前回は「ゴールを決めた」「ドリブルが上手になった」など、子どもをほめたいときの効果的なほめフレーズについて解説しました。後編は、どうほめたらいいのかわからないシーンでの、ほめフレーズをご紹介します。
(取材・文/小林博子 写真:田川秀之)
■子どもが落ち込んだときに使える、ほめフレーズは?
子どものミスで失点をして負けてしまったなど、ほめるどころかどうなぐさめればいいものか、悩む日もあります。できればポジティブな言葉でほめて励ましたい。そんなときのほめフレーズはありますか?
そんな時、お子さんは落ちこんで帰ってきますよね。その状況で明るくポジティブなことを言われても、その言葉は心とのギャップが大きすぎて受け入れにくいのです。前編でもお話した通り、ほめフレーズは受け入れてもらう言葉を選ぶことが大前提です。この場面で受け入れられやすいのは、その日のミスやうまくいかなかったという事実です。ただ、その事実だけでは落ち込んでいる気持ちへの共感で終ってしまいます。共感は大事ですが、更に一歩先をねらうと、こんな言葉をかけることができます。
「今日のプレーは、○○くんらしくなかったね」
このフレーズは、子どもが気にしているであろうプレーを無理にポジティブにしない言葉にすることで受け入れられやすくしています。同時に「○○くんらしくなかった」という言葉で「自分は本当はできる」ということを暗に伝えることで、気分を転換するきっかけになります。
これは言語的技法では「暗示」と呼ばれ、直接的に言葉にしていないことを相手が自らそう思うように仕向ける話法です。そのまま言っても受け取られにくいメッセージをさりげなく、かつ効果的に伝えることができます。
また、前編でご紹介した「YESセット」を使って「うん」とうなずきやすい会話の流れをつくってあげるとさらによいでしょう。
「今日はパスをカットされちゃったね」
「シュートも惜しかったね。残念!」
「今日のプレーは、○○くんらしくなかったね」
このような言葉をかけても、その場でパッと元気にはならないかもしれません。しかし、失敗をして落ち込むことはいけないことではありません。うまくいかなかった時は落ち込んでも、その後に気持ちをうまく切り替えられたらいいのではないでしょうか。そのように自分の気持ちをコントロールできる人に成長してほしくないですか? そのためには、根底の部分に「自分はやればできる」という自己肯定力をつけてあげることが大切です。「今日は○○くんらしくなかったね」といったほめフレーズを使い、繰リ返し信頼を伝えることが、そのような自己肯定力を育む助けになるのです。
「ぼくらしくないなんてなぐさめは、いらないよ」などと、否定する子もいるかもしれません。その場合は、ちょっとアレンジしてこう言ってください。
「今日のプレーは○○くんらしくなかった、とお母さんは思うよ」
これは「I(アイ)メッセージ」といい、「私はそう思う」という言い方です。「○○くんらしくない」という断定は「そんなことはない」と否定もできますが、「○○くんらしくないとお母さんは思う」という個人が抱いた感想は、受け取る側が否定できることではないですから。
■「ほめられたいタイプ」でない子に効く、ほめフレーズ
シュートなどの目立ったプレーをしないポジションの子どもに、いいほめフレーズはありますか?
シュートでゴールを決めたい子は「ほめてもらいたいタイプ」が多く、アシストやパスが上手な子には「人に言われるより自分で納得したい」タイプが多い気がするので、後者の子どもへのほめ方はさらに難しい気がします。
ほめられるという人の評価に関して受け入れる傾向が強いのか、そうでなく自分で評価判断を行う傾向が強いのか。そういった子どもの傾向に応じて、ほめ方を変えることができます。シュートでゴールを決めたい子のようにほめてもらいたい気持ちがあるということは、人の評価を気にするということであり、ほめられたことを受け入れやすいということです。これまでのほめフレーズを使ってストレートにほめていけばよいでしょうし、
「シュートが入った決まったとき、周りのお母さんたちがみんな感心していたよ!」
というように、他の人の評価を伝えてあげるのも効果的です。
人に言われるより自分で納得したい子の場合は、判断の基準が自分の中にあります。ほめられても鵜呑みにせず、それが適切かどうかを自分で判断する傾向が強いのです。このような子には、人の評価を強く伝えるよりも自分で考えるように言葉をかける方が受け入れられやすくなります。たとえば、よいアシストをしたシーンを例に挙げると、「よいアシストをしたね」と人から言われるより、
「自分でも、よいアシストをしたってわかっているでしょ」
と問いかけるほう方が、子どもの納得感に合致する可能性が高く効果的です。具体的には以下のような流れで使えます。
「今日一番よかったのは、誰のどんなプレーだと思う?」
この質問に対して、「ボクのアシストだよ」と返ってくれば大成功。もしほかの子のプレーを答えてきたとしても、
「○○くんのアシストもすごかったと思う。自分でもわかっているんじゃない?」と続けましょう。
子どもが「自分でも分かっているよ」と答えればそれでいいですし、「分かっていないよ」と答えたとしても、「アシストがすごかった」ということは受け入れているので、それでいいのです。
取材・文/小林博子 写真:田川秀之