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「かつては時に暴力も」勝利至上主義だった筒香の恩師が改心した、教え子からの衝撃のひと言

公開:2018年11月30日

キーワード:スポーツ勝利至上主義堺ビッグボーイズ子どもの権利少年サッカー少年野球瀬野竜之介筒香嘉智育成

「若年層における『勝利至上主義』の蔓延、そして大人、指導者をそのように導く全体的な運営を考え直すべき時にさしかかっているのではないかと考えています」

横浜DeNAの筒香嘉智選手が、公益財団法人日本ユニセフ協会(東京都港区)が11月20日に行った『子どもの権利とスポーツの原則』発表イベントで、そんなビデオメッセージを寄せました。

「大切なことは目の前の結果や大人の自己満足などではなく、子どもたちの未来が主体になること」と説き、キャンプなどで訪れたアメリカやドミニカ共和国で、子どもたちの積極性に驚き、そのチャレンジを温かく見守る大人の姿からスポーツの本質を学んだことなどを述べました。

イベントには、その筒香選手が中学時代に所属した「堺ビッグボーイズ」の瀬野竜之介代表が登壇。現在は子どもたちの将来を見据えた育成指導に当たっている瀬野さんですが、「以前は熱血で時には暴力もふるいました」と素直に明かしました。何がきっかけで考えが変わったのでしょうか。

子どもたちが安心で楽しめるスポーツ環境のために、大人がすべきこととは。(構成・文:島沢優子)

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堺ビッグボーイズの代表を務める瀬野竜之介さん

■「もう、野球はいいです」教え子の衝撃のひと言

大阪府出身の瀬野さんは、浪速高校から東海大学へ。野球一筋の青春時代を送り、指導者になった後は全国大会連覇など輝かしい結果を残しました。「境ビッグボーイズ」は、過去には筒香選手以外にも、西武ライオンズの森友哉選手も輩出。自チーム以外でも中学生年代の日本代表スタッフとして世界大会にも4度出場した名監督はこう振り返ります。

「昔は勝つことが子どものためになると信じて疑わなかった」

そんな瀬野さんが指導のやり方を変えたのは9年前。

高校入学が近づく中学3年生が、高校で野球を続けたがらない様子を見たことだと言います。「もう、野球はいいです」とバーンアウトにも似た受け答えに衝撃を受けたそう。目を凝らしてよくみると、卒団した子どもたちが高校で伸びていないことに気づいたのです。

故障を抱えていたり、進学先でレギュラーになれず腐ってやめてしまうケースも少なくなかったと言います。見回すと、自チームだけでなく、強豪と言われるチームほど卒団した選手が伸び悩む実態が......。プロの選手を輩出するどころではなかったのです。

「中学時代にすごいと騒がれた選手が、甲子園には出場しても、その後活躍していないケースが多かった」と瀬野さん。自身の眼の前ではヒーローだった子ほど、挫折していたと言います。

「(自分の指導は)本当にこれで良かったのかと、疑問を感じるようになった」

大きな気づきを得た瀬野さんは、世界大会で訪れた米国など、海外の野球クラブで子どもを指導する大人の姿を思い出したそうです。そこには怒鳴ったり、過度な指示命令は一切ありませんでした。選手の自主性を尊重して、動き始めるのを待っては寄り添う、日本とは違う大人たちの姿がありました。

「僕らが指導する日本のリトルリーグは世界でも最高レベルです。ところが、(年齢が)上に行くほど怪しくなる。つまり、抜かされてしまうわけです」

そこで、瀬野さんは以下のような改革を実行したのです。

1.練習時間の大幅短縮

→心身に余裕ができ、野球を楽しめるようになる。

2.練習メニューを事前に決めグラウンドに掲示

→それまではいつ終わるかわからない状況だったが、選手は終了の目安がわかるのでどのメニューも手を抜かず全力で取り組めるようになる。

3.土日の両方を遠征や練習試合にあてていたのを、どちらか一日を自主練習に

→休養がとれるためケガや故障の予防&自主性を育むことにもつながる。

4.練習中の無駄な声出し禁止

→練習に集中できるうえ、下級生などに負担をかけないですむ。

5.指導者からの罵声や怒声を禁止

→変化を見守ることで選手の主体性を育てられる。

6.学年ごとの投球制限や変化球制限を実施

→故障予防に。

結果はどうだったかといえば「中学3年生になるころには全員が主体的に取り組むようになる」と言います。発言や受け答えもしっかりしてくるそうで「すごく大人になる。人としての成長を感じる」のだそうです。

「子どもに主体的に取り組ませたり、自分で考えさせると(育成に)時間はかかる。以前よりも負けることは多くなった。でも、それでいいと思っている

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子どもたちの目線の高さに合わせて話しかけるFCバルセロナの監督(左)/(C)新井賢一

熱すぎる指導者は、子どもに無理をさせていることに気づいてほしい

堺ビッグボーイズでは4年前に小学部を結成し、小中一貫の指導体制をとるようになりました。

「野球が楽しいスポーツだということを、子どもたちに伝えたい。他のスポーツの熱すぎる指導者も、子どもに無理をさせていることに気づいてほしい」と話します。

瀬野さんは"勝つことのみが善"というような価値観を卒業し、指導のアプローチを変えられた1人です。ですが、ユニセフは日本のみならず、世界の子どもたちのスポーツ環境に問題があるとみてこんな懸念も示しています。

"世界で最も多くの国が批准する条約の一つである『子どもの権利条約』第31条はすべての子どもに、遊び、レクリエーションや休息の権利を認めています。しかしながら、世界各地で、暴力的な指導や子どもの心身の発達に配慮しない過度なトレーニングが横行するなど、スポーツが子どもの成長に負の影響を与えるような問題が生じています"

出典:ユニセフ「子どもの権利条約」

スポーツと子どもの課題に特化した行動指針をまとめたこの原則は、全部で10項目。原則1の第1項では、スポーツにおける子どもの権利を守るため、勝利至上主義に留意することに言及しています。なかでも、原則3「子どもをスポーツに関係したリスクから保護する」では、身体的または精神的な暴力、虐待(性的虐待を含む)、過度なトレーニング、ハラスメント(セクシャルハラスメント、パワーハラスメント等)、いじめ、指導の放棄、無関心な扱い、不当な扱いや過剰な規律や制裁などを撲滅することも明記されています。

次ページ:少年サッカーは子どもをリスクから守れているか?

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構成・文:島沢優子 写真:新井賢一(ジュニアサッカーワールドチャレンジ2017)

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