選手時代は、その圧倒的な運動量から『中盤のダイナモ』と称された北澤豪さん。ヴェルディ川崎の主力として、また日本代表としてW杯アジア最終予選でも活躍した彼は、高校3年と中学3年の息子、小学5年の娘の父でもあります。子育て歴は20年に及びます。前回記事『北澤豪の父親論!「うちの子は全然ダメで」という謙遜はNG』で自身の父親論を語ってくれた北澤豪さんに、今回は、親としてどのように子どもの試合を観戦するべきか、アドバイスをうかがってきました。(取材・文/前田陽子 写真提供/FOOTサッカースクール)
■小さなときから歓声の中でプレーしてほしい
― 親に試合を観に来ないでほしいという子どもがいますが、どう思われますか?
ぼくも「来るな」と言われたことはありますよ。でも、まず「なんで?」って聞きます。きっと、試合を観ていろいろと文句を言われるのがイヤなんだろうけれど、生意気だよね(笑)。親は子どもの試合を観に行った方がいいと思います。そして「がんばれ」と声援を送り、いいプレーには拍手を送りましょう。最近「判断ができなくなるような応援はやめましょう」とあちこちで言われていて、黙って見ている人が増えてしまったように感じます。グラウンドが静かだなって。ぼくはいいプレーには拍手を送る、気の抜けたプレーには「なにやってんだ」くらいは言っていいと考えています。だって、ワールドカップに出たら観客は8万人です。そう考えるとザワザワした中でのプレーに慣れておいた方がいいでしょ(笑)
― 小学生の子どもたちのプレーにどういう声をかけてあげたらいいのでしょう。
「ドンマイ!」とか「次行こう!」と声をかけましょう。残酷かもしれないけど、ピッチ上では「なんでだよ!!」と怒るチームメイトがいるのも現実です。周りの声援があればそういう声もかき消されます。周囲が静かだと罵声が目立ってしまって雰囲気も悪くなる。どちらかというと性格の弱い子どもがプレーしにくい環境になっているのは、応援の声が聞こえないからなのかもしれません。そういう意味でも声援は親がサポートできる部分ではないでしょうか。みんなで子どもを育てようっていう風潮が、いまの時代だからこそあって欲しいですよね。
― 最近は昔のように、近所で一丸となって子どもを育てる環境が、なくなってきていますよね。
そうなんですよ。だからこそグループで集まったときには、そういった「周りが教える」「周りが育てる」というような意識があっていいかなと思います。親も一緒にサッカーに関わって、練習中でも試合中でも大声で笑えるような環境がジュニア年代には必要なんじゃないかと。もちろんサッカーは勝ち負けの勝負なので、そこは真剣にプレーしなければいけません。育成年代だからといって、勝つことを求めないのは違和感があります。たとえ練習試合でも、サッカーには負けていい試合なんてひとつもないですから。一生懸命競わせるから、感受性や感情コントロールを育ませることができるんです。シチュエーションや物事の良し悪しによって、じゃあ次どうしようと考える。それがサッカーです。だから、勝つという前提を崩してはいけない。最近、育成中だから勝たなくてもいいという考えの人が増えていますよね。まずは一生懸命やるということが絶対に必要で、それには勝つという目標を持つこと。育成年代は特にそのプロセスをどう評価するかが大切なんですよ。
― 親として子どものがんばりを褒めてあげることが大事なんですね。
もちろん、中途半端にプレーしていて負けたのなら、怒ることも必要です。けれど、一生懸命プレーしても負けることはあります。だから親御さんには「今日がんばっていたな」と声をかけてあげてほしいですね。そして、試合に負けということはなにか問題があるはずなので、その原因を話し合って次の試合でどうプレーするかを考えさせることが必要だと思います。そこは親としてサポートしてほしいところですね。
■布団をたたんで勝利を呼びこむ
― その役割は父親が行うべきですか?
両方あるでしょうね。お母さんなら、私生活の部分から話すことができると思います。「朝寝坊が多いから駄目だったんじゃない」とか。ぼくは小さいころ、朝の支度がいい加減のまま家を出ると、試合で活躍できずに悔しい思いをすることが多かったんです。なので、Jリーガーになってからもホテルの布団をきちんと整えてから出かけるようにしていました。心身ともに気持ちよく過ごすというか、一見サッカーとは関係ないと思いがちですが、そういうことがすごく大切だと実感しています。自分がやるべきことをやりきっていくと自信を持ってプレーできます。「やり残したことがないから、今日は行けるぜ!」みたいな雰囲気になれるんですね。これはサッカー以外でも、テストでもなんでもそうだったと思います。
― 布団を整えるのは、小学生のころからの習慣ですか?
サッカーを始めたときからの習慣です。整えておくと落ち着いてグラウンドに入れます。きっと、朝からプランされているのでしょうね。布団を片付けながら、グラウンドに立つ姿が想像しているのかもしれません。布団を片付けないままだと、グラウンドに行ってやっとサッカーのことを考えるというか、なにも準備をしないままグラウンドに来てしまったような気持ちになります。
自分がそうしているからかもしれませんが、子どもたちもそれぞれルーティーンのようなものがあって、こなしているようですよ。
― 親の行動が子どもに影響を与えるんですね
整理整頓の意味でもいいし、暗示ではないけどルーティーンとして実行できるものはあった方がいいと思います。サッカー選手のほとんどが、なにかしらゲンを担いでいますよ。ピッチには右足から入るとか、祈ってから入るとか。
― 子どもたちに整理整頓以外で伝えたいことはありますか?
食事の仕方は気をつけてほしいと思います。アジアの大会や国際大会に出て行くと食事の仕方をすごく見られていると実感します。日本では口を開けてごはんを食べるとか、ひじをつくことがわりと許されてしまいますが、海外に行ったときに恥をかくことになってしまいます。それと「お母さんと喧嘩したら絶対いいプレーはできないぞ」と言っていますね。小学校の高学年ぐらいからお母さんともめることが増えると思います。ぼくも小さいころ母ともめた日は、いいプレーができませんでした。家を出るときに親と喧嘩したままでは、すごく嫌な気持ちになります。どんなことも斜に構えるというか、素直に受け止められなくて。僕もそうでしたが、なにをやってももうダメなんですよね。だから、お母さんと喧嘩はするなって教えています。
― 子育てでこれをしておけば良かったと感じていることがあったら、教えてください。
もっといろいろな場所へ連れて行けば良かったかなと思います。感性を感じる場だったり、大きな音がするコンサートだったり、絵を見に行くとか。もっと必要だったかなと。これまでもそういうつもりでやってきたけど、もっとやってあげたかったですね。子どもが小さいうちは時間が取れるし、親の都合、好みでついてきてくれるので、子どもが言うことを聞いてくれるうちに、いろいろな経験を積ませてあげてください。
取材・文/前田陽子 写真提供/FOOTサッカースクール