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楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた

苦しくて余裕がないと難しいけど... 仲間を大切にした"徳"は必ず自分に還ってくる

公開:2018年9月27日 更新:2020年7月21日

キーワード:スポーツマンのこころスポーツマンシップ同調圧力指導者挑戦自己肯定感

サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜経済大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。

聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。

高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。

日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。

根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。これから数回にわたってお送りします。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)

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写真は過去のサカイクキャンプです。サカイクキャンプでは挑戦することを大事にしています

■ミスしたらイヤだから弱いパス。子どものころから植え付けられているリスク回避思考

テニスの全米オープンで日本人初のグランドスラム制覇を成し遂げた大坂なおみ選手が先週、日本で凱旋試合を行いました。惜しくも準優勝でしたが、女王になってもまったく偉ぶらない自然体の様子には好感が持てました。

そんな彼女の全米ファイナルでの戦いぶりを例にして、試合を大切にするこころについて前回お伝えしました。そこで少し触れた「仲間を大切にするこころ」を、今回もう少し詳しくお話ししましょう。

サカイク読者には指導者の方も多いと聞きますが、僕も時折子どもを指導します。
目につくのは、子どもがゆるいパスを出すこと。「もっとパススピード上げて!」と言っても、なかなか強いパスを出しません。

みなさんは「いや、受ける相手のことを考えて、丁寧に出しているのでは?」と考えられますか? 本当にそうでしょうか。実は「自分も強いパスを出されてミスしたら困る」と考えるのではないか。そして、この現象は小学生だけでなく、中学や高校生、そして大学生年代にも起きているように感じます。

そんな子どもを見かけると、大人は「もっと強いパス送れよ! なあなあでやるなよ!」などと叱りがちですね。妥協するなというこの叱責の意味を、子どもは理屈では理解するでしょう。
ですが、前述したように、彼らは「自分もミスしたら嫌だから、弱いパスを回そう」と考えています。

そうなってしまう理由はあとで話しますが、そんな回避志向が小さいころから積み上げられています。それは、大人の強い言葉だけでやすやすと変えられません。

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(C)高橋正紀

よって、ここでは「強いパスは、相手への思いやりなんだよ」と伝えましょう。
強いパスを今はトラップミスすることがあるかもしれないけれど、僕らのチームはそのスピードでプレーすることを目標にしよう。強いパスを送らなければ、受けるほうもトライできない。強いパスが蹴れるかは君自身のトライ、そして、それをしっかりと止められるかは相手のトライ。お互いに、トライを積み重ねてこそ成長があるんだ――そう話してください。

■上手くない子はおろそかに扱ってもいいのか? いじめの遠因になりかねない心理

古い話で恐縮ですが、かつて日本代表の絶対的なエースだった中田英寿選手は、新人だった湘南ベルマーレ時代から鋭いスルーパスを出していました。味方がそのスペースをつくべきだと気づいていなくても、パスを出しました。当然ミスになりますが、本来はそこに動いたほうがいい、というメッセージです。

彼のやり方に周囲の成熟がついていけない場面もあったと記憶しますが、選手たちは創成期のJリーグでぶつかりあって成長していったのだと思います。

ぶつかり合いは子どもにもあります。
子どものサッカーを見ていると、上手い子が、ミスした他の子をなじったりします。よくあることです。そんなとき、私はこう言います。
「ここにおろそかにしていいメンバーはひとりもいない。仲間の悪口を言うならグランドから出ていきなさい」

誰にとっても「自分」は大切なのだから、一緒にサッカーをする仲間の「自分」も大切に扱うべきです。

そんな理屈が子どもたちの心に届けば、サッカークラブどころか学校内のいじめも減らせるはずです。

成人したアスリートでも、仲間のなかの「自分」を大切にする意味をまだまだ理解していません。
ある大学で日本でもトップレベルの運動部活動を指導しているコーチは、現役時代から指導者となった現在までに私の「一流のスポーツマンのこころ」の講義を3回聴いたそうです。「まだ現役だった時代に高橋先生の話を聞いて、肩の荷が下りました」とほっとした顔で話してくれました。

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(C)高橋正紀

キャプテンだった彼は、チームをまとめるためには、練習や試合でミスを繰り返したり、自分に負けてしまう仲間たちに「何やってんだよ!」などと暴言を吐かなくてはいけないと考えていました。
「(リーダーである)自分が言わなければ、と思っていた。暴言を吐くことで、チーム(の空気)が締まると」

ところが、私の講義を聴いた彼は「僕はそうやって仲間の楽しさを壊していたんだ」と気づいたそうです。
彼はそれから、態度を変えました。仲間がミスしたら「ドンマイ」と励まし「次、やろうぜ」と鼓舞し、練習が終わった後にアドバイスをする様にしました。

めちゃくちゃミスを繰り返す仲間。苦しいとき、なんで自分がカバーしなきゃいけないのか? と怒りがわいてくる。でも、それは自分のためだと彼は考えました。ここでチームメイトを身捨てたら、自分はもっと苦しくなる。だから仲間のためにプレーしようと決めました。

そうすると、バテてしまって彼が追い付けなかったボールを仲間が拾ってくれる場面が出てきました。
つまり、徳を積むことが、結局は自分に還ってくるわけです。

次ページ:同調圧力が高く出る杭は打たれる日本、子どもがリスク回避思考を卒業して緒戦するためには...

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監修:高橋正紀 構成・文:「スポーツマンのこころ推進委員会」

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