テーピングは有資格の専門家がやるもの。単にプレーヤーを動きやすくするものという考えは間違っています。簡単なテーピングは少し勉強するとパパやママもできますし、そもそもテーピングの目的は動きやすさでなく、動きを制限することなのです。今回はいろいろと誤解の多いテーピングについて「コンディショニング論」などが専門の荒川崇先生に話を聞き、本来の目的とその目的に沿ったテーピングの例などを教えてもらいました。
■テーピングは何のため?効果と限界を知って上手に使おう
最近は小学生の選手でもテーピングをよく目にしますが、これには利点もあれば、間違った使い方で体にダメージを与えている場合もあるそうです。
「ですから保護者の皆さんが正しい知識を身につけて、子どもたちのけがの予防や再発防止に役立ててほしいんです」と言うのは、武蔵丘短期大学で『コンディショニング論』などを担当する荒川崇先生。
「テーピングは常に必要な訳ではありません。お子さんが『少し足首に違和感がある』など不安を訴えるとき、あるいはグラウンドコンディションが非常に悪くてねんざなどトラブルが予測されるときなどに、利用を検討するといいでしょう」
一方で常用することによって、正常な筋肉の発達を妨げる場合もあるので注意が必要です。
もともとテーピングの役割は3つに分けられると荒川先生。
「それは(1)けがの予防、(2)応急処置、(3)再発防止です。例えばねんざは、外部からの強い力によって、関節が通常の可動域を超えて動くことで起こります。テーピングは関節の動きを制限し、靱帯や腱の働きをサポートすることで、可動域を超えた動きをさせないことが狙いです」
ねんざを完全に防げる訳ではありませんが、正しくテーピングすればかなりの予防効果は期待できます。また(2)の応急処置にしても、けがの度合いによってはすぐ病院に行くことが優先。テーピングは、そこまでの状態ではないと判断された場合に使用します。
「そのときもRICEに沿って、安静にする、患部を冷やす、患部を圧迫する、患部を持ち上げる、といった処置を先に。その後でテーピングで関節の動きを制限し、適度に圧迫することで、腫れの広がりや痛みを抑え、けがの悪化を防ぐのです」
■子どもの気持ちを分かる保護者だからこそ、テーピングの知識を!
さらにテーピングによる安心感も効果の一つだとか。
「精神的なサポートが主目的ではありませんが、小学生のお子さんにとって、テーピングによる気持ちの余裕は非常に大切だと思います」
もちろん前述したように、「テーピングがないと、不安でプレーできない」と過度に依存しては逆効果
「そうしたお子さんの性格を一番ご存じなのは保護者の方。本人の本音なども聞き、どの程度まで続けるかの判断もしやすいのでは? すべてをご自分で行う必要はありませんが、テーピングの知識を身につけておくと、適切な使い方についての助言もできると思いますね」
また意外に見落としがちなのが効果時間です。
「テーピングの効果は20分から40分程度が限界です。大人に比べて試合時間が短い少年サッカーでも、十分な効果は1試合持つかどうかでしょう」
ウォーミングアップなどでも体を動かすことを考えると、出かける前にテーピングをしてそのままというのでは、試合時には効果が弱まっていることになりかねません
「テーピングを教える私が言うのも何ですが、テーピングは決して万能ではありません。しかし正しく使うことで、けがのリスクを大幅に減らせるはずです」
■テーピングの知識があると、子どもの体の状態がよく分かる!
「けがの治療や回復はもちろんですが、成長過程にあるお子さんの場合、けがをしないことが一番重要。私はその予防の一手段としてテーピングが活用できると考えています。またお子さんによっては、けがをしやすい形態(アライメント)もあるので注意してください」
例えば足首のねんざ予防を考えるなら、いきなりテーピングをするのではなく、まず立った状態の足元を前後左右から確認してみましょう。
「後ろから見て、アキレス腱に対してかかとの骨(踵骨)が内側に倒れ込んでいる(回外足)なら外側のねんざを起こしやすく、反対に外側向き(回内足)なら内側のねんざが心配です」
そうした傾向が強ければ専門機関などでの改善も必要ですが、そこまではない場合、しばらくはテーピングで補強してあげることで、けがの予防に役立つでしょう。こうした形態は足首周囲の筋肉が未発達なことも原因で、周囲の筋力を高めて改善されることもあるそう。
「また神経協調性というのですが、正しい体の動かし方を学習(トレーニング)することで、足首の負担を減らせるような活動も可能になります」
このほかねんざをしたときも、体の構造を知っていると重症度が判断しやすくなると荒川先生。
「正式な診断は医師にしかできませんが、ねんざがどの程度重症なのか分かることで、その後の対応は違ってくるでしょう」
例えばサッカーでも多発する「内がえしねんざ」は、足の裏が内側を向き、足首の外側(外くるぶし付近)に強いストレスがかかって起こります。このときに損傷する靭帯は主に3つで、それぞれ痛む場所が違っているのです。痛む場所をお子さんに確認できれば、靭帯の損傷度をある程度把握できます。
「靭帯の損傷が軽い順に、外くるぶしの前の方が痛い、前と真下が痛い、後ろの方まで痛いとなります。最後の段階は後距腓靭帯までも損傷を併発していて最も重症ですから、これは病院に直行してください」
テーピングの知識を通して体の発達やけがの具合を学ぶことも、子どもへの愛情といえるかもしれません。次回はテーピングの実践についてお伝えします。
荒川 崇(あらかわたかし)
学校法人後藤学園 武蔵丘短期大学健康生活学科健康スポーツ専攻 専任講師
「コンディショニング論および実習」のほか、テーピング指導やアスレティックトレーニング指導を行う。また同短大の女子サッカー部「CIENCIA(シエンシア)」トレーナーも担当。1995年日本体育大学卒業後、流通経済大学ラグビー部ヘッドトレーナーを務める傍ら、2012年流通経済大学大学院スポーツ健康科学研究科を修了。ラグビーU20日本代表トレーナー(2010)を経験。
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取材・文/山辺孝能 写真/新井賢一(ダノンネーションズカップ2013より) 写真提供/学校法人後藤学園