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[いつでも、だれでも、ずっとサッカーを楽しむために]JFAグラスルーツ推進
全員出場の成果も! 試合の強度UPのために導入した「3ピリオド制」とは
公開:2019年5月 8日
日本サッカー協会(JFA)技術部グラスルーツ推進グループ長の松田薫二氏が、『補欠ゼロ』『引退なし』『障がい者サッカー』『女子サッカー』『施設の確保』『社会課題への取り組み』の6つのテーマのいずれかを実践している方にお話を聞くこの連載。今回は『補欠ゼロ』をテーマに、サッカーコンサルタントであり、FC市川GUNNERS(ガナーズ:前アーセナル サッカースクール市川)代表の幸野健一さんに、話を聞きました。
後編では、小学校5年生を対象に全員出場を目的とした試合環境づくりの取り組みについて伺いました。
(取材・文:鈴木智之)
<<前編:「補欠ゼロ」を謳いながらも出場時間にバラつきが...。全員同じだけプレーさせて強くなる、を実践しているチームの取り組み
■試合の強度UP「3ピリオド制」とは
松田:幸野さんは小学校5年生を対象としたリーグの実行委員長もされていますね。
幸野:はい。『プレミアリーグU-11』といいますが、2015年にスタートし、現在は全国20県で開催されています。『プレミアリーグU-11』の設立趣旨が、公式戦が少ない小学5年生にリーグ戦を経験させたいというものです。去年から3ピリオド制にして、最低1ピリオドは試合に出場しなければいけないというルールにしています。
松田:ルールで出場時間を確保しているのですね。
幸野:はい。それまでは1試合前半15分、後半15分+練習試合15分の計45分を1つの区切りにしたのですが、練習試合の強度がガクッと下がり、いわゆる「B戦(Bチーム同士の試合)」のようになってしまっていました。それでは強化につながらないと思ったので、2018年度からは1試合を3ピリオド制(各15分)にして、最低1ピリオドは出なければいけないルールに改正しました。そうしたら、3ピリオド目の強度が目に見えて上がったので、大正解でしたね。
松田:チビリンピックのようなルールですか?
幸野:チビリンピックは12分×3ピリオドで、1ピリオドと2ピリオド目の選手は明確に分け、選手は原則1ピリオドに通して出場する。1ピリオドに出る8人プラス、2ピリオド目以降に出る選手のベンチ入りが10人までなので、最大で18人が試合に出るというルールですよね。プレミアリーグU-11では1ピリオドを15分と3分長くしました。1学年の人数が多いクラブもあるので、24人まで試合に出せるように幅を持たせました。「選手を最低1ピリオドは出場させなければいけない」というルールは同じですが、3ピリオド×8人の最大24人が全員試合に出られるようにしました。本当は20分×3ピリオドのように、1試合の時間をもっと長くしたいのですが、費用負担の関係上、会場使用時間を1時間で抑えたいので、1試合45分に収まるようにと、現行の形式にしました。
■小さくて遅かった子がMVPに! 全員出場の成果
松田:「全員出場」の成果は見え始めていますか?
幸野:間違いなくあります。たとえば、先日のチビリンピック関東大会で優勝した鹿島アントラーズは、プレミアリーグU-11にも参加しています。優勝後、小谷野稔弘監督から連絡があり、「プレミアリーグU-11で選手全員を1年間、試合に出させたことでチームが底上げされ一体感が生まれ、チビリンピック関東の優勝に繋がりました。全員出場の効果を感じています」と言っていました。それを聞いて嬉しかったですし、「結果を残したチームの人は、効果をどんどん発信してほしい。そうすればみんな聞き入れてくれるから」とお願いしておきました(笑)
松田:全員を出場させることが全体のレベルアップにつながるという良い事例ですね。
幸野:プレミアリーグU-11に参加しているクラブの指導者とは、各都道府県の責任者を含めて、密にミーティングをしています。3ピリオド制にして全員出場のルールを設けたことで、チーム内で上から数えて14番目、15番目など、下の方の選手のレベルを上げないと、結果に結びつかない。チーム全体を伸ばさないとだめだという思考に、指導者が変わっていきました。これはすごく大きな変化だと思います。
松田:一人ひとりをしっかりと見ていくことにつながりますね。子どもたちの変化も見えますか?
