■広島観音高校の「子どもにまかせる」新常識
このコーナーでは毎回、知っていそうでいなかった世界のサッカー事情について、ランダムにとりあげます。世界各国で様々に楽しまれているサッカーというスポーツの奥深さを感じるような話題、子どもとの会話のネタになるような話題を数多くセレクトしていく予定です。
第一回目は日本のユニークな指導方針を持つ高校チームの話題。「広島観音高校」サッカー部のお話です。強豪ひしめく県内でも常にトップレベルの成績をキープし続け、全国大会でも確かな実績を残しているこのチーム。ユニークな点は就任13年目となる若き知将・畑喜美夫監督のチーム運営手法です。その運営哲学をズバリ一言でいえば「選手自身が考えて決める」こと。こう書くと、ありきたりにも思えますが、このチームの選手が「考える」「判断する」領域は、他に類を見ないほどです。
全てを選手間で話し合って決めるというチームでは、もちろんキャプテンの選出も選手同士で決めていきます。さらには、試合に出る先発メンバー、サブメンバーまでをも、キャプテンを始めとした選手達が考え決めていくというスタイルをとっているのです。監督やコーチはもちろん助言をすることもありますが、基本的には全てを選手間で決めていきます。
試合では対戦相手の情報を分析した上で、前半はこう戦い、後半のチャンスにはどの選手を入れかえて、といったゲームプランまでをも選手達自身が考え、決定していくのです。監督は次の試合でどの選手が出場し、どの選手がサブメンバーとなるか、直前まで知らないと言います。それほどまでに選手を信頼し、選手自身もこの期待に応えるという理想的な関係が、このチームを支えているのです。
通常、大人たちは「こうしろ」「あれはやっていけない」と、指示を出したくなるもの。でもこれらの言動は裏を返せば、「子どもを信頼していない」ということにもつながっています。畑監督がかかげるミッションは「高校を卒業した後、1人で生きていく力を養うこと」。
このために必要な「考えて判断する」力を養う場がサッカー部の部活動となっているのです。どんな場面でも選手を主役に立てる監督やコーチ達。そして、「自由」の裏には必ず「責任」がついてまわることを実感している選手達。このような関係をキープしながら「勝利」という結果も出す広島観音高校は、スポーツマネジメントの分野において非常に注目される存在でもあり、これからのチーム運営手法のスタンダードとなるかどうかという点にも、興味が集まっています。
まずは、子どもたちの潜在能力を信じること。そして、彼らの力を伸ばすため敢えて「まかせていく」こと。このチームが私たちに教えてくれることは少なくありません。