新型コロナウイルスの影響で学校が休校となり、お友達と会えない時期が続いています。サッカーもチーム活動が停止中で、予定していた試合がなくなったり、子どもたちはこの状況を理解しつつもがっかりしている気持ちもあるのではないでしょうか。
早く思いっきりサッカーをさせてあげたいけど...... と不安に思うお父さんお母さんもいらっしゃるでしょう。もちろんお子さんたちにも不安な心があると思います。
そこで今回は、日ごろオリンピック・パラリンピックを目指すアスリートのメンタルトレーニングに携わり、一方でスポーツを頑張る子の親の学び舎「スポスタ」で保護者の皆さんに心理学的な観点から子どもの人生と向き合う習慣づくりをサポートしている筒井香さんに、今不安に思っているみなさんに、心を少し軽くするアドバイスをいただきました。
家にいる時間が増えて子どものテレビ視聴やゲームの時間が長くなってイライラしている保護者の方へのアドバイスもいただきましたのでご覧ください。
(文:筒井香)
■不安や苛立ち、今の気持ちに素直になろう
新型コロナウイルスの感染拡大防止の影響が相次ぐ中、日本でも緊急事態宣言が出されました。休校延長が続いたり、サッカーの活動も休止中の人が多いと思います。
皆様もご存知の通り、2020東京オリンピック・パラリンピックも1年延期されることが決まりました。
私は日頃、2020を目指すアスリートの皆さんのメンタルトレーニングに携わっております。大会が延期されることが決まった後にも、それぞれの選手とトレーニングを行いました。
こうした経験を踏まえて、そしてスポーツ心理学者として、今こそ皆様にお伝えしたいことがあります。
お子様と一緒にお読みいただくか、お読みいただいた内容について子どもと一緒にお話しするなど、ご活用いただけたらと思います。
これまでの練習の成果を発揮しようと心待ちにしていたサッカー大会が、中止や延期になったり、そして新生活を楽しみにしていたのに学校が休校になったり、予定外のことが次々と起こっていると思います。
普段の休みと違って、サッカーの練習もできないし、友達と遊ぶこともできない日々が続いている今、どんな気持ち(感情)でしょうか? ガッカリしたり、イライラしたり、不安で落ち着かない、そんな気持ちになることも多いのではないでしょうか?
子どもだけではなく、今の先の見えない状況に、大人も強い不安や苛立ちを感じていることと思います。そんな皆様に、今、お伝えしたいことは、「どうか自分の今の自分の気持ちに素直になってください」ということです。
なぜなら、「ガッカリしていても大会がないことは変わらないから意味がない」「誰のせいでもないのにこんなことでイライラする自分はダメだ」などと、自分の気持ちを否定することは、最大のストレスになります。
同様に、子どもを励ましたいという想いから、「残念だけど気持ちを切り替えよう!」などと声をかけたくなることがあると思いますが、実はこれも「自分の気持ちを否定された」という感覚を与えてしまい、ストレスになることもあります。
■感情を言語化することで整理され、落ち着いて行動できる
では、周りの大人は子どもにどう接すれば良いのでしょうか?
それはまず、子どもに「どんな気持ち?」と尋ねることで、子ども自身が自分の気持ちを言葉にする機会を持てるようにすることです。
そして、「なぜ、そんな気持ちになったのかな?」とさらに理由を尋ねてみてください。
子どもが、大会に向けて一生懸命練習をしてきたからこそ、好きなサッカーができないからこそ、ガッカリすることもできれば、イライラする気持ちを持つこともできるのです。
これらは、子どもの"本気の想いがあったからこそ生じる感情"、つまり"本気の証"なのです。
子どもにこのことに気づいてもらうことためにも、保護者の皆様との会話が大切だと思います。
感情は私たちに大事なことをお知らせする機能を持っています。感情からのメッセージに耳を傾けることがとても大切です。
イラつきは、例えば、何か自分に正論があって、それに相反する出来事が起こっていることを知らせています。焦りや緊張は、例えば、それだけ自分にとって大切な出来事であることを知らせてくれています。そして、落ち込みや悲しみは、例えば、失ったものがどれだけ大事なものであったかを知らせてくれているのです。
このような感情は、とても大きなエネルギーを持っているので、簡単に抑え込むことはできないものです。無理に抑え込もうとすれば、誰にこの想い(エネルギー)をぶつけていいのかわからず、もっとガッカリしたり、最初のイライラとは関係のないイライラまで抱えることにもなりかねません。
自分の感情を無視して抑え込もうとするのではなく、その感情になった理由を考えてみること、そして、本気だった自分を認めてあげることが、今はまず大事になります。
ご家庭で、次のことをしながら時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
1.今の感情と、その感情になった理由をノートに書き出してみる。
2.今のような日常とは違うことへの漠然とした不安を感じる場合にも、漠然としたままでは、実態よりも不安が膨れ上がってしまうので、過去、現在、未来の気になることに分けて考えて書き出してみる。
3.今は会えないけれど電話やメールでもいいので友達、そして家族とお互いの感情について語り合う。
このように感情を言語化することで、感情を客観的にみつめ、整理する力が養われて、感情を制御する力がつくと言われています。
本当の意味での「気持ちの切り替え」はそこから始まると思います。
ガッカリやイライラした感情エネルギーを、今から自分の行動にどのように使うかを考えることもできるようになります。
「活動再開をしたら、もっと練習したい!」、そのために、今、時間のある間に、勉強をやっておく大切さに気づけるかもしれません。
■考え方しだいでテレビやゲームも勉強やスポーツでの考える力をつける習慣作りにもなる
最後に、保護者の皆様のなかには、子どものテレビやゲームの時間が長くなり、イライラを感じている方もいらっしゃるかと思います。もちろん時間を決めて、勉強する時間も作ることは大切ですが、それに加えて、「テレビやゲームも学びの時間と決めてやる!」というのも一つの方法かと思います。
テレビを見て気づいたことは何か? 今日より明日ゲームが上手くなるにはどうすればいいか? とお子様と話し合ってみてはいかがでしょうか。こうした力は勉強やスポーツに通ずるものです。
また、そのイライラは、元の生活に戻れるのだろうか? この時間は取り戻せるのだろうか? といった、子どもの将来を想うからこそのイライラでもあると考えられます。それに改めて気づくことは、保護者の皆様ご自身の心の健康に繋がるものだと思います。
ぜひ、感情からのメッセージを受け取ってみてください。
感情エネルギーを有効活用することで、今よりももっと行動の質を高めることができるのです。
筒井香(つつい・かおり)
株式会社BorderLeSS代表取締役 博士(学術)日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング指導士
大学・大学院時代に人間行動学、臨床発達心理学、スポーツ心理学などの心理学から「人間の特性」を広範に学び、また、博士論文では、「個別性を重んじたポジティブシンキングの多様性」に関する理論を構築。現在はオリンピック、パラリンピック選手のメンタルトレーニングのほか、スポーツを頑張る親の学び舎「スポスタ」の講師として、スポーツを(アスリートとして)頑張っている子どもの保護者に向けて、人としてのキャリアのなかにアスリートとしてのキャリアも含めた、包括的な人生設計に重要な理論と実践方法を伝え、子どもの「キャリア=人生育て」を心理学の視点からサポートしている。
株式会社BorderLeSS
https://www.borderless-japan2020.com/