■聴覚、視覚に働きかける

ロッカールームではｉＰａｄでラテン音楽を流し続けました。リラックスさせてやる気にさせて、それで今日の試合に勝ったらずっとその音楽を流そうと計画していた。そしたら勝ったので、次の試合前のロッカールームでもそれを流したら、選手たちがそれを聴いてニコッと笑ったんですね。

イメージというのはトレーニングにおいてとても大事です。繰り返し接したものは、無意識の中に残っている。スポーツ選手もそうなんです。勝ったときの音楽が流れてくると「あれ、これ昨日聴いた曲だ」と。で、僕が「そうだよ。今日も勝つから同じ音楽だ」と言うと選手たちがニコッとする。それで勝って、また次の試合でも同じ音楽をかける。

視覚的に訴えることもしますよ。

試合前のウォーミングアップは天候や時間帯などを考えてコーチ陣に指示を出して任せ、僕はロッカールームで、ホワイトボードに全部書くんです。この試合でチームとしてやること、ひとりひとりがやること。色ペンを使って、選手たちがアップを終えてロッカールームに戻ってきたときの視覚効果を狙う。で、その最後に赤い太字で大きく「今日は絶対に良い勝利がある。みんなを信じて頑張ろう」とバーンと書く。メンタルに訴えるんです。

普通はボードを置いてコマを動かしながら、こうしてああしてと確認するのが、試合前のロッカールームでやることですよね。僕もそれはするんですが、それよりも選手ひとりひとりが、自分は今日は何をやって何を頑張るべきかということ、そしてチーム全体が何をするべきかということを、前もって書いておいたものを読ませながら説明していく。

で、ホワイトボードをくるりと裏に引っくり返すと、そこには作戦を書き込んだピッチの絵が出てくるようにしておく。それも使って指示したあとで、最後にメンタル的なことを言って、選手たちを送り出すんです。

■ハーフタイムが腕の見せどころ

――ハーフタイムのミーティングを、ロッカールームではなくベンチ前で行ったこともありましたね。

別にロッカールームに戻るのが面倒だったからじゃないですよ（笑）。あの試合はスタジアムの大きさや立派さに、選手たちはバスから降りるだけで歓声を上げていた。で、前半は会場の雰囲気にのまれていたんです。

それで、目でスタジアムに馴染ませようと思って、選手たちにそこに座れと言いました。相手チームのブラスバンドの演奏も続いていたし、指示をするにはあまり良い環境ではなかったんですが、もともとハーフタイムにはそんなに細かい戦術は伝えられませんからね。前もってやってきたことを再確認させるだけ。その準備は出来ていたので、とにかく選手たちを落ち着かせることを先決として、その場に座らせました。

そうして選手たちに「今日のプレーはサッカー選手としてショボい。地味すぎる」と喝を入れたんです（笑）。

――翌日、同じスタジアムで行われた試合のハーフタイムもベンチでしたが、２日目になってもまだ慣れていなかったのですか。

あの試合は違います。少しでも長く指示をしたかったんです。ロッカールームへの移動の時間がもったいなかった。ベンチが意外と寒くなかったというのもありました。ロッカールームは暑いので、ピッチとの気温の差もコンディションに良くないと思ったので。

＜次回に続く＞

朴 英雄(パク・ヨンウン)
1960年6月12日韓国大邱(テグ)出身。韓国高校サッカー常備軍メンバー選出、嶺南大学体育教育学部卒。
1992年、大分市サッカー協会に招聘されて大分市トレセンチームを率い、第11回京都招待中学サッカー大会で優勝。翌年から大分高等学校サッカー部の指導に携わる。

1996年、第3回FBS杯高校サッカーチャンピオン大会で市立船橋高校を下し優勝。
全国高校サッカー選手権全国大会8回出場、うち2001年度大会ベスト8、2011年度大会3位。インターハイ全国大会出場8回。

韓国陸軍将校の経歴や独自のサッカー観と指導理念から「異色の監督」と呼ばれ、選手のポテンシャルを最大限に引き出すことに定評がある。
2016年11月、大分高校サッカー部監督を退任。