サッカー豆知識
全員が上手くなっているのを実感! 育成先進国ドイツが導入を推奨する「3対3」を取り入れた指導者の声
公開:2020年3月13日
さる1月23日(土)、茨城県桜川市で行われた、きたぐりユナイテッドFC主催のフニーニョクリニック。前編では講師の中野吉之伴さんにお話を伺い、フニーニョ(Fun 英語:楽しむ +Niño スペイン語:子どもから作られた造語)のメリットや効果をレポートしました。
後編では、なぜこの大会を開催しようという思いに至ったのか、きたぐりユナイテッドFC代表の大山宏和さんに伺うとともに、このクリニックを見学に来ていた池上正さんのフニーニョへの見解についてもお送りします。
(取材・文・写真 中村僚)
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■どうして「フニーニョ」のクリニックを開催しようと思ったのか
この大会を主催したきたぐりユナイテッドFC代表の大山さんは、以前よりサッカーの指導者としての知識をアップデートすべく情報収集をしていたそうで、様々なセミナーや講習会などを受講するうちに中野さんの存在を知ったのだそうです。
そして中野さんが発信する育成年代の指導者としてのあり方などの情報に共感し、「フニーニョ」の事も知り、今回のオファーをする経緯となったのです。
大山さんのチームは選手数が多くなく、試合の際には異年齢の選手たちをミックスして助け合っていることもあり、フニーニョを通じてみんながボールに触れることがチームの底上げにつながることを実感しており、それを他のチームにも知ってほしいという期待を寄せてのクリニック主催だったそうです。
■指導者は子どもたちを窮屈にしないこと。自分で気づくまで待つ、無理強いしないことも大事
この日、クリニックに集まったのは、チームも年代もバラバラの子どもたち。チーム単位で参加した子もいれば、個人で参加した子もいました。そんな子どもたちが約50人も集まれば、性格、能力、体格、そしてサッカーへの取り組みの熱意も、みなそれぞれ違うものです。
こんな場面がありました。フニーニョのルール説明のために中野さんが子どもたちを集め、ルールと約束事を説明します。しかし、中野さんの話をまるで聞かずにボールで遊び出す子がいました。傍目で見ていると「しっかり話を聞きなさい!」と言いたくなる場面です。ところが、中野さんはその子に注意をしたりしませんでした。
また、フニーニョの間のトレーニングで鬼ごっこを行いました。ボールを使った鬼ごっこで、鬼同士、あるいは逃げるもの同士が連携する必要があるルールです。そこには、初めて集まった子ども同士が打ち解けるために、コミュニケーションを活発にさせる狙いがありました。いくつかのグループに分かれて行いましたが、中には練習の意図やルールがなかなか伝わらず、最終的に普通の鬼ごっこで遊び出すグループもありました。
それでも中野さんは、怒ったり注意したりはしません。ルールや意図がわからなければ、その後のトレーニングの成果にも影響すると考えても不思議ではなく、どうしても子どもを矯正したくなってしまうもの。中野さんは放っておいた理由を、「種まきのようなもの」と話してくれました。
「私の指導は種まきのようなものです。今日うまくプレーできなかった子や、練習の狙いがわからなかった子もいたと思いますが、それに子どもが自分で気づくことも成長のひとつ。私自身はもちろんトレーニングのテーマを持っていますが、1回のトレーニングでここまで達したい、というようなラインを引くことはありません。サッカーではうまくいかないことの方が多いし、一度でうまくプレーできたとしたら指導者側の負荷設定が間違っている場合もあります。こだわりはありますけど、子どもたちを窮屈にしたくありませんから」
■オーガナイズ次第で「振り返る力」や「意見を口に出す力」「話し合う力」も育てられる
この日は1ゲーム終了ごとに1分間の作戦タイムが設けられました。前の試合を反省したり、次の試合の戦い方を話し合ったり、あるいは何を話せばいいかわからずただの雑談時間になったり......。すべてのチームが時間を有効に使えたわけではありませんが、うまく活用できるようになると、サッカーだけではなく社会を生きる力をも身につけられる、とこのイベントを見学に来ていた池上正さんは言います。
