サッカー豆知識
昔はなかった 「飲水タイム」と「クーリングブレイク」とは? 新米お父さんコーチに覚えてほしい育成の新常識
公開:2021年4月27日 更新:2021年5月18日
4月は新学期のスタート。新たにコーチになったり、審判をやってみる方も多いのではないでしょうか? 実は、お父さん世代が学生だった頃とは大きく変わっているルールもあります。
3級審判資格を取得し、主に「サッカー審判批評」という分野でジャーナリストとして活躍する石井紘人さんに聞く「2021年4月版の最新ルール解釈」。
後編では「ゴールキック」「オフサイド」「PK時の、GKの立ち位置」「夏場の対策」について、話をうかがっていきます。
(取材・文:鈴木智之)
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■ゴールキックをペナルティエリア内で受けてもよくなった
2019/20年の競技規則改正による、大きなルール改正が「ゴールキック」についてです。これまでゴールキックのボールは、「ペナルティエリアの外」でしか受けることができませんでした。しかし、2019/20年のルール改正により「ペナルティエリア内で受けても良い」ことになりました。
これは育成年代において、歓迎すべき変更と言えるでしょう。GKを使ってビルドアップすることができますし、キックが飛ばない場合、自陣ゴール前でボールを奪われるケースも減りそうです。
当然のことですが、ゴールキックのとき、相手チームの選手はペナルティエリアの中に入ってはいけません。これは覚えておきたいポイントです。
「相手チームの選手がペナルティエリアに入った状態で、ゴールキックのボールが蹴られた場合はやり直しです。また、クイックリスタートは認められていますが、ボールがしっかりと止まった(静止した)状態で始めましょう。ボールが転がっていたらやり直しです」
早くリスタートしたいあまり、ボールが転がった状態で蹴ってしまうことがありますが、それをするとやり直しになってしまうので、気をつけましょう。
■PK時のキーパーの足の位置が変更になった
続いては「PK時のGKの立ち位置」についてです。石井さんが説明します。
「2019/20の競技規則改正で、PK時にGKがセーブをする際に、左右どちらかの足がゴールライン上にかかっていればOKになりました。厳密にラインを踏むのではなく、空中にあってもOKです。これもVARの運用によるルール改正と考えられます」
レフェリーをするときは、PKの前にGKを呼び「両足がラインから離れていたら、シュートを止めたとしてもやり直しだからね」などとアドバイスをすると良いかもしれません。
「ゴールが入ったあとでも、『いまの出方だと、キックを止めてもやり直しになるから気をつけてね』と声をかけるとか、コミュニケーションをとって未然に防ぐことが大事だと思います。育成年代のレフェリーには、ディレクターな観点も必要です。レフェリーは取り締まる人ではなく、同じサッカーをする仲間という視点を持って、レフェリングをしてほしいと思います」
かつては、キッカーよりも先にGK動いてラインから飛び出してしまうと、1度目のプレーから警告が出されていましたが、2020/21年の競技規則改正により、1度目は注意、2度目から警告となりました。
「これはGKが試合中に1度警告を受けていた場合、PK戦の1プレーで2枚目の警告となり、退場になるのを防ぐ狙いがあると推測します」
GKにとっては、思い切ってプレーしやすくなったと言えるでしょう。
■新米コーチにはわかりづらいオフサイドのルール
オフサイドについても、ここでおさらいしておきましょう。判断に困るケースが、守備側の選手の足に当たったり、キックミスによって、オフサイドポジションにいる攻撃側の選手にボールが渡ったときです。
「相手のディフェンダーがクリアミスをして、オフサイドポジションにいる選手にボールが渡った場合はオフサイドではありません。もともと曖昧な部分だったのですが、数年前から明記されるようになりました。このケースは、ジュニアのサッカーでは意外とあると思います」
石井さんは「オフサイドについては、競技規則にわかりやすく書いてあるので、一読をおすすめします」とアドバイスをしてくれました。とくにオフサイドはゴールに直結しやすい場面で起きる判定なので、これを機に最新情報を改めて確認してみましょう。
■昔はなかった「飲水タイム」と「クーリングブレイク」
夏に向けて気温が高くなると、「飲水タイム」や「クーリングブレイク」も必要になります。
「小学生年代の試合では、WBGTが25℃以上の場合は『飲水タイム』、28℃以上では『クーリングブレイク』を行います。『飲水タイム』の場合は、監督は戦術的な指示をしてはいけないとされていますが、そこまで厳密に取り締まらなくてもいいのではと思います。選手と監督がコミュニケーションをとるぐらいはいいのかなと。作戦ボードを使って、『飲水タイム』の時間をオーバーしそうな仰々しいのは良くありませんが、とくに育成年代の試合は、杓子定規に注意をしなくてもいいと思います」
飲水タイムはピッチの中で水などを飲み、時間は1分ほど。クーリングブレイクはテントの中に入って涼んで良く、時間も3分とそれなりにあります。WBGTの数値によって決められていますが、体感温度や湿度の高さなどを考慮して、柔軟に運用したいところです。
2回に渡って石井さんに話をうかがってきましたが、大人がルールを正しく運用することが、結果として子どもたちの上達を導くことに加え、健康面をサポートすることにもつながります。これを機にルールを改めて学び直し、より良いレフェリング、指導に役立てましょう!
石井紘人(いしい・はやと)
過去、日本サッカー協会C級ライセンスと三級審判員取得。
サッカーは審判批評、他に運動生理学の批評を専門とする。『TokyoNHK2020』サイトで一年間に渡り、パラリンピックスポーツの取材を行い、現在は『J-cast』にて東京五輪へ向けたオリンピアンへのインタビューを連載中。
著作に『足指をまげるだけで腰痛は治る』(ぴあ)、プロデュース作品に久保竜彦が出演した『弾丸シュートを蹴る方法』(JVD)がある。株式会社ダブルインフィニティ代表取締役でもあり、JFA協力、Jリーグと制作したドキュメントDVD『審判~ピッチ上の、もう一つのチーム~』やJリーグベストゴールズ『メモリーズ&アーカイブス』の版元でもある。自身のサイトは『週刊審判批評』。