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インタビュー

「怒らずにどんな声掛けをすればいいのか」まで踏み込むことで、雰囲気が一変。益子直美カップで起こったポジティブな変化とは

公開:2021年5月18日 更新:2023年6月30日

キーワード:アンガーマネジメントスポーツメンタルコーチチャレンジペップトーク主体性厳しい指導指導者が怒らない大会益子直美カップ自主性自分で考える

現役時代はバレーボール選手として全日本に選ばれ、引退後はタレントやスポーツキャスターとして活躍中の益子直美さん。自身の経験から『監督は怒ってはいけない』をテーマにした『益子直美カップ』を主催しています。

インタビュー後編では、益子カップを通じて感じた、指導者や保護者の変化についてうかがいました。
(取材・文:鈴木智之)

 

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指導者、保護者がポジティブな言葉をかけることで試合の雰囲気も良くなるのです(写真は益子直美カップ小学生バレーボール大会Facebookより)

<<前編:昭和の高圧的な指導から脱却すべき。益子直美さんが「監督が怒ってはいけない」大会を開催する理由

 

子どものサッカーに関わる保護者のみなさんに、
大切にしてほしい"親の心得"10か条>>

  

■高圧的な指導を受ける中で、自分で考えることをしなくなった

学生時代は指導者の高圧的な指導が原因で、「自分で考えることをしなくなった」「バレーを楽しいと思ったことは一度もなかった」と話す益子さん。そのような経験をする子どもをなくしたいという想いから、『監督は怒ってはいけない』というルールのもとで運営される、益子直美カップを主催しています。

大会を通じて様々な指導者と接する中で、参加者の意識の変化を感じることも増えてきたようです。

「ある監督さんは『怒ってはいけない』というルールのもとで、子どもたちに何と声をかけていいかがわからず『タイムアウトをとったけど、何も言葉が出てこなかった』とおっしゃっていました。私が『普段はどのような声をかけているのですか?』と尋ねたら『なんでミスをしたんだ』『もっと気合を入れろ』など、怒りをベースとした声掛けをしていたそうなんです」

 

■「監督が怒ってはいけない」大会で指導者自身にも気づきが生まれる

益子カップのルールによって、普段通りの接し方ができなくなった指導者は、指導を見直す必要性に迫られました。

「その方は大ベテランの指導者だったのですが、『試合の後に、どんな声をかけたらいいですか?』と私に聞いて来られました。そこで『先生は、子どもたちにどうなってほしいですか?』と質問をしたら『次はもっとがんばりたい、勝ちたい気持ちになってほしい』とおっしゃいました」

益子さんはその監督と対話を続けることで、「子どもたちのモチベーションを上げる言葉をかければいいんだ」という考えを引き出し、最終的には「試合の中では、できたところ、良いところもたくさんあった。そこを見て、褒めてあげれば良かった」という視点を導き出したそうです。

「その指導者の方には『試合に負けたときほど、ポジティブなフィードバックをしてあげると良いのではないですか?』 と、お話をさせてもらいました。指導者のみなさんは、子どもたちを良くしたい、もっと上手くしたいという気持ちと情熱を持って、指導をしています。そこで、怒りという手段でしか気持ちを伝えたり、指導をすることができないのはもったいないですよね」

 

■怒らずにどんな声掛けをすればいいのか、まで踏み込む

さらに、こう続けます。

「70歳近い、大ベテランの指導者が怒らないことにチャレンジしてくれて、頭を下げて『どんな声をかければいいですか?』と聞いてくれたことは感動的でした。益子カップを続けてきて良かったなと思いました」

益子カップでは、大会の合間に選手、指導者、保護者を集めて、セミナーを開催しています。そこでは、スポーツメンタルコーチの資格を持つ益子さんが話をしたり、スポーツ選手に向けて、ポジティブな言葉をかける『ペップトーク』の講演を開催(先生をよんで)したりと、「怒らないこと」だけを伝えるのではなく、「怒らずに、どんな声掛けをすればいいのか?」まで踏み込んだアプローチをしています。