試合の振り返りや改善提案のアイデアを出す事、みんなの意見を聞く耳を持つことや自分の意見を口に出す習慣、チームメイトの意見をまとめて「折り合いをつける」(=納得できるポイントを探る)力も付いてくると期待されるそう。
技術面の向上だけでなく、工夫次第で上記のようなスキルを養う場にもなりうるのです。
池上さんは昨夏のドイツ視察でもフニーニョを間近で見て、とても良い練習だと感じたそうです。この日の見学についても意見をいただくと「全員がボールに触れることで、みんなが上手くなる。フニーニョは優れたトレーニングになるし、日本でももっと広く知られるようになって、多くの現場で取り入れると、日本人のサッカーがもっとレベルアップするでしょう」と、フニーニョの普及に期待を寄せました。
■主催者も実感! フニーニョでチーム全員が上手くなる
今回のクリニックを開催したきたぐりユナイテッド代表の大山さんも、フニーニョをチームに取り入れて効果を実感したと言います。複雑なのであれこれ指示を出さないといけないかと思っていたそうですが、実際には大人の介入はあまり必要ないとのことでした。
「最初はどちらかのゴールに偏りがちでしたが、少しずつ逆のゴールを狙うようになり、そのうち大人側が想像もしていなかったプレーも見せてくれるようになりました。そこに大人の介入はあまり必要ありません。3対3なら出場しているみんながボールに触れるので、チーム全員がうまくなっていく実感があります」
この日は選手の保護者たちも大勢集まりましたが、子どもたちへはなるべく声をかけないように大山さんから説明。実際に、大人の大きな声はあまり聞こえませんでした。
そもそもフニーニョがドイツで奨励されている背景のひとつに、大人が勝負にこだわりすぎている、という面があります。3対3、4ゴールといった表面的な仕組みだけでなく、子どもたちがのびのびとサッカーを楽しくプレーできるような雰囲気を作っていくこと。そんな空気感も含めた光景が「フニーニョ」=Fun(英語:楽しむ)+Niño(スペイン語:子ども)である、と言えるかもしれません。
年齢に関わらずサッカーを始めたばかりなのに専門的な指導ばかりだったら楽しめませんし、その時上手な子ばかり起用していたら「のちに伸びる子」を見逃してしまうかもしれません。中学高校とサッカーを続けていれば伸びたかもしれない芽を摘んでその子がサッカーを辞めてしまわないように、あとから伸びる有望選手の育つ機会を逃さないように。ドイツがフニーニョを導入した理由もそんなところにあるようです。
楽しみながらみんながボールに触れる「フニーニョ」、皆さんのチームでも導入してみてはいかがでしょうか。
中野吉之伴(なかの・きちのすけ)
指導者/ジャーナリスト
大学卒業後、育成年代指導のノウハウを学ぶためにドイツへ渡る。現地でSCフライブルクU-15チームでの研修など様々な現場でサッカーを学び、2009年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)。2015年から日本帰国時に全国でサッカー講習会を開催し、よりグラスルーツに寄り添った活動を行う。
主な指導歴:フライブルガーFC(元ブンデスリーガクラブ)U-16監督/U-16・18総監督などを経て現在はフライブルガーFCのU13監督を務める。
著書・監修本に「サッカードイツ流タテの突破力」(池田書店 ※監修/2016年)/「サッカー年代別トレーニングの教科書」(カンゼン ※著者/2016年)/「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」(ナツメ社 ※著者/2017年)などがある。
大山宏和(おおやま・ひろかず)
きたぐりユナイテッドFC代表
茨城県桜川市で活動するきたぐりユナイテッドFCでは、桜川市近隣地域の幼児から小学校6年生までの児童を対象に、サッカーを通じてサッカーは楽しいという気持ちを実感しながら何事にも失敗を恐れずチャレンジ出来るジュニア年代の育成を目指している。
JFA公認B級ライセンス/JFAスポーツマネジャーズ資格Grade2/JFAキッズリーダー/スポーツリズムトレーニング協会公認ディフューザー資格/JFA公認4級審判員