サッカー豆知識
育成に力を入れるジュニアユースが日本の育成年代の課題解消のために取り入れたブラジルのサッカー文化とは
公開:2023年9月25日 更新:2023年9月26日
日本クラブユース連盟(JCY)所属のジュニアユースクラブには、トップレベルを目指すだけでなく選手の人間的な成長にフォーカスして育成しているチームもあります。そのひとつが千葉県千葉市を拠点に活動するアベーリャス千葉FCです。
より良い選手を育成するために、様々な角度からアプローチする、アベーリャスの育成方針を紹介します。
(取材・文 鈴木智之)
後編:「勝ちを目指す以上に大事なものがある」アベーリャス千葉FCが選手育成で技術習得と同じぐらい大切にしていること>>
■チーム名に込められた想い
アベーリャス千葉FCは2010年、ブラジルサッカーにルーツを持つ、古川亮介さんが中心となり、創設されたクラブです。クラブ名の「アベーリャス」はポルトガル語で「みつばち」を意味する言葉。
古川さんは名前の由来を、次のように説明します。
「みつばちは人間が生まれる前から地球に存在しています。なぜ長い間、生き残れたかというと、それぞれが役割分担をしっかりしているからだと言われています。アベーリャスという名前は、みつばちの持つチームワークとブラジル代表のカラーでもある黄色からイメージしてつけました」
みつばちは仲間とコミュニケーションとる際に、8の字ダンスをします。8の字ダンスは、ブラジルサッカーのキーワードでもある"ジンガ"の動きに似ているほか、8の字を横に倒すと"∞"(無限)になります。
古川さんは「子どもたちの可能性は無限なんだという意味も込めています」と穏やかに語ります。
■育成を考えると受験のためにサッカーをしない約1年の空白は見過ごせない
代表の古川さんがサッカーの指導を始めたのは、大学生のとき。当時の恩師がブラジルと深い関係を持っており、大学時代に2週間のブラジル指導者研修に参加。その後、教員を経て、サッカー指導の勉強をしに、再びブラジルのサンパウロに渡ったと言います。
「私がブラジルにいた1990年前後、日本の中学年代は部活が盛んでしたが、3年生中心で1年生はあまり試合ができませんでした。夏の総体予選が終わると、高校受験のために引退することもあり、3年のうち1年程度はサッカーをしていないことに気がつきました」
学校制度にサッカーが紐づいている日本ならではの文化ですが、サッカー選手の育成を考えると、3年間でおよそ1年間の空白を見過ごすことはできません。
■ブラジルには「4つのグラウンドから選手が生まれる」という言葉がある
その課題を解消するために、古川さんはブラジルから帰国後、サッカークラブ(ジュニアユースのチーム)を立ち上げることにしました。それがFCクラッキス松戸です。
「私が指導していた頃、篠崎隆樹(元フットサル日本代表、湘南ベルマーレ、ペスカドーラ町田でプレー)や原一樹(清水、京都、北九州等でプレー)がいました。当時からブラジルの指導スタイルを取り入れていたので、幼稚園のグラウンドに小さなビーチコートを作り、裸足でサッカーをしていました。ブラジルからたくさん良い選手が生まれる背景には、子どもの頃からフットサルとビーチサッカーをやっていることが影響していると感じたので、その2つは取り入れました」
その後、2010年に立ち上げた、アベーリャス千葉でも、ビーチサッカーを取り入れ、2021年と2022年にはビーチサッカーの関東大会で優勝。翌2022年には、自前のグラウンド『カンポ ド マルシマ』に、人工芝グラウンドのほか、ビーチコートを持つに至りその直後の2023年3月にはビーチサッカー全国大会優勝。
「カタールW杯でブラジルのリシャルリソンがすごいオーバーヘッドを決めていましたが、子どもの頃にそのような動きを経験しているかは、ものすごく大きいと思います。ブラジルの選手が浮き球の処理が上手なのは、ビーチサッカーで培ったところもあるのではないでしょうか」
ブラジルには「4つのグラウンドから選手が生まれる」という言葉があります。4つのグラウンドとは、芝、土、硬いコート(ストリートやフットサル)、そしてビーチです。
アベーリャス千葉では、自前の人工芝のグラウンドに加えて、体育館でのフットサル、ビーチサッカー、中学校のグラウンド(土)と、あらゆる環境でボールを蹴ることを大事にしています。
■畑作業などサッカーを通じた様々な体験も重視
また、サッカーを通じて様々な体験を積ませることも重視しており、2010年から"畑サッカー"というイベントを開催しているそうです。
「千葉県の特産は落花生です。子どもたちに土の中から抜いて収穫させて、茹で落花生にして食べたり、畑の空いているスペースでサッカーをするイベントをしています。昔はうちのチームだけだったのですが、最近は『畑サッカーがやりたい』と、千葉の柏や松戸、流山、茨城のつくばなど、様々なところから来てくれています」
中学生になると、イベントを運営する側に回るそうで、落花生の他にさつまいもを収穫して、焼き芋にして食べたりと、サッカーを通じた経験の場をたくさん作っています。
「みつばちは花粉を運ぶ生き物です。彼らの活動によって、果物や野菜に実りをもたらします。アベーリャスには『人と人をつないで、人生に実りをもたらせるよう』にという思いも込められているんです」
■ジュニアからオーバー40まで何歳でもサッカーができる環境がある
アベーリャスはジュニア、ジュニアユース、トップチーム、オーバー40のチームを持つほか、親子サッカーやビーチサッカーなど、地域の人達がサッカーを中心につながることのできる活動を続けています。
近年はジュニアの選手がJクラブのジュニアユースに声をかけられたり、ジュニアユース出身の選手が、千葉県の強豪校で活躍するなど、個の育成面でも成果を出しつつあります。
サッカーだけでなく、様々な経験ができるアベーリャス千葉FC。このようなクラブが増えることは、日本サッカーの土壌を芳醇にする一因になるでしょう。
次回の記事では、アベーリャス千葉のサッカー面での取り組みを紹介します。
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