いままで当たり前にできたことが急にできなくなる。体が重い。同じプレーをしているつもりなのに、プレーにキレがない。ケガの有無やコンディションにかかわらず、何かがおかしい・・・・・・。自分でも理由の分からない不調。実はこれ、誰にでもやってくる可能性がある"伸び悩み"の時期、「クラムジー(Clumsy)」と呼ばれる現象かもしれません。
■「最近思うようにプレーできない」 その不調の原因「クラムジー」かもしれません
育成年代における絶好の成長期間、"ゴールデンエイジ"(9~11歳)の次の年代、"ポスト・ゴールデンエイジ"(13~15歳)に「クラムジー」の期間が訪れると言われています。
クラムジー(英語:Clumsy)とは、不器用な、ぎこちないという意味を持つ形容詞です。スポーツの世界では、急激に身体が成長する第二次性徴期に、身体と感覚のバランスが崩れ、以前に習得した技術を思うように発揮できなくなる時期を指します。同時に成長痛(オスグッド)によるひざ痛を発症する子どもも多く、精神的にも肉体的にも「何をやってもダメ」な状態に陥ることも少なくありません。
■クラムジーで一時的なスランプに陥った名選手も多い
小学生時代、テクニックやスピードで他を圧倒的していた選手が、急に思うようなプレーができなくなってしまう。「早熟だった」で片付けられてしまうこともありますが、多くの場合は才能が涸れたわけでも、元々才能がなかったわけでもなく、一時的にクラムジーに陥ってる状態なのです。この状態はそう長くは続きません。適切な練習を続けていれさえすれば、身体の成長に感覚が追いつき、以前の輝きを取り戻せる公算が大きいのです。
現在は日本代表に名を連ねる清武弘嗣選手(ニュルンベルク)や高橋秀人選手(FC東京)もインタビューなどでクラムジーに悩まされた時期があったことを語っています。清武選手は中学1、2年生時にオスグッドに苦しみました。その後、大分U-15で、当時大分の育成アドバイザーだったU-17日本代表の吉武博文監督の指導を受け、これを克服したそうです。高橋選手はクラムジーによって以前のスピードを失ってしまったそうです。しかし、それをきっかけにボランチとして活路を見出し、天職を見つけたといいます。
思うようにプレーが出来なくなったとき「もうダメだ」と思う子どもたちに周りの大人がどう接するか。知識としてクラムジーを知っていれば、接し方も変わってくるはずです。
■クラムジーは怖くない 身体の成長に感覚が追いつくのを待とう
クラムジーに陥った選手の多くは、体の不調を訴えたり、練習から遠ざかったり、はっきりした理由がなくても「サッカーが嫌い」になりかけることが多いようです。クラムジーをどう乗り切るのか非常に難しい問題ですが、ひとつは焦らないことが大切です。「サッカーが下手になった」「楽しくない」という思いは、プレーレベルにかかわらず誰でも感じることでしょう。ここで慌ててしまい性急に以前の自分の感覚を追い求めても、結局しっくりこないまま「やっぱりダメだ」ということになりかねません。身体の成長に伴い、プレーの幅も広がる時期ですが、ここはあえて今まで習得した技術をじっくり復習して、成長した身体にピッタリくるプレーが出来るようになるのを待つのが得策と言えそうです。
切実に悩んでいる子どもたちに伝えるのは難しいかもしれませんが「クラムジー」という言葉を出して「理由の分からない不調の正体」を教えてあげることも必要かもしれません。"ゴールデンエイジ"の後の年代"ポスト・ゴールデンエイジ"は本来、"ゴールデンエイジ"の抜群の吸収力で身につけた技術をプレーの中で発揮していく期間です。あと少し、クラムジーの期間を乗り越えれば、もっと新しいサッカーの楽しさ、可能性に気づけるかもしれません。それなのに、この時期に自信をなくし、サッカーを辞めてしまう選手が少なくないのは、とても悲しいことだと思います。
■一時の低迷はさらに飛躍するための準備
クラムジーは"ポスト・ゴールデンエイジ"期に当たる13歳から15歳に多く見られると書きました。サカイクでは小学生年代の育成をメインに取り上げているので「もう少し先の話」と思われるかもしれませんが、成長のタイミングには個人差があります。男子よりも女子のほうが成長が早いという性差もありますし、アンケートを拝見すると、すでにオスグッドに悩んでいる小学生も多くいるようです。
練習は今までどおり、一生懸命プレーしているのにうまく行かない。ひとつのトラップ、ひとつのドリブル、ひとつのシュートと、練習や試合で残酷なほど結果が出てしまうサッカーの世界では、理由のわからない不調というのが一番厄介です。なぜか、うまく行かない。どんなに努力をしても目に見える結果に結びつかない。クラムジーは誰もが直面する可能性のある"伸び悩み"の時期です。そんな時期がやってきたら、クラムジーという現象、子どもの成長にはそういう時期があることを思い出し、慌てることなく、サポートしてあげましょう。「悩んでいるのは君だけじゃない。サッカーが下手になったわけじゃない。努力が報われないはずはない」と伝えてあげましょう。
大きくジャンプするためには一度身をかがめる動作が必要です。サッカーだってそれは同じです。悩んだ分だけ、身をかがめた分だけ、次のステップはより大きく飛躍できるはずです。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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文/大塚一樹 写真/サカイク編集部