4月からの新学期。子どもたちは生活環境が変わって気持ちも高ぶり、夜遅くまで寝ない、朝はなかなか起きない……そんな悩みはありませんか? 実は睡眠は生活習慣というだけでなく、記憶に関係する脳の発達にも関わるなど子どもの将来に大きく影響する問題なのです。そこで子どもの睡眠にも詳しい眠りと健康の専門家、白濱龍太郎先生に「子どもたちの睡眠の悩み」の解決方法を聞きました。
■厚生労働省の新しい指針。子どもの睡眠はどうなった?
「お子さんの睡眠については、まず『基本的に長く眠ってもいい』とポジティブに捉えてほしいと思います。眠らない=頑張り屋というイメージは誤解で、スポーツも勉強も高いパフォーマンスを発揮するには、しっかりと眠ることが大切なんですよ」。
という白濱先生。眠っている間、成長や精神の安定に欠かせない物質の分泌が活発になり、細胞修復などのメンテナンスも行われるといいます。また睡眠中に記憶が再整理されて、学んだことを定着させる役目もあるそう。十分な睡眠が身体と心もリフレッシュさせるのは、医学的な裏付けもあったのです。実は2014年3月に厚生労働省は睡眠指針を見直して、新たな基準を発表したばかり。それによると10代前半までの子どもに適切な睡眠時間は8時間以上とされています。
「しかし夜遅くまで起きている今の生活で、毎日8時間眠れるお子さんは少数派かもしれません。実は子どもに必要な睡眠時間は昔からあまり変わっていないのです。それなのに厚生労働省が10数年ぶりに新たな指針を発表したのは、日本人の生活が変化したことで、お子さんが十分に眠れてないという危機感の表れではないでしょうか」。
確かに放課後は塾や習いごとがギッシリで子どもたちの帰宅が遅いことも、寝る時間が遅くなったり睡眠不足になったりする原因の一つ。ところが頑張って睡眠時間を減らすほど、子どもの記憶力に影響するというショッキングな調査結果も!
■6時間と10時間、睡眠時間の違いが記憶力の差になる
「東北大学加齢医学研究所が2012年に発表した研究によって、子どもの睡眠時間と脳の海馬との深い関係が明らかにされました。具体的には6時間睡眠の子よりも10時間睡眠の子の方が、記憶に深く関わる海馬が大きく発達していると分かったのです。勉強なら遅くまで起きていても仕方ない……とお母さん方も容認しがちですが、実は睡眠時間が短いことの悪影響も十分に考えられるとい皮肉な結果が出ました」。
生活が夜型にシフトして睡眠時間が減っているだけでなく、スマートフォンやテレビ、ゲームなどが発する強い光も眠れなくなる要因だと白濱先生はいいます。
「夜になると身体は眠る準備として副交感神経を優位にしていきます。しかしスマホでラインをやったりゲームをしたりと、光を見続けると再び交感神経が刺激を受け、なかなか寝付けない状態に陥るのです」。
こう聞くと光は悪者のようですが、この性質を起きるときに活用すれば自然に目覚めて、「よく眠った」と充足感を得られやすくなります。最近は光でスッキリと起きる目覚まし時計なども販売されていますから、一度調べてみてはどうでしょうか。
■ゴールデンタイムを生かす、眠り方・起き方のコツ
「ただすべてのお子さんが8時間や10時間の眠る必要はありません。日中眠くならずに元気よく過ごせるなら、多少時間が短くても質のいい睡眠がとれているのだと思います。また睡眠は長さだけでなく、『睡眠のゴールデンタイム』といわれる22時から翌朝2時頃まで深く眠るよう、自宅での過ごし方を工夫することも大切なんです」。
10時から2時の時間帯は、身体の成長や精神の安定に役立つ物質が多く作られるので、それをしっかり吸収するチャンスなのです。しかしほかの家族が夜遅くまで起きているのに、子どもにだけ早く寝るよう促してもあまり効果的ではありません。
「お子さんは1人で生活するわけではなく、ご家族との暮らしに大きく影響されます。そのためお子さんの睡眠を変えるには、ご家族の協力は絶対に必要ですね。特に『夜はお子さんをしからない、けんかをしない』のも重要です。お互い気持ちが高ぶると交感神経が優位になり、眠りに入る準備を妨げますから」。
と、やや実行が難しいアドバイスもありますが、睡眠のリズムが崩れたときは無理に眠ろうとせず、翌朝に光を上手に使って起きる時間をリセット。さらに日中はアクティブに動き、夜は睡眠に自然に休む習慣を取り入れましょう。以下は白濱先生の指導で睡眠を改善する「おやすみの習慣」をまとめたもの。今日から親子で試してみては?
白濱龍太郎 医学博士
「リズム新横浜 睡眠・呼吸メデイカルクリニック」院長
大学病院での呼吸器専門外来や睡眠障害専門外来での経験を生かし、東京都内で睡眠専門クリニックの院長に就任。千葉県、静岡県内の総合病院などで睡眠センターの立ち上げを行ったほか、東京医科歯科大学快眠センター所属にて睡眠研究にも従事。睡眠・呼吸の悩みを総合的に治療可能な医療機関をめざして、2013年にリズム新横浜を設立。Maruhachi研究センター所長として、睡眠環境の提案なども行っている。
1
取材・文/山辺孝能 写真/田川秀之(ダノンネーションズカップ2014より)