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インタビュー

元山梨学院サッカー部・長谷川大監督が育成年代で大事にする「再現性」を生む指導とは

公開:2022年4月 7日 更新:2024年2月 1日

キーワード:伊東純也再現性山梨学院心身のコンディション指導者日本代表神奈川大学秋田商業選手権優勝長谷川大監督離脱高校サッカー選手権

2020年度の高校サッカー選手権大会で2度目の日本一に輝いたのが、山梨学院高校です。立役者となったのは、監督として指揮を執った長谷川大さん。イヤホンを耳にし、ベンチから指示を送る姿が覚えている人も多いのではないでしょうか。

優勝の原動力となった的確な試合分析に加え、選手育成にも定評があり、前任の神奈川大学監督時代には日本代表のMF伊東純也選手(ベルギー・KRCヘンク)を指導しています。

昨年度限りで山梨学院高の監督を退任し、この春からはS級ライセンスの取得を目指す長谷川さんに育成年代での指導に関する考え方をお聞きしました。
(取材・文:森田将義 写真提供:長谷川大監督)

 

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選手たちに支持を与える長谷川監督。選手たちとは対話を大事にしていたという

 

■再現性を生むためには、自分で答えを見つけようとする姿勢が大事

「純也はこうしなさい、ああしないさないと強制的に指導されてきたら、たぶんサッカーをやめていたと思います。ずっとノビノビ自由にやってきたから、今がある」。

伊東選手について評する通り、長谷川さんも神奈川大時代は選手の自主性を大切にする指導を行ってきました。選手に具体的なアドバイスを送るのは選手が壁にぶつかった時のみ。基本的には選手自らが考え、判断するよう促してきました。

象徴的なのは、伊東選手が4年生だった頃のエピソードです。シュートが入らなくなったため、ドリブルスピードを落とし、顔を上げる事でシュートの質を上げようとしていた伊東選手に対し、「外しても良いよ。だったら、今まで5本打っていたのを8本打ってみろ。そうすれば1本ぐらい多く入るかもしれない。君はシュートを増やして、点をとるタイプだ」とアドバイス。その結果、再び大学サッカーで活躍し始め、その後の飛躍へと繋がりました。

スランプに陥る前にアドバイスするのも一つの手ですが、長谷川さんの考え方は違います。

「指導者が正解を教えてしまうと再現性が生まれません。一番大切なのは、自分で答えを見つけようとする姿勢を育む事。幼少期にやっていた「かくれんぼ」を思い出しても、誰かに居場所を教えて見つけるより、自分で工夫して見つけた時の方が喜びは大きい。成功体験を1度味わうと、子どもは同じ方法を再現しようとする。成功した時にちゃんと誉めてあげるぐらい、指導者がちゃんと見てあげていれば、また同じ事をやってみようとなる。成功しなくなった時には、また新しい事が必要だとヒントを与えてあげれば良い」。

 

■指導者を始めたばかりの頃はゲームのスイッチボタンを押しているだけだった

2019年度に移った山梨学院高でも大学生に接するのと同じスタンスで指導を行っていましたが、現役時代を過ごし、指導者としてのキャリアを始めた秋田商業高校時代は今とは全く違う指導法だったと言います。

商業高校はその名の通り、接客業を始めとしたビジネスに必要な知識やマナーを身に付ける高校です。「商業は人作り。お客さんは神様という発想で耐性と言いますか、お客さんに理不尽な事を言われても、我慢する力を身に付けるのが商業高校の強みと教わっていた。だから、先生の言う事は絶対だし、周りから言われる事も絶対に守らなければいけない」(長谷川さん)。

そうした考えは、サッカー部の指導でも変わりません。今でこそ伝統だった坊主頭を廃止し、髪を伸ばし始めるなど時代に合った指導が行われていますが、長谷川さんが監督だった時代は「社会よりも厳しい状況をあえて作り出し、社会に出た時に厳しいと思わせないようにしたいと考えていました」。また、コーチから監督になったのは30歳になる直前で選手の育成以上に、どうすれば勝てるのかを主に模索していました。

「今にして思うと、若い頃はゲームのスイッチボタンを押しているだけだった。指導者がボタンを押せば、言われた所にボールを蹴って、諦めずに走りなさいというだけだった。選手には誰でも良いと言っているのと等しいくらい同じことを求めていました。そうしたマインドの指導者は、『アイツは使えない』なんて言葉が自然に出てくる。使えないというのは、自分が思っている通りに動かないから。『アイツは使える』というのは良い選手ではなく、自分が意図したプレーをひたすらやってくれるから」。

 

■教育としてサッカーを教えるなら、自分で考える土壌を作らなければいけない

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2020年の高校サッカー選手権では山梨学院高校を率いて優勝を手にした長谷川監督(写真右)

 

当時の厳しい指導は、高校を出て就職する選手も多いチームならではで、社会に出る選手の将来を思ってのもの。今とは時代背景も違うため、長谷川さんの指導は決して間違っていたとは言えません。

ですが、母校を離れて指導者として様々なキャリアを積むうちに考え方に変化が生まれました。

「使える選手を育てるのは、仕事として監督に使われるプロになってからでも良い。教育としてサッカーを教える際は、自分で考える土壌を作らないといけない。自分で考えられる選手が、ロジック(論理)をしっかり理解した上で、自ら進んで行動するのが凄く大切。指導者に言われて理由なくやるのとは全く意味合いが違います」。

考え方に大きな変化が生まれたのは、2014年に神奈川大の監督となり、これまでの高校生から大学生を指導するようになってからです。

以前は高校の部活動でよく見られる一糸乱れぬような挨拶や行動が何よりも素晴らしいと考えていましたが、大学に行くとそれぞれのスタイルで行う挨拶や、個々の責任ある行動力を目の当たりにしました。高校とは違い、全員が揃ってきちんと挨拶するわけではありませんが、より自主性が求められる中でも、礼儀が大事と考え、敬意を示すためにとっている大人としての行動です。

「彼らの立ち居振る舞いをとても素晴らしいと思ったんです。高校の集団的指導が素晴らしいと考える文化しか知らなかったけど、大学生はよく考えて、自分たちにとって今必要なことをやっている。今までの指導とは両極端かもしれませんが、どちらも大事だと気付いた時に、一番大切なのは真ん中だと思いました。組織として団結した行動もできるし、それぞれが考えて行動もできる。大学生への指導で出た答えが、『その場に応じた確かな行動力とその説明責任を果たせる逞しい人作り』でした」。

 

選手に対する考え方が変わった長谷川さんが、神奈川大でどんな指導を行っていたかは具体例を交えながら、後編で紹介します。

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取材・文:森田将義 写真提供:長谷川大監督

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