暑かった夏が終わり、そろそろ各クラブのセレクションのお知らせも届く季節になりました。サッカーが大好きな子どもたちにとっても、それを見守る親御さんにとっても、進路はこれから先のサッカー人生を左右する大切な問題。今回はいくつかのエピソードを紹介しながら、来るべき選択の時、進路について一緒に考えてみましょう。
■多様なプレー環境 日本代表になるには?
サカイクでは以前も中学校入学にあたっての進路ガイドとして『中学生になったらどこでプレーするの?卒業後の4つの進路』という記事をアップしています。中学校の部活動でプレーするか、セレクションを受けてJ下部組織でプレーをするか、街クラブでプレーするか・・・・・・。どこでなら力を発揮できるか、どの選択をすればより成長できるのか・・・・・・。絶対的な答えがあるといいのですが、こればかりはそれぞれの適正、事情が複雑に絡むためケースバイケースなのが実際のところです。日本代表選手を見ても、そこにたどり着くまでの道程は人それぞれ。現時点で最新の日本代表メンバー全23人を見てみると、高校時代部活動で過ごした選手が13人、J下部組織でプレーした選手が9人。マンチェスター・ユナイテッドで活躍する香川真司選手だけが、FCみやぎバルセロナユースという宮城県の街クラブでプレーしました。
■本田圭祐選手や中村俊輔選手だって挫折を経験 道はひとつじゃない
J下部組織のジュニアユース、ユースと進んだ西川選手、権田選手、吉田選手、酒井宏樹選手、ハーフナー・マイク選手、清武選手、原口選手などはJクラブの育成強化が形になった成功例と言えるでしょう。変わったところでは、日本代表の頼れるエース・本田圭祐選手はガンバ大阪のジュニアユースでプレーしていましたが、ユースには昇格できませんでした(当時のジュニアユースチームのエースは当時から天才と騒がれていた家長選手でした)。しかし、石川県の星稜高校で自分に必要なプレーを見つめ直し、見事にプロへの道を切り開いたのです。同じような例では、中村俊輔選手も「身長が低く、フィジカルがユースレベルに達していない」という理由でユースに進むことができませんでした。以前、取材で当時の現場担当者に話を聞く機会がありました。ユース昇格の判断について聞くと、そのコーチはこんなことを言いました。
「俊輔に関しては確かにユースには上がれなかったけれど、いまの活躍を予想していなかったわけではありません。テクニックはジュニアユースの時から抜きん出ていたし、一番遅くまで練習をしていたのは誰でもない俊輔だったのですから」
彼も地元神奈川の桐光学園でプレーに磨きをかけ、Jリーガーとしてマリノスに戻り、日本を代表するファンタジスタになりました。ジュニアユース、ユースと進むのは確かに王道ですが、日本代表選手でも大きな挫折を経験して、そこから何かをつかんで、さらに成長できた選手もいるのです。J開幕当初は高卒ルーキーが活躍する例も多かったのですが、近年では岩政選手や伊野波選手、いまやインテルでプレーする長友選手のように大学を経由してプロになる選手も増えています。
■誰かが見ている 自分の場所で精一杯のプレーを
進路の問題を考えるのにヒントになるかなぁというエピソードがあります。数年前、あるクラブのジュニアユースのセレクションを取材させてもらったときのことです。小学生時代はみんなチームで一番上手い選手。自信を持って望んでいる選手がほとんどですが、ジュニアからの持ち上がり選手もいることもあって、グラウンド狭しとひしめく受験者に対して、合格できたのはほんの数人。合格発表で番号を呼ばれる瞬間は、ある意味残酷なシーンです。すべての合格者を発表された後、うなだれる不合格者にクラブの監督が語りかけます。
「今回君たちを選ぶことができませんでした。でもそれは、うちのクラブの基準で、うちにほしい選手を選んだ結果です」
一生懸命やった結果です。もう夢が絶たれてしまったと、泣いている選手もいました。
「サッカーを続けてください」
一度言葉を切った監督が唐突に言いました。
「また君たちに会いたいです。サッカーを続けている限り、誰かが君たちのプレーを見ています。どこかでまた会う日がやってくるはずです。そのときにまたこのクラブに入りたいと思ってもらえるように私たちも頑張ります。みなさんも自分がプレーする場所で、自分ができることを精一杯頑張ってください」
それまでうつむいていた子どもたちは、もう顔を上げていました。すっかり日が落ちて、暗くなったグラウンドで子どもたちに一生懸命に語りかける監督の姿をいまでもはっきり覚えています。
大切なのはサッカーを続けること、続けるために自分にあった環境を見つけること。そのためにいろいろな選択肢を検討したとしても、夢にたどり着くまでの道はひとつではありません。他人の評価やクラブ、学校の“格”みたいなものについつい目を奪われがちですが、結局は自分たちに合ったプレー環境を手に入れられるかどうかがその先の3年間、さらにその先の3年、もっと先の将来に大きな影響を与えるのです。『進路を考える』第二回は、自分に合った環境を選ぶためにJ下部組織、部活動、街クラブの特徴についてもう少し詳しく見ていこうと思います。
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文/大塚一樹 写真/サカイク編集部