幸野:如実に出ています。1試合15分しか出られない子もいるのですが、公式戦の真剣勝負を15分間100%の力でプレーすれば、かなりの強度になります。これはだらだらと練習試合をしていては、得られない体験です。実際、うちのクラブに、身体が小さくて足も遅い選手がいました。他のクラブであればまず試合に出られないでしょう。でもうちは試合で使います。そうして3年が経ち、5年生で出場したある大会でMVP級の活躍をしました。低年齢でサッカーの上手な子は早熟傾向なので、15歳、18歳になればその差は埋まるんです。だから、2年生の段階で身体が小さい、足が遅いという理由で試合に出さないなんて、おかしな話なんです。これは声を大にして言いたいです。とくに年齢が低いうちは、平等に試合に出して、サッカーの楽しみを味わわせるべきなんです。
松田:サッカーに夢中にさせるものの一番は試合ですからね。
幸野:ですよね。僕も松田さんも週末は草サッカーをやっていますが、平日に練習をやって週末にグラウンドに行くと「キミはベンチね。試合はなし」と言われたら、ふざけんなって怒って、二度と行かないでしょう? でも、それと同じことが日本中で、しかも子どものサッカーで起こっているんです。それは長い目で見ると、将来的にサッカーを好きになる人の芽を摘んでいるのと同じことなんです。
■偏った勝利至上主義は暴力やいじめを生むことも
松田:偏った勝利至上主義が、コーチからの暴力やチームの仲間からのいじめを生む現状もあります。サッカーが好きで楽しみで行っているのに、そんなことが起こることが許せないですよね。もっと楽しく夢中になれて継続できる環境に変わっていかないと豊かなサッカー文化は醸成していかないと思っています。
「誰もがいつでもどこでも安心安全にサッカーを楽しめる環境を創造していく」というJFAグラスルーツ宣言はグラスルーツの現場のみなさんがその趣旨に賛同して活動しなければ具現化できません。現場で頑張っている方々を応援するために「JFAグラスルーツ賛同パートナー制度」を導入し、2016年4月1日から3年間、「引退なし」「補欠ゼロ」「障がい者サッカー」のテーマで仲間を募ってきました。2019年4月からは既存のテーマに加えて、新たに「女子サッカー」「施設の確保」「社会課題への取り組み」の3つのテーマを追加しました。
幸野さんはPFI方式により自らグラウンドを造られましたが、是非そのナレッジを多くの人に共有して欲しいです。
幸野: グラスルーツの環境改善をJFAさんに要望するだけでなく、僕たち民間の指導者が、やれること、やるべきことを積極的にやっていくことが大事だと思っています。周りの指導者はなにか問題が起きると「JFAがこうしてくれれば...」とか言うんですけど、いや、当事者であるあなたがやるんですよと。現場の僕ら一人ひとりが考えて、良いと思ったことはどんどんやるべきです。グラウンド不足に対しても、足りないからなんとかしてくれと待つだけでなく、自ら造ろうとする努力が必要だと思い、とうとう市川市(千葉県)にグラウンドまで作っちゃいました(笑)
松田:すごいですよね。他にも幸野さんのように自らグラウンド造ってる方もいると思うので、それぞれのノウハウやナレッジをこの賛同パートナー制度で共有できればいいなと思っています。そして多くの人達とみんなで様々な課題を解決して、良いサッカー環境を創造していければと思います。
幸野:サッカーに携わる人が、自分やクラブの利益だけでなく、プレイヤーズファーストの精神で、サッカーが好きな人をもっと増やすためにどうすればいいかを考えれば、おのずとやるべきことも決まってくると思うんです。誰かに頼るのではなく、自分たちで行動して手を取り合いながら、同じ船に乗って、同じ方を向いていくことができれば、それが子どもたちの幸せに繋がり、サッカーの普及や強化にもつながると思っています。
松田:今回は貴重なお話をありがとうございました。
幸野:こちらこそ、ありがとうございました。ともに日本のサッカー環境を良くするためにがんばりましょう。
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