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楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた

ダメなことをしたのに上手ければ出場できるの? 厳しさのなかでサッカーを楽しむのに大切なもの、真の育成とは

公開:2018年8月29日 更新:2018年8月30日

キーワード:アスリートノブレス・オブリージュ指導者社会的貢献自分を磨く

サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜経済大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。

聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。

高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。

日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。

根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。これから数回にわたってお送りします。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)

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厳しさの中でサッカーを楽しむために大切なものとは(写真はサカイクキャンプ)

■バスケの買春問題に見る、日本人の「トップアスリートの社会的責任」への意識

ジャカルタ・アジア大会のバスケットボール男子日本代表選手4人が公式ウエアで市内の歓楽街を訪れ、買春行為に及んだことが発覚。事実上の選手団追放というかたちで帰国させられました。当然ですが、サッカーの日本代表のすそ野が少年サッカーであるように、バスケットの代表もミニバスケットの選手や指導者らに支えられています。

あまりに自覚のない行動は強く批判されましたが、中には「選手は聖人君子ではない。普通の人間だ」という意見もありました。男性だからそういうこともあるだろう、という見方。つまり、日本人はトップアスリートに高い人間性を求めていません。


スポーツ界の人間として若干自虐的に表現すると、「スポーツ選手ってその程度でしょ」という感覚だと私はとらえました。

一方で、日本よりもスポーツ文化が根付く欧米は、感覚がかなり異なります。特に欧州では、国を代表するようなアスリートに対し「ノブレス・オブリージュ」が求められているように感じます。


フランス語であるノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)とは、直訳すると「 高貴さは(義務を)強制する」。財力や権力、社会的地位を保持する者、また一流のスポーツマンとなる特別な素質を授かった者には、社会の模範となるように振る舞う社会的責任が伴うことを指します。

ところが、スポーツが文化として完成されていない日本では、選手にそのような意識は乏しいうえに、社会もノブレス・オブリージュを彼らに求めたりしません。非常に残念ではありますが、それが現実なのです。

■体罰なんかよりずっと堪える「恥ずかしい」という思い

前回のこの連載では、スポーツを楽しみながら成長するには「三つのこころ」が必要で、そのひとつめが「自分を大切にする」(=自分を磨く)という視点だという話をしました。

自分を大事にするということは、自分さえよければいいということではありません。自分を大切にしない(=自分を磨かない)と、人は成長できません。成長できなければ、人に頼る回数が多くなるでしょう。


「助けて」「教えて」「お金貸して」

人間は仲間同士助け合うべきですが、人に頼り過ぎることは迷惑につながります。一方、自分を大切にしている人は自分を磨くため「自分でできること」がどんどん増えていきます。

自らを律する。

正しい選択をする。
自分の立場を踏まえた行動をする。
そんなことが当然のこととしてできるようになります。「ノブレス・オブリージュ」のベースが少しずつ身につくわけです。

子どもが練習中に真剣に取り組まず、ふざけて仲間に迷惑をかけると、私は「真剣にできないなら、もう今日は帰ろうか?」と問いかけます。私が教えている大学生は「スポーツマンのこころ」を理解しているので、全力を尽くしていないプレーをしてしまった時に私から「今日はもう無理だな。帰ろう!」と言われると、すごく恥じ入ります。

「ああ僕は自分を大切にできなかった(磨けなかった)。おまけに力を抜いたプレーでみんなの楽しさも壊してしまったかもしれない」と。以前に帰したある選手は「一発ぶん殴られてピッチに戻してくれた方がまだましだと思いました」と振り返っていました。体罰など決してしませんが、"全力を尽くせないならば帰ろう"は、体罰よりずっと堪えるわけです。

ところが、日本の指導者の中には、選手のプレーに腹を立てて「帰れ!!」と怒ったにも関わらず、選手が本当に帰ってしまうと、今度は「なぜ帰るんだ!!」と怒る人がいます。選手が「すみませんでした」と謝るのを待っているのでしょうか。

■心の底から反省するまで試合に出さない。人としてダメなことはダメと叩き込むのが真の育成

さらにもっとやってはいけないことがあります。
例えば、チーム内のうまい子が、勝ちへのこだわりを強く持ちすぎている場合などに、あまり上手にプレーできない仲間に対して文句や悪口をいってしまうことがあります。

すると、ドイツでは指導者が真剣な表情と強い口調でその子を呼びます。
「ちょっと来なさい。もう君は家へ帰りなさい。君は今何をしたかわかっているか? ここは上手い下手に関係なく、みんながスポーツを楽しむために、とことん真剣に勝負にこだわってプレーする場所だぞ。君に真剣さや勝負へのこだわりがあったことはコーチも認めるけど、君が今やったことは仲間の楽しさを壊すことだ。仲間の楽しさを壊す権利は誰にもない。だから、今日はもう帰りなさい」

そして、そのような言動を心の底から反省し、消えるまでは試合に出しません。その子がどんなに上手くて、その子がいないと負け続けるかも知れなくても、試合には出しません。

もし自分が試合を楽しみたいのであれば、仲間の楽しさも奪ってはならない。これをちゃんと教えられることで、この子は仲間の悪口を言わないようになっていきます。どのくらい時間がかかるかはわかりません。1週間なのか。1カ月なのか、半年なのか。自分の感情のコントロールをおぼえるのです。

自分の感情のコントロールを覚えた後に試合に出た時に彼の仲間に対する態度プレーは大きく変わります。
「ドンマイ。ミスは気にするな。僕が取り返す」
そうすると彼は仲間から「サンキュー。やっぱりおまえすごいよな。うちのチームに絶対必要だよ」と認められるわけです。


こうして、個人もチームも成長する。それが真の育成です。


「人としてダメなことはダメなのだ」

プレー以前の問題として、こういったことを叩きこむのです。

次ページ:一番かわいそうなのは誰?

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監修:高橋正紀 構成・文:「スポーツマンのこころ推進委員会」

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