今まさに世界を熱狂させているFIFAワールドカップ ロシア大会。開幕前の予想を覆して躍進している日本代表はもちろんのこと、メッシ選手、クリスティアーノ・ロナウド選手、イニエスタ選手らが輝けずに姿を消す一方でフランス代表のエムバペ選手のようにこれからサッカー界の主役になるような期待の若手の活躍が光るなど、負けたら終了の決勝トーナメントでもどんなスーパープレー・スーパーゴールが飛び出すのか、そして、どの国が優勝するのか──。興味が尽きることはありません。
W杯はまさに、世界最高峰の選手たちが凌ぎを削る"フットボールの祭典"ですが、それは単純な技術レベルの高さだけを指しているわけではありません。サッカーを愛する数多くの選手が集まる舞台でしか見ることのできない、よくできた映画を見ているようなドラマティックなシーンに出会うこともあります。
そんな場面に遭遇するたびに「サッカーは技術や戦術、勝敗がすべてじゃない」と痛感します。つまり、サッカー選手は戦いを通して人間としても成長を遂げて、そうした彼らの振る舞いが、世界中の人々の心に突き刺さるのです。サッカーは技術も大事ですが、人間性を高めることも大事。
これまでは日本のサポーターが観戦後のゴミ拾いをするのはおなじみの光景でしたが、今大会ではグループステージで日本と対戦したセネガルのサポーターも日本に影響を受けゴミ拾いをする姿が驚きを持って世界に報じられたり、日本の吉田麻也選手が試合前にエスコートキッズとハイタッチをする姿を称賛されたりしています。
今回は、W杯で生まれた名場面に触れながら、「リスペクト」や「キャプテンシー」といったテーマを掘り下げていきます。
(文:本田好伸 写真:兼子愼一郎)
(4年前のブラジル大会 試合後長友選手に寄り添うチームメイトたち)
■PKを外した駒野選手に、パラグアイの選手が贈った言葉
日本サッカー協会やJリーグでは、「リスペクト」を大きなテーマに据えて「フェアで強い日本を目指す」というメッセージを掲げています。リスペクト精神は、日本が世界に誇ることのできる価値でしょう。ですがW杯では、そんな日本人選手に対して優れたリスペクト精神を持って接した選手たちがいました。
2010年の南アフリカ大会のことです。岡田武史監督が率いる日本は、オランダ、デンマーク、カメルーンという強豪ぞろいのグループを2勝1敗の2位で通過すると、決勝トーナメントでパラグアイと対戦しました。
90分の戦いをスコアレスで終えて、延長戦でも決着しない戦いはPK戦へと突入。パラグアイの先行で始まったPK戦は5人が成功して、日本の3人目のキッカー・駒野友一選手が蹴ったボールは、無情にもクロスバーに当たって外れてしまいました。その後、パラグアイは5人全員が成功。日本の敗退が決まりました。
肩を落とし、涙を流す駒野選手を松井大輔選手と阿部勇樹選手が支えていると、そこにパラグアイのネルソン・アエド・バルデス選手がやって来て、駒野選手を労うように声を掛けていました。
「顔を上げるんだ。君のせいじゃない。君が外したゴールは、僕がスペインで決める」
そんな言葉を贈ったと言います。同じ選手だからこそ、勝負を懸けたPKを外す気持ちを想像して、「自分のせいで負けた」と思う駒野選手に寄り添ったのです。もともと2人に接点があったわけではなく、しかも言葉もきっと通じていなかったはず。それでも駒野選手には、彼の気持ちが届いたのではないでしょうか。
サカイクキャンプ2018夏