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[いつでも、だれでも、ずっとサッカーを楽しむために]JFAグラスルーツ推進
障がいの有無や重さに関係なく入れるチームに。Fリーグ・バルドラール浦安の下部組織が行う多様性と勝利を目指す取り組み
公開:2022年2月14日
キーワード:JFAグラスルーツ推進デフバルドラール浦安引退なし、補欠ゼロ、障がい者サッカー、女子サッカー、施設の確保、社会課題への取り組み
「JFAグラスルーツ宣言」に賛同するチームを認定し、つながりを作ることで、グラスルーツの環境改善を目指すJFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度。引退なし、補欠ゼロ、障がい者サッカー、女子サッカー、施設の確保、社会課題への取り組み、という6つのテーマに、それぞれ賛同するチームが認可を受けています。
今回グラスルーツ推進グループの松田薫二さんと荒谷潤さんがお話を聞いたのは、千葉県浦安市に拠点を置くフットサルチーム・バルドラール浦安デフィオの監督兼選手として活動する泉洋史さん。
後編では今まで誰もやっていない取り組みを行なっている泉さんの原動力や、今後の展望などを伺いました。
(取材・文・インタビュー写真:松尾祐希 写真提供:バルドラール浦安)
<<前編:チャレンジしたくてもできない状況があった。障がいのある子どもたちを主体にチャレンジフットサルに取り組むバルドラール浦安デフィオ
■デフサッカーの日本代表や、熱意を持った人が集まった
松田:どのような形でメンバーを集めて行ったのでしょうか?
泉:最初はデフサッカーの協会でも取り上げていただき、バルドラール浦安に下部組織ができたことを報じてもらいました。ほとんどは健常者のチームで継続的に戦ったことがないメンバーでしたが、元々個人で健常者のチームに入ってもうまくいかずに続かない選手もかなりいたんです。
そうした過去の経験も含め、デフを主体としたチームで健常者のリーグ戦に出場することは難しいと思われていましたが、実際にデフサッカーの日本代表クラスの人たちが加入の意思を示してくれましたし、挑戦したいという想いを持った人が集まってくれました。
■どんな障がいがあってもフットサルを楽しんでもらいたいのに、閉鎖的だった
松田:そこから他の障がいの人が入ってきたと思うのですが、どういう経緯で加入に至ったのでしょうか?
泉:僕は浦安の特別支援学級で働いていたのですが、そこでサッカーがやりたくても部活に入れないという例を見聞きしていたんです。特に自閉症や知的障がいの方が多かったので、そこからもう1つの取り組みであるチャレンジフットサルを2015年頃に立ち上げたんです。
当時デフィオは聞こえる人と聞こえない人の限定チームみたいになっていて、違和感を覚えていたんです。元々どんな障がいがあってもフットサルを楽しんでもらいたい考えがあり、いろんな人を取り込もうとしているのに、デフィオは閉鎖的な感じになっていたので変えたかったのです。
そうした想いを抱いている時に、1人の知的障がいの方が練習参加したいと言ってくれたんです。彼は現在も在籍しているのですが、一緒にやっていく中でコミュニケーションを密にしたり、シンプルに伝え合えば、どんな障がいがあっても一緒にプレーできると実感できたんです。それがきっかけになって、デフだけではなく、いろんな障がいのメンバーがよりチャレンジできる場として、デフィオを捉えられるようになりました。
■障がいの有無や重さに関係なくは入れるチームになっていった
松田:そこから知的障がいの人たちが増えたのでしょうか?
泉:すぐには増えませんでしたが、いろんな障がいの人が集まるチームにしたいという想いは持ち続けていました。
その状況から裾野が広がるきっかけになったのが、特別支援学校のサッカー部と繋がったことです。市川大野の特別支援学校と接点ができ、サッカー部の子を対象にフットサルクリニックを実施したんです。そこで練習に行かせてもらい、卒業後にチャレンジできる場があることを伝え、そこから何人かデフィオに入ってきてくれました。
知的障がいのメンバーが増えていき、より一層インクルーシブなチームになり、だんだん浸透して、認知されるだけではなく、障がいの有無や重さに関係なく入れるチームになっていきました。
■特別支援学校に通う生徒にとって卒業後の受け皿でいたい
松田:特別支援学校に通う生徒にとって、卒業後の受け皿にもなっているんですね。
泉:そうでありたいですね。デフのメンバーは自分たちでつながって、各地にチームを作れるのですが、知的障がいのメンバーはそれが難しい側面があります。特別支援学校の障がい種別の割合では、知的障がい者を対象とする学校が7割〜8割になっていると思います。
知的な障がいはありながらも、身体は健康でエネルギーに溢れる若者にスポーツに取り組む場は必要だと考えているので、僕たちは受け皿になりたい。最初はチャレンジフットサルから入り、もっとやりたいとなればデフィオに入ってもらうのが理想です。なので、そういうピラミッドは作りたいですね。
松田:精神障がいの方も加入されていますが、どういう経緯で入ってこられたのでしょうか?
