5月25日深夜(日本時間5月26日3:45~)、いよいよ今シーズンの欧州サッカーも『FINAL』を迎えます。
5月16日に行われたヨーロッパリーグ決勝を制したのはチェルシー。各国リーグに目を移すと、リーガ・エスパニョーラはバルセロナ。プレミアリーグはマンチェスター・ユナイテッド。ブンデスリーガはバイエルン・ミュンヘン。セリエAはユベントス。すでに各国の覇者が続々と決まり、残るは『チャンピオンズリーグ』、すなわち欧州全体の頂点を決める戦いのみ!
その決勝の舞台に立つのは、バイエルンとドルトムント。準決勝ではスペインの2強、バルセロナとレアル・マドリードをそれぞれ下し、ドイツ勢同士の対決が実現しました。
今回は今シーズンのラストマッチ、チャンピオンズリーグ決勝の見どころを、特に個人のテクニックにフォーカスしてお届けしたいと思います。
■ロッベンやリベリーといった不動のサイドハーフが肝となるバイエルン
右サイドハーフ アリエン・ロッベン
スピードがあり、スペースがある状況での1対1に非常に強い選手です。左足にボールを置き、中央へカットインしていくプレーを得意としています。
準決勝のバルセロナ戦ファーストレグでは、後半48分、対応するジョルディ・アルバがロッベンの得意な中央側へのコースを切り、ワンサイドカットで縦へ、右足側へ追い込もうと試みました。
しかし、この縦へ行くスピードもロッベンは非常に速く、アルバを置き去りにしました。このとき追いかけるアルバは、バイエルンのミュラーに進路を遮られるアクシデントもあり、バルセロナはファールを主張しましたが、聞き入れられず。ロッベンがそのまま先制ゴールを挙げました。
かといって縦に抜かれないように間合いを空けていると、強力な左足のミドルシュートも飛んできます。中央を防いでも、縦を防いでもダメ。
ドルトムントの左サイドバックはシュメルツァーですが、彼とロッベンとの1対1をできるだけ作らないように、左サイドハーフやボランチなどがヘルプし、複数人で守備をすることがキーポイントになるでしょう。
ゲッツェが残念ながらケガで欠場する可能性が高まっていることから、グロスクロイツが先発するかもしれません。その場合、ドルトムントの攻撃力は落ちますが、守備に献身的なグロスクロイツが左サイドハーフに入ることでロッベン対策は万全になるかもしれません。クロップ監督の采配に注目してみましょう。
左サイドハーフ フランク・リベリー
リベリーはバイエルンの攻守の鍵を握る重要な選手です。ボールを運ぶドリブルテクニックに非常に優れており、簡単にはボールを失いません。フィジカルが強いので、体が半分でも抜け出せば肩や腰をグイッと入れて力強くボールキープします。左右にボールを動かしても、体の芯が整ったままでブレないため、ドリブルに安定感があります。
同じドリブラーでも、ロッベンの場合は「エイヤッ」と仕掛けて、相手に引っかかってしまったらそれで終わり。ボールを奪われてしまいます。この辺りはアッサリしたものです。
しかし、リベリーはしつこい。体をぶつけて競り合う力があるので、完全にボールを奪い切るという意味では、ロッベン以上に難しい相手と言えるでしょう。
カウンターの場面などでも長い距離を1人でドリブルできる選手で、バイエルンの攻撃の起点としても非常に重要。さらに守備もサボりません。
先月、宮城県塩釜市で行われた「FCバイエルン・ミュンヘン ユースカップ」の選手選考会にやってきたドイツ往年の名選手、パウル・ブライトナー氏も「我々は第2のリベリーの育成に力を入れなければならない」と語っていたそうです。選手層の厚いバイエルンでさえ、リベリーの代わりはいません。試合の主導権を握るためには、ドルトムントはリベリーに対し、神の速さでプレッシャーをかけなければならないでしょう。
■クロップ監督の采配にも注目したいドルトムント
1トップ レヴァンドフスキ
あまり巧そうに見えない、しかし、上手い。それがレヴァンドフスキです。
