天気予報などで、「真夏日」というワードが聞こえてくるようになり、熱中症が心配になる日々はすぐそこまできています。今年も正しい対策で適切なサポートをしてあげたいですね。医療情報は年々アップデートされるもの。
そこで、日本サッカー協会のスポーツ医学委員でJクラブのドクターも務める大塚一寛先生(あげお愛友の里施設長)に最新の熱中症対策について伺いました。
(取材・文:小林博子)
■熱中症が怖いのは真夏ではなく春〜初夏
まず知っておきたいのは、熱中症の心配をするのは、猛暑日と言われる本当に暑い日だけではないということ。
ご存知の方も多いかと思いますが、暑さが本格化しない春から初夏にかけてこそ、熱中症リスクがぐっとあがる時季だということを今から心得ておきましょう。
というのも、猛暑や酷暑の日が続くと体が暑さに慣れ(「暑熱順化」と言います)汗をかきやすくなり熱中症になりにくい体になれるのですが、暑熱順化できていないこの時期こそ危険なのです。
■暑熱順化できてないのに寒暖差が大きい春から夏が危険
気温や気圧など、環境の変化に体が対応できるには5日かかると言われています。南アフリカでW杯があったときも、日本代表の選手やスタッフは試合の5日前には現地入りしていたといいます。
本来であれば春〜夏にかけて徐々に気温が高くなっていき、自然に暑熱順化ができるものですが、最近の異常気象や温暖化により、突然昨日より10度も気温が高い日もめずらしいことではありません。
春や初夏のそういった日は、体が暑熱順化できていないので熱中症対策をしっかりして欲しいところです。
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■「手の平を冷やす」は有効!ぜひ行って
この1~2年、サカイクの取材でも、試合のハーフタイムや試合後に氷や保冷剤を握っている子どもたちを目にする機会が増えました。最近の少年サッカーの現場で「手の平を冷やす」ことを熱中症対策として行われているようです。
それが本当に有効かを大塚先生に伺ったところ「正解」とのこと。「毛細血管の多い手の平や、足の裏を冷やすことが熱中症予防につながるのは医学的にエビデンスがあります。ぜひ行ってください」と太鼓判を押していただきました。
手足よりさらに効果が高いのは頸動脈のある首元やそけい部を冷やすことなのですが、冷たいものを当てるのは不快という人は多いものです。大塚先生も「プロでもそけい部を嫌がる選手がいる」と言うほどなので、子どもたちはなおさら嫌がるでしょう。
「ハーフタイムに靴下を脱ぐのは面倒ですし、手の平を冷やすだけでも十分です。冷たくて気持ちいいから習慣化できる、という方法が最適だと思います」と、大塚先生。
冷えた血液が全身を回ることで体温を効率的に下げることができるというのがこの方法のメカニズムです。手にも動脈は多数あり、手のひらを冷やすだけで深部温熱が2度下がるというデータもあるほどだそう。
ちなみに、野球のピッチャーは手のひらを冷やすことで肩や肘の障害率が下がるというデータもあるのだとか。ケガ予防の観点からも習慣化したいものです。
首元を冷やすネッククーラーなども最近は低価格で手に入りますので、ぜひ併用してください。
■「頭から水を被る」は気温次第で推奨
暑い日の練習や試合の合間に氷を張ったバケツに入った水を頭から被る選手も見受けますが、こちらも熱中症対策に有効だと大塚先生は言います。
頭皮を冷やすことで放熱し、体の中にこもった体温を下げる効果があります。
ただしこの方法には注意点が1つあると大塚先生は注意点を教えてくれました。
それは気温が36度5分前後の一般的平熱以下の場合にのみ行ってよいということです。それ以下の場合、発汗しないので放熱できず逆効果になりかねないのだそう。
ただし、サッカーをしていたら体温は上がっているので、大体の場合は有効と考えていいでしょう。
■「これをすればOK」という安心感はコンディションにもプレーにも良い影響を与えてくれる
最後に大塚先生が話してくれたのは「これをすればOKと子どもが思っていることは否定せず、やらせてあげて欲しい」ということでした。
熱中症対策に限らずすべてのプレーに通ずる考え方のようです。
「例えば敬虔なクリスチャンが試合前にロッカールームでお祈りをすると、セロトニンの量が3〜4割増えた状態でプレーできるというデータがあります。セロトニンは精神安定や痛みを感じにくくするホルモンなので、つまりお祈りをしないよりもしたほうが精神的に落ち着いてプレーができ、身体の痛みも感じなくなるわけです。3〜4割ってすごいですよね」
本人にとって必要なことであれば、それは"げんかつぎ"や"おまじない"以上の効果をもたらします。
「意味ない、化学的にエビデンスがない」と否定したくなる人もいるかもしれませんが、セロトニンの分泌量の変化は、れっきとしたエビデンスです。
試合前に「勝ち飯」を食べること、巻くとプレーがうまくいくというテーピング、お守りのミサンガ、そして「ハーフタイムに氷を握れば熱中症にならない」と思うこと。
そういったものを否定せず、ぜひ安心してプレーをさせてあげましょう。
■「WBGT」指標や熱中症発症時の処置は変化なし。今まで通りの対応を
対策を十分に施しても必ず避けられるわけではない熱中症。
なってしまった際の応急処置や対処法は、例年お伝えしている基本を行うことが大事です。
本格的な熱中症シーズンが目前に迫る今、サカイクの過去記事にもう一度目を通しておさらいをしておきましょう。
大塚一寛(おおつか・かずひろ)
医師、あげお友愛の里施設長。
1996年からはJクラブのドクターとしてチームとともに帯同を続けている。現在はVプレミアリーグの上尾メディックス(女子)のチームドクターも兼任。そのほか、『日本サッカー協会スポーツ医学委員』を務め、全カテゴリーの選手の健康管理(脳震盪・ヘディング・熱中症・整形外科的外傷など)に携わっている。多数の講演にも出演し、現場のノウハウや選手のケガ、障害予防などの啓発活動も積極的に行っている。
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