2015年アジアカップのグループリーグが終了。日本代表はパレスチナに4-0、イラクに1-0、ヨルダンに2-0と、見事3連勝を収め、決勝ラウンドに駒を進めました。
準々決勝の相手はUAE。グループリーグで6点を挙げた自慢の攻撃力と、3失点を喫したディフェンスの脆さが同居するチームです。日本が無失点をキープすることができれば、準決勝に大きく近づくのではないでしょうか。
ここまでの3試合を振り返ると、日本が"リスタート"を工夫しながら、ゲームの流れを巧みにつくっていることが印象深いです。(取材・文 清水英斗)
■強い向かい風のゴールキックは、足元でつなぐ意識を高めたい
たとえば初戦のパレスチナ戦のゴールキックについて。この試合はかなり強い風が吹いていました。コイントスに勝ったパレスチナは前半、風上の陣地を選択しています。(筆者の位置からコイントスの様子が見えたわけではありませんが、キックオフが日本のボールだったので、コートを選んだのはパレスチナ、ということになります)
逆に風下に立つことになった日本は、川島永嗣のゴールキックを、いつもより足元でつなごうとする意識が強く見られました。なぜなら、ゴールキックを空中へ蹴り上げてしまうと、向かい風にあおられて遠くへ飛ばず、自陣内で競り合う形になってしまうためです。これは非常に危険。ヘディングに競り負ければ、一発、二発のパスでシュートに持ち込まれる可能性があります。
パレスチナもそれはわかっているので、日本に足元でつながせず、ロングキックを誘発するために前からプレスをかけてきました。
おもしろかったのは、前半7分のゴールキック。パレスチナの前線2人にマークを付けられ、一度は足元のパスを諦め、センターバックの森重真人や吉田麻也が前へ上がって行く様子を見せましたが、そこからもう一度、今度は吉田とアンカーの長谷部誠が下がり、川島は長谷部へパスをつけます。ここで、パレスチナの2枚のプレスに対し、日本は長谷部を加えて3枚。数的優位が1枚できた日本は、長谷部から森重へつなぎ、森重がドリブル。そこから縦パスを入れて、最後は遠藤保仁のミドルシュートで先制ゴールをゲットしました。
もともとアギーレジャパンでは、追い詰められたら無理をせず、つなぐことを諦めてロングボールを蹴ることがOKとされています。実際、イラク戦やヨルダン戦では川島がロングキックを蹴る場面が増えました。しかし、パレスチナ戦については"向かい風"という条件が加わったため、日本があえて足元でつなぐプレーを重視したことがわかります。その駆け引きが、遠藤の大会第一号ゴールを生んだと言えるでしょう。
変幻自在のアギーレジャパン。「風が強いからイヤだな~」で終わらず、「じゃあ、どうやってプレーするべきか?」というところまで考えて実践する。それが質の高いサッカーです。
■キッカーを受け手に変える長谷部誠の知性
日本はゴールキックだけでなくフリーキックも、試合の流れを作るために有効に活用しています。
たとえばパレスチナ戦に見られたシーンですが、自陣で得たフリーキックを森重がセットし、パスを出そうとしました。しかし、周囲の味方は相手にマークされ、パスの出しどころがありません。こうなると、ロングボールを蹴り出すしかないのでしょうか?
すると、アンカーの長谷部がスッと下りてきました。そして森重にサイドへ開くように指示を出すと、キッカーをチェンジ。長谷部をマークしていた相手選手は、ボールの周囲9.15メートルには近づくことができません。キッカーになった長谷部がパスを出すと、そこから森重がフリーでボールを運びました。
この場面、一見すると、森重はパスの出しどころを失ったように見えます。ところが、実はひとりだけフリーな選手がいたのです。それは他でもない、キッカーの森重本人です。
長谷部はキッカーをチェンジして、森重をパスの"受け手"に変えることで、この場面を難なくクリアしました。まさに、インテリジェンス(知性)です。
これはスローインにも言えること。
投げるときに味方がマークされ、出しどころがないように見えても、実はスロワー本人がフリーになれる場面があります。そのときは味方に投げてリターンパスを受け取れば、投げた本人がフリーでプレーできます。
もちろん、インプレー中も同様です。
ボールを持ったセンターバックが顔を上げたとき、味方がマークされていて、パスの出しどころに困ることがあります。しかし、実はフリーなのは自分自身。ゆっくりとドリブルで持ち上がり、自分にマークが来た時点で、空いたところへパスを出す。このようなプレーが可能になります。
今大会をみると、韓国やオーストラリアなど日本以外の国も、ゴールキックやスローインから足元でパスをつなぎ、確実に攻撃のバトンをわたそうとするビルドアップが多く見られます。試合の流れをつかむ"リスタート"に、今後も注目したいところです。