アジアカップ準々決勝でUAEに敗れた日本代表。日本サッカーがアジア諸国に追い抜かれる。遠くない未来、そんな日がやってくるかもしれません。前回記事『蹴るではなく触る!サッカーを始めた子どもに最初に伝えること』に続き、ジュニア年代の育成に精通しアジア各国で子どもたちを指導するトム・バイヤーに、アジア諸国のサッカー育成の現状についてうかがってきました。アジアのレベルが上がることで見えてきた日本人特有の強みと弱点とは? "Believe"という単語を繰り返すトムの真意とは?(取材・文 上野直彦 取材協力:株式会社T3)
■日本を追随するインドネシアの可能性
――前回はトムの中国での取り組みを中心に聞いていきましたが、今回はそれ以外の国の現状についても教えてください。インドネシアはどうでしょう?
アジアの中では、インドネシアが一番サッカーに対して熱を持っています。熱狂的です。人口が世界で4番目に多いということもポイントです。
――2億4000万人くらいですね。問題はなんでしょう?
施設、環境。規律がなくコーチも少ない。教育レベルも高くありません。
――昨年、日本で行われた『U12ジュニアサッカーワールドチャレンジ』では、インドネシアのアシオップ・アパチンティが成績こそふるいませんでしたが、パワーあるれるプレーを見せていました。実際にインドネシアの子どもを教えてみて、子どもたちの良いところと悪いところはどこにあると感じましたか?
まず、インドネシアのサッカーが大きく発展する可能性はとても高いと感じました。サッカーに関しては、熱狂的かつ情熱的です。ただ、サッカーの環境やそれを取り巻く政治的な問題は大きい。政府がサッカーを政治的な目的意識をもって利用したり、選挙のときにサッカー協会と政府が癒着していた過去もあります。FIFAは2年間の活動停止を言いわたしました。ただ、去年、U-14のチームの19人が、大阪・堺のトレーニングセンターに来てJFAアカデミーの子どもたちと試合をしましたが、遜色ありませんでした。ポテンシャルは高いです。
――インドネシアのコーチのレベルはなぜ低いのでしょうか?
インドネシアのコーチは、国外に出たことがないのが問題。これは中国のコーチも抱える問題です。だから、最新のインフォメーションを知らない。ぼくは草の根レベルで教えるコーチは、礼儀やマナーをしっかりと伝えなくてはいけないと考えています。しかし、コーチ自身の教育レベルがそんなに高くないので、指導の質もなかなか向上しないのです。親やコーチのなかには、子どもを平気で叩いたりする人もいます。
――では、日本人コーチはどうでしょうか?
日本のサッカーコーチの最大の問題はコミュニケーションがしっかりと取れないこと。日本人の場合は話さなくても通じる部分、『あうん』の呼吸みたいなものがあります。ところが、たとえば大陸中の民族が集まる中国などでは、話さなくても通じるということはあり得ない。言葉も違うし分化も違う、だからもっと主張する必要があるのです。それと、日本は年功序列が強い。日本以外の国では、チームに社長がいて、選手がいて用具係もいますが、集まって一緒に食事をするときは、年齢や上下関係は関係なく話します。
■日本に必要なのは"Believe"!勝利を信じること
――いろいろな国の子どもを教えてみて、今後アジアサッカーはどのように発展していくと思いますか?
日本はいままでアジアのなかでは非常に高いレベルにいました。恐らく他の国が力を付けることが、日本にとっていいプレッシャーになり、それが日本のさらなる強化につながるでしょう。中国、タイ、ベトナム、ミャンマー、ウズベキスタンなどは、着々と力をつけてきています。
技術面では、日本はアジアで群を抜いています。けれど、他の国がもう少し強くなると、日本も技術以外の部分をレベルアップしないと追いつかれてしまう。U-14、U-15における日本とアジア諸国との差は、まさに技術的な問題だけです。高倉麻子監督がU-17女子ワールドカップで6試合23点を取ってくるのは、日本の子どもたちの技術が、その年齢層において完成しているから。他の国のチームはそこがまだまだ。逆に日本はその年齢から先をどうするかが問題です。
――日本の子どもの技術レベルは年々上がっていますが、メンタル面はどう見ていますか。
日本は、アジアカップを4回優勝しました。勝つということを信じてやり始めています。「できるんだ。勝てるんだ」と信じることを身に付けることが重要です。日本は1993年からずっとU17ワールドカップに出場してきましたが、昨年はじめてアジア予選で敗退しました。U-17がW杯に行けないとトップチームもW杯には行けなくなる可能性が高まります。U-17の成績は日本代表のトップチームの成績に影響を与えます。それを基準に考えると、これから日本のワールドカップ出場権がどうなるか、心配ではあります。
自分を信じることは、グラスルーツでもとても大切です。先制点を奪われても、後半に逆転されたとしても、勝つイメージを持ち続け自分を信じ続けること。それがいいプレーいい結果につながります。
取材・文 上野直彦 写真 田川秀之