香川やゲッツェに比べるとボールさばきの美しさは劣りますが、元々は香川とトップ下のポジションを争ったくらいなので、魅せるテクニックではなくても、足元の基礎技術には定評があります。
特に優れているのは、相手との駆け引き。レアル・マドリードとの準決勝では、ゴール前で足の裏を使ってボールを引いてDFをかわし、強烈なシュートを叩き込みました。テクニックとしてはそんなに難しいことをやったわけではありません。誰にでもできるボールさばき、しかし、あの場所、あの状況ではなかなかできることではないのです。
ゴール前で相手DFがワーッと襲いかかってきたら、「やばい! 早くシュートしなきゃ!」と思ってあせるのが、普通の選手の心理です。しかし、レヴァンドフスキは最後まで落ち着き払っていました。そう、あせっているのは自分だけではないのです。相手DFも「やばい! 早くクリアしないとシュートを決められる!」と必死の形相で襲い掛かってくる。しかも、相手はPKを与えるのを恐れてガッツリとぶつかることができません。実は、シュートを打つ側がかなり有利なのです。
レヴァンドフスキは巧そうに見えないけど上手い、というのはそういう意味です。巧いかどうかはサッカーではない。実際にそのテクニックでかわせるかどうか、それがサッカーです。
このような落ち着きのあるプレーに加えて、レヴァンドフスキは体のサイズもあるので、サイドに流れたり、裏のスペースへ飛び出したり、さまざまなエリアで攻撃の基点となるポストプレーを行うことができます。
1トップはバイエルンのマンジュキッチも、レヴァンドフスキと似たタイプで、広い範囲でプレーすることができる選手です。彼らが2列目の選手たちをどのように活かすか。そして、それをDFがどう防ぐか。試合のキーポイントの一つと言えるでしょう。
トップ下 マルコ・ロイス
トップ下と書きましたが、これはゲッツェ欠場を仮定したときの筆者の予想です。
ロイスは左サイドハーフに入ることもありますが、前述したロッベンとの関係で、左サイドハーフはグロスクロイツが務めたほうが守備のバランスが良くなりそうなので、ロイスは守備の負担が少ないトップ下に置くほうが良いのでは、と筆者は考えます。
あるいはもっと攻撃的にスタメンを組むのなら、ギュンドアンをトップ下に置き、左サイドハーフがロイス、ボランチにシャヒンとベンダーを並べる布陣も考えられるでしょう。
ゲッツェを欠く可能性が高く、センターバックのフンメルスも万全のコンディションではないことを考えると、ドルトムントはやや台所事情が厳しい。クロップ監督の決断に注目です。
ちなみにロイスですが、ドルトムントに移籍する前のボルシア・メンヘングラードバッハに所属しているときは、大津祐樹のチームメートでした。その大津が当時、「あいつにはかなわない」と降参していたのがロイスでした。
スピードと力強さのあるドリブル、相手の手前に来ると急激に切り返すことができる体の無理も利きます。ミドルシュートのパワーも充分。ちょっと大津に似たタイプです。もしかすると似たタイプだけに、大津は「ここなら自分は勝てる」という部分をロイスに対しては見出しづらかったのかもしれません。
いつの日か、大津がこの舞台に立つ選手に成長するのではないか。そういう目線で彼のプレーを見るのも面白いかもしれません。
■打ち合うか、様子を見ながらカウンターか?
全体的には正直、どんな試合になるのか想像がつきません。ものすごく派手に打ち合って、点の取り合いになるかもしれません。あるいはお互いに少し引いた状態から、カウンターをねらうかもしれません。その場合はサイド攻撃、サイドバックがどのように攻撃参加するのかが重要になるでしょう。
まずは開始15分がキーポイント。まばたきの許されない展開になりそうです。
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文/清水英斗 写真/新井賢一(ダノンネーションズカップ2013より)