち向かえるよう、介助する。それこそが親の役割なのだと思います。
コーチや子どもに寄り添う大人のマインドセット(心構えみたいなもの)は、昭和の時代まではスパルタ的に強く引っ張っていく、リードしてくようなイメージでした。先日亡くなった石原慎太郎氏が1969年代に『スパルタ教育』という本を著しているほどです。この本を家の本棚から見つけ、ああ、父親がすごく叩き始めたのはこの本の影響なんだと理解した記憶があります。
■中学時代、親に「こうすべきだ」と言われ素直にありがとうと思えたか
ご相談者のお父さんも、もしかしたら親御さんからそのような教育を受けてきたのではないでしょうか。しかし、時代は大きく変わりました。現在は「サーバントリーダーシップ」といって、大人は子ども(生徒や選手)にサーバント(使用人)のように彼らが「こうしたいんだけど、どうかな?」と言ってきたときに大きな力になる。それが目の前の子を大きく成長させるカギだと言われています。
皆さん「何を言えばいいですか?」「どうふるまえば?」と言葉を知りたがります。でも、それぞれご自身の中学時代を振り返ってください。親や教師から、ああしろ、こうすべきだ、おまえはここを直せと言われましたよね。その時に、そうだね、そうします。大人の皆さん、本当にありがとう! なんて思ったことがありますか? 少なくとも私はありません。
ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、自分の言葉で子どもが変わるなんて思わないほうがいいでしょう。たかだか数十年長く生きてきたからといって、私たち大人にそんな力はありません。しかも、私たちが子どもだったころとは全く違う世の中を彼らは生きているのです。