泉:チームの存在が認識されたことで、聴覚障がいの方と知的障がいの方の交流試合が行われるようになったんです。横のつながりができたことで誘う機会が増え、知ってもらう契機になりました。千葉県3部リーグで戦っていることや、メンバーがデフサッカーのW杯に出場している経歴も含め、ちょっとずつ関心を高めることができた結果だと思います。
■これまでに誰もやってない取り組みを行う原動力
松田:今まで誰もやっていない取り組みを行なっている泉さんの原動力を教えて下さい。
泉:自分はトップリーグでプレーしたかったという想いを持ちながら、夢を叶えられませんでした。ただ、自分の中では本気のチャレンジが自分なりにできたと思っているんです。目標には届かなかったですけど、その時に特別支援学校の教員をやるという夢もあり、その二つの本気の想いがあって新たなチャレンジに繋がる原動力になったと感じています。
やりたい事を本気でチャレンジしたからこその経験が、自分だからできる楽しさや、新しいチャレンジをして新しい人と出会う楽しみになりました。自分の想いを形にできた時の喜びもモチベーションになっています。
■自分と特徴が違う人に対して最初から違和感を持っていなかった
松田:障がいのある人にいきなり向き合うことはそう簡単ではないと思いますが、向き合う上で影響を与えた出会いなどはあったのでしょうか?
泉:自分の祖父が車椅子を使って生活をしていたからなのかもしれません。徐々に神経が麻痺する病気を患っていて、体が動かなくなる姿を見てきました。母がそれを介護していたんですが、祖父の繋がりで子どもの頃に失語症の人たちのコミュニティーで遊ぶ機会があったんです。
なので、自分と特徴が違う人に対して最初からそんなに違和感は持っていませんでした。教員の勉強をする中でも自分の行動が誰かのためになるという喜びを学んだのですが、人生の中で実際に感じてきたからこそ、今の選択をしているのだと思います。
■最初はインサイドキックもできず「辞めたい」と言っていたメンバーが......
松田:デフィオやチャレンジフットサルを通じて、一番嬉しかった経験談を教えて下さい。
泉:一番は市川大野の特別支援学校のサッカー部から上がってきたメンバーの成長ですね。彼らは知的障がい者なのですが、最初はインサイドキックができない状況で入ってきて、「辞めたい」「辛い」と言いながらも、なんとか続けてくれました。
どんなメンバーでも良さがあります。「それぞれが特徴を生かして、チームの勝利に挑戦する」という言い方をよくするのですが、そのメンバーが得点を取って3部リーグの試合に勝つことができました。その時が一番嬉しかったですね。今思い出しても泣きそうになるんですけど、本当に嬉しくて、彼が頑張ったこともそうなのですが、周りのメンバーも認めてくれたんです。
できることを信じてくれて、仲間も生かしてくれた。それで得点が取れて勝てた。なので、障がいの有無に関わらず、お互いの良さを高めていけると感じました。それを感じた瞬間が一番嬉しかったですね。
松田:できないことにフォーカスするのではなく、できることにフォーカスしてお互いが理解して戦う。そこは障がい者サッカーにあって、健常者が忘れているところなのかもしれませんね。
泉:多様性を強みにまで昇華させられれば、デフィオの価値が上がるというか、存在意義がもっと出てくるはずです。アプローチの方法を示し、違いを受け入れて戦うことができる点を証明したい。そこまで魅力を高められれば良いですね。
■多様性を活かし勝利を追求していく
松田:今抱えている課題や将来に向けての目標はありますか?
泉:デフィオは勝利を目指すという目標に関して言えば、3部でなんとかやっている段階です。
まだまだ多様性を強さに発展させられてはいないんです。障がいのあるメンバーがゴールを決めた。数試合勝利できた。などはありますが、県リーグ3部の中で継続的に勝利し、2部への昇格争いはできていません。
多様性を強さに変えていければ、一般のチームに対しても魅力溢れるチーム作りのロールモデルになっていけると考えています。現在はなかなか勝てていませんが、、ブレずに多様なメンバーと共に勝利を目指していきます。
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