こころ
サポートと口出しの境界線。スイスサッカー協会が示す2つのメッセージ
公開:2013年2月28日
昨日に続き、今回もプレイヤーズファーストについて考えます。いきなりですが、ある手紙を紹介しようと思います。まずは、胸に手を当てて? 読んでみてください。
■子どもは何を望んでいる? 「だから、プレーをさせておいてください」
おとなのみなさんへ「ぼくたちのゲームを観に来てくれて、そしてぼくたちのこと、ぼくらのサッカーのことを気にかけてくれてどうもありがとう」今日はぼくたちの1日「ぼくたちは、サッカーをするのが楽しくて大好きなんだ。もちろん、ぼくらのうちのだれが勝っても楽しいんだ。でもぼくらにとって一番大事なのはプレーすることなんだよ」だから、プレーをさせておいてください「大声でさわがないでね。相手のチームや応援に対してもフェアな態度をとってね。ミスをしたからって、いちいち言わないで。そんなことを言われたらがっかりだし、言われたからってそう簡単にうまくできるようにはならないんだ」すべてのこどもより
これはスイスサッカー協会のキッズサッカー用の掲示ポスターにあるメッセージです。子どもたちに「大声でさわがないでね」なんてお願いされてしまっては、立つ瀬がありませんね。試合中に大声で騒いでいる大人たちの様子、子どもたちは無視しているようでいて、しっかり聞いていて、それを気にしたり、傷ついたりしているのです。
■パパへの手紙
もうひとつスイスサッカー協会から。子ども向けサッカー絵本の前文、パパへの手紙もご紹介しましょう。
Fユース(U-9)の子どもからパパへの手紙パパ、パパがこないだピッチの外に置いてあったゴールによじ登ってレフェリーに文句を言ったでしょ。あの時、僕はすごく頭にきて泣きそうになったんだ。あんな怒り方、今まで見たことなかったよ。たぶん、レフェリーが間違ったんだとは思う。でも、僕がたとえパパの言うように「レフェリーのせいで」試合に負けたんだとしても、そんなことはどうでもよくて、僕はとっても楽しかったんだ。わかってほしいんだ、パパ。僕はプレーしたい、それだけなんだよ。僕は楽しみたいんだ。だから、僕がプレーをしているときには、「パスしろ!」とか「シュートだ!」とか、叫び続けるのはやめて。パパの言うことはあっているのかもしれないけど、僕が緊張してしまうんだ。パパ、もう一つあるんだ。試合中にコーチが僕のことを交代させても、怒らないで。僕は、ベンチにすわってみんながプレーしているのを見るのだって楽しいんだよ。僕らは大勢いるし、みんながプレーしなきゃだめでしょ。それから、僕にサッカーシューズをきれいにするやりかたを教えてくれる? 僕のなんだからパパがやってくれなくていいんだ。僕が自分でできるようにならなきゃいけないんだよ。それからスポーツバッグは僕が自分で持ちたいんだ。バッグにはチームの名前が書いてあるから、僕がサッカー選手だってまわりのみんながわかるだろ? 僕、それが好きなんだ。パパ、お願い。試合の後にママに「今日は勝った」とか「負けた」とかって話すのはやめて。ママには僕がとっても楽しんでいたって伝えてほしいんだ。それから、僕がすごいシュートを決めたから勝った、って言うのもやめてね。だって、そうじゃないんだもの。僕がシュートを決めたのは、仲間が僕に良いパスをくれたからなんだよ。勝ったのは、僕らのチームのゴールキーパーが必死に相手のシュートを防いでくれて、チームの仲間が全員でせいいっぱいがんばったからなんだ。(コーチが僕らにそう教えてくれるんだ)怒らないでね、パパ。こんなことを書いてしまったけど。僕、パパが大好きなんだ。練習に遅れてしまうので、これでおしまいにするね。練習に遅刻すると、今度の試合にはじめから出してもらえないんだよ。じゃあね。
いかがだったでしょう。大人よりも“はるかに大人な”子どもたち。絵本だから、物語だから、と一言で片付けられないくらい、思わず「ウウーッ」と呻いてしまう内容ではないでしょうか? 「こうした方がいいに決まっている」「子どもたちはわからないから教えてやる」そんな大人の、自分の狭い価値観で子どもたちを縛ってしまうことがどれだけもったいないことか。
サカイクに登場していただく「考えるサッカー」を実践しているクラブの指導者のみなさんは声を揃えてこう言います「信じて任せれば子どもたちは大人たちが思っている以上のことをやってくれる」。子どもに色々教えて、導いてやっているつもりが、実は足かせ、リミッターになっているのかもしれないのです。
もちろん助言は必要ですし、サポートも必要です。その頃合いが難しいから「口を出さないほうがいいとわかっていてもついつい」という親御さんが多いのもよくわかります。サポートと口出しの境界、見える人には見えるけど、見えない人には見えない曖昧なラインが、スイスサッカー協会の示した2つのメッセージでなんとなく見えてきたのではないでしょうか? 今回紹介したメッセージは、日本サッカー協会が発行している「プレイヤーズファースト」という冊子にも載っています。こちらからダウンロードも可能ですので、ぜひ読んでみてください。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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文/大塚一樹 写真/サカイク編集部(ダノンネーションズカップ2012より)