柿谷曜一朗選手が「天才」と形容される所以。それは彼のファーストタッチにあると言われています。トップレベルになるほどプレッシャーが早くなり、ファーストタッチの重要性は増します。柿谷選手のファーストタッチがいかにすごいか。まずはこちらの記事をご覧ください。
■柿谷選手の注目すべきプレー『ファーストタッチ』に迫る
柿谷選手のトラップには、必ず「ながら」という言葉が付きます。トラップし「ながら」走る、トラップし「ながら」ターンする、トラップし「ながら」方向を変える、トラップし「ながら」シュートの踏み込み体制を作る……。そのプレーを見ると、トラップを止めてから次のボールタッチをするまでの動きが、一連の流れになっていることがよくわかります。これが平凡な選手の場合、トラップしたときに足がピタッと止まり、次の動きに入る前に相手のプレッシャーを受けてしまうのです。まずはこちらの記事をお読みください。
百聞は一見にしかず。サカイク練習メニューを監修する菊池コーチの再現映像をご覧ください。
【サカイク練習メニュー/柿谷選手のファーストタッチまとめ】
柿谷選手が世間から広く注目を浴びるきっかけになったのは、2007年に行われたU-17ワールドカップのフランス戦、センターサークル付近から相手GKの頭上を越える超ロングシュートでした。ひらめき、勇気、そしてキックの技術。そして、このゴールに至る過程には、ファーストタッチの重要性も隠れています。
このシチュエーションで守るべき原則は、ボールとゴールを同一視できる視野の確保です。パスを止めることだけに集中するとキーパーの動きが分からなくなってしまいます。そのため、右足のインサイドでボールを止めることで身体をゴールに向けるのがセオリーです。しかし、柿谷選手は得点の可能性を高めるために、より難度の高いプレーを選択しました。
ロングパスが手前でバウンドしてしまうときには、ボールを待つのではなく迎えにいき落ちどころで拾うのがセオリーです。ただし、今回の柿谷選手のようにディフェンスの裏のスペースに抜け出した場面でそれをすると、ゴールに背を向けることになりキーパーの動きを見失ってしまいます。また、一度ボールを止めてそこから反転してゴールを目指すことになるので、時間をロスしてしまいせっかく置き去りにしたディフェンダーに追いつかれる可能性が高まります。そこで柿谷選手はゴールを向いたままボールを待つ選択をしました。
後方からのボールをトップスピードを保ったままコントロールするのは、トッププレーヤーでも難しいと言われます。そのため、なるべくボールに当てる面の広いインサイドで確実にボールタッチするのがベターです。面の狭いインステップやアウトサイドではミスにつながる可能性が高まります。しかし右後方からきたボールを右足のインサイドでコントロールしようとすると、身体はゴール方向ではなく右後方を向きます。
裏のスペースに飛び出したもののパスが想定したよりも後ろにズレていた場合、どうするべきでしょう。左後方からのパスは右足のインサイドでのファーストタッチがセオリーですので、ボールに合わせて自分のスピードを緩めなければなりません。それでは、ほぼ並走で追ってくる相手ディフェンダーに追いつかれてしまいます。そこで柿谷選手は、スピードを緩めず左足のインサイドでのファーストタッチを選択しました。
この状況で、柿谷選手にはどのような選択肢があったでしょうか? サッカーの目的はゴールを奪うことです。よって、ゴール前での優先順位が最も高いプレーはシュートです。しかし、このとき柿谷選手はゴールを背にしていました。ここからシュートを打つためにはゴール方向に振り向く必要がありますが、すぐ後方にディフェンダーがいるので、それをすればボールを奪われてしまいます。そこで柿谷選手は次の優先順位を選択しました。ボールをキープして味方選手に預けるポストプレーです。
味方GKのパントキックをコントロールするなら、ボールの落下点に移動して、利き足のインサイドでトラップするのが最もミスをしない選択肢です。しかし、それではゴールに背を向けているために相手の脅威になるようなプレーはできません。ゴール方向にターンしても相手ディフェンダーに詰められる時間をつくることになってしまい、ボールを奪われる可能性が高まります。そこで柿谷選手はワントラップでゴールを向くプレーを選択しました。
さて、いかがでしたか。柿谷選手のファーストタッチの素晴らしさをご理解いただけましたでしょうか。では、じっさいにどのような練習をすればあのような華麗なファーストタッチが身に付くのか。それには、利き足、逆足、インサイド、アウトサイド、インステップ、頭など、身体のどこを使ってもトップスピードを落とさずコントロールする練習を繰り返すことが必要です。柿谷選手に近づくための練習メニューをご紹介します。
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文・写真/サカイク編集部