「益子カップは『子どもたちに、楽しいスポーツの場を』がコンセプトなのですが、それに付随して、指導者に気づきを与えることができればと思っています。私はアンガーマネージメントの勉強もしてるので、『怒りとは何か』『怒りっぽい人は、言葉のボキャブラリーが少ない』といったように、『なぜ怒るのか?』を理解してもらえるような取り組みもしています」

 

■保護者は子どもたちが話しやすい環境を作ってあげてほしい

ペップトークのセミナーをした後のコートでは、保護者が積極的にポジティブな言葉を使い始め、それが子どもたちに伝播し、良い雰囲気の中で試合が行われていったそうです。このように、子どもたちの成長のためには、指導者だけでなく、保護者の関わりも重要です。

「保護者の方は、最初から頭ごなしに否定するのではなく、子どもたちが話しやすい環境を作ってあげてほしいと思います。私が子どもの頃はとくにそうでしたが、考える機会を与えられず、ああしろ、こうしろ、これやっちゃだめ、そこに行ってはいけないと、禁止事項で育ってきました。バレーも同じで、自分で判断して何かを決めるということが、ほとんどありませんでした。『買い食い禁止』と言われても、なんで禁止なのか、理由を考えることもなく、『ルールだからダメ』と従っていました。それでは自主性も主体性も生まれませんよね」

 

■なんでも管理しルールで縛ることは、成長の機会を奪いかねない

子どもたちに『考える力』をつけさせるためには、答えを言ってやらせるのではなく、まずは子ども自身の考えのもとにやらせてみて、だめだったらどこを改善すればいいかを考えて、またチャレンジする。その繰り返しが必要です。

「部活でSNSを禁止されているところもありますが、コロナ禍で大学や企業のリクルーターさんはスカウトができないので、SNSを通じてコンタクトをとることもあります。SNSは上手に使えばプラスに働くのに、『SNS禁止』と、大人の考えでただ禁止されているところも多いです。そこは子どもたちに判断させる機会を作ってあげてほしいですし、何でも管理し、ルールで縛ることは、人として成長する機会を奪うことにもなりかねないと思います」

 

■サカイク10か条に共感。バレー界でも......

サカイクでは『子どもが心からサッカーを楽しむための10箇条』を掲げています。根底にあるのは「長い目で見て、子どもの成長を見守ること」です。益子さんはサカイク10箇条について、次のように話してくれました。

子どもの気持ちを一番に考えるところに感動しました。これを参考に、バレー界でも作ってみてもいいのかなと思います。海外にもこのような標語はたくさんあるので、参考にさせてもらっていますし、益子直美カップでも取り入れてみたいです」

スポーツメンタルコーチとしても活動し、指導現場に入る中で「高圧的な指導で結果を出してきたという、成功体験を持っている人たちの考えを変えるには、時間が必要」と感じている益子さん。「変化には痛みを伴いますが、時間をかけてわかってもらえれば」と考え、日々、取り組んでいます。

サカイクも、益子さんの今後の活動に注目していきたいと思います。

 

 

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益子直美(ますこなおみ)
東京都生まれ。中学入学と同時にバレーボールを始め、高校は地元の共栄学園に進学。春高バレーで準優勝し、3年生の時に全日本メンバー入り。1980年代後半から1990年代前半の女子バレーボール界を席巻した。卒業後はイトーヨーカドーに入団。全日本メンバーとして世界選手権2回、W杯に出場。現在はタレント、スポーツキャスターなど幅広く活動中。2019年にはどうしたら怒りや感情をコントロールできるのかを学ぶ「アンガーマネジメント」の資格を取得し、益子直美カップなどでも指導者に向け講習会を開催している。

益子直美カップの情報はこちら>>

 

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取材・文:鈴木智之

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