子どもの「心の健康」について、うつ病やパニック障害などのストレス疾患の専門家、『しのだの森ホスピタル』の信田広晶院長にお聞きしています。後編はいよいよ、いますぐ役立つ子どもの心の危険度チェックです。
子どもたちは心に負担がかかっていても、大好きな親を悲しませたくないあまり我慢をします。また、自分の気持ちを明確に言語化できる能力も発達していないので、うまく言い表すこともできません。親に求められるのは、コミュニケーションを多くとって子どもから発せられる“サイン”をしっかりとキャッチすることです。
■子ども心の健康を測定! 7つの危険度チェックポイント
チェック1 □ 背中を触ると固い、肩こりがあるチェック2 □ 頭痛、腹痛を訴えるときがあるチェック3 □ 食事の量が減ったチェック4 □ いままでできたことができなくなったチェック5 □ 最近、サッカーをやっている最中の笑顔が減ってきたチェック6 □ サッカーの話をしなくなったチェック7 □ 複数回にわたって理由もなく練習をサボる
上に示したのは、子どもたちの心の健康の危険を知らせるサインです。ひとつでも当てはまったら、子どもたちの心の中で何かが起きている可能性があります。
「子どもたちの行動や様子をしっかりと観察することです。自分の都合で可愛がるのではなく、愛情を持った眼差しで常に注意を払い、見つめてあげる。当たり前のようですが、意外にこれができていないのかもしれません」
では、子どものどこに注目すればいいのでしょうか?
「子どもたちは言葉で言えない分、心に負担がかかったときには行動や身体に必ず異変が現れます」
■身体と心はつながっている 身体や行動に注意!
信田院長はチェックポイントにあげた例を示しながら、ひとつずつ解説します。
□背中を触ると固い、肩こりがある
大人の場合、うつ病の患者の多くは肩こりを持っています。心と身体は密接につながっていて、心が固く閉ざされている人は身体も内向きになり、肩こり、筋肉の張りが症状として出てきます。本来、筋肉の柔らかい子どもに肩こりはないはずですが、近年では肩こりを訴える子どもが増えているようです。これはひとつの“サイン”と言っていいでしょう。
□頭痛、腹痛を訴えるときがある
肩こりと同じく頭痛、腹痛も身体の変調ではなく、心の変調のサインである場合が多いと思われます。
□食事の量が減った
体調不良というわけではないのに、食事の量が減った。特に理由がないのに食べ残しが増えたという場合も、子どもが無意識に何かを訴えている可能性があります。
□いままでできたことができなくなった
サッカーであれば、やる気がないように見えたり、ミスが増えたり、注意力が散漫になったりする場合は、技術的な問題ではなく、心理面によるものの可能性もあります。
□最近、サッカーをやっている最中の笑顔が減ってきた
「楽しいからやる」これが子どもの心の健康を守るのに一番大切なことです。楽しいからはじめたサッカーからいつの間にか笑顔が消えていたというケースは要注意。もちろん真剣な表情と笑顔をなくすというのは違いますから、しっかり見てあげてください。
□サッカーの話をしなくなった
親子関係においては、会話の量はその健全度を測る目安になるものですが、その会話の中に「サッカー」というキーワードが減ることがあれば、さらに注意深く観察をしてみてください。もしかしたら、他のことに興味がある、またはサッカーに興味が向かない理由があるのかもしれません。
□複数回にわたって理由もなく練習をサボる
子どもの気持ちは気まぐれで、特に意味もなく練習に行きたがらないと言うことも十分に考えられます。「行きたくない」という度に何かあったのかもしれないと気を回していては大変ですが、それが数日続いた場合、複数回にわたった場合には、ケアする必要があるかもしれません。
■大切なのは変化を見逃さず、注意深く観察すること
信田院長は、これらのサインを見逃さないためにもやはり親は子どもをしっかりと観察すること、コミュニケーションをとる機会をなるべく増やすことが大切だと言います。
「少子化や晩婚化、親の過保護に加えて祖父母の孫への過保護など、社会環境の変化で、子ども一人に対する愛情や期待はかつてないほど大きくなっています。その一方で、見守る、コミュニケーションをとるといった“適切な愛情”を受けられないまま、抑圧された子ども時代を送る子どもの割合も増えています。いますぐにうつ病にかかるわけではありませんが、心の健康度が低い子どもは将来的にうつ病など、心の病を発症する可能性が高いことを知っておいてください」
信田院長は「子どもは大人が思っている以上に従順で素直」だと言います。「パパやママのために」「お父さんが褒めてくれるから」はじめは好きではじめたサッカーでも、いつの間にか「親に認めてもらうため」の関わりにすり替わってしまう危険性があります。
子どもの身体や行動に変化があったとき。それは単なるわがままではなく、心の危険信号かもしれません。保護者の方にはその危険信号をうまく受け取れる準備が求められています。
信田広晶(しのだ・ひろあき)
東邦大学医学部卒業。東京女子医科大学病院勤務を経て、しのだの森ホスピタル理事長。千葉県八千代市にあるクリニック、しのだの森ホスピタルでうつ病などの気分障害、精神疾患の治療に取り組む。早くから患者個人に合わせたオーダーメイド治療の必要性を訴え、個別性を重視する多様なプログラムを提供している。
千葉県八千代市島田台1212番地
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取材・文/大塚一樹 写真/新井賢一(ダノンネーションズカップ2013より)