わたしたちが子どものころは、憧れの海外名門クラブのメソッドをなんとか知ることはできないかと、躍起になって探した人もいるのではないだろうか。いまとなっては、日本にいながらにして海外名門クラブのスクールが受講できるのだから驚きだ。
サッカーの聖地・南米ブラジルで育成指導に定評のある『クルゼイロ・エスポルテ・クルーベ(以下クルゼイロ)』。ブラジル全国選手権では去年、一昨年と2年連続優勝した最強軍団が、日本でのスクールを開始したのは2013年。日本の子どもたちが、人間性に優れ、世界で活躍できる選手へと成長できるよう、現地ブラジルで豊富な指導経験を持つ“クルゼイロのコーチ”が手厚くサポートしてくれる。今回は、あのジーコが『青い教訓』と称賛する指導法を紹介していく。(取材・文 隈崎大樹 写真提供:クルゼイロ・ジャパン)
■サッカー大国一の育成クラブ
700──この数字はクルゼイロがブラジル全土に持つスクールの数だ。日本の約22倍の国土を誇るブラジルでは、2万人ほどのサッカー少年の中から選ばれた100名だけが、クラブの門を叩くことができる。
ブラジルでは、16歳からプロとして活動できる。つまり、彼らにとってプロフェッショナルでプレーできるかどうかの生命線は16歳。それまでに、日本では想像できないほどの熾烈な競争と、選手にサッカーのすべてのエッセンスを吸収させるコーチの飽くなき探求心がある。
■サッカークラブではなく学校。心・技・体をバランス良く育む
「選手はサッカーだけうまければよい」という考え方はない。選手は一人の人間として教育・道徳が備わっていてはじめて一流の選手といえる。そのすべてを育むことができる環境をクルゼイロは完備。クラブ敷地内には、サッカー場の他に国が認定する「学校」や「生活施設」などが揃う。選手たちはクラブに所属しながら、サッカーと共に学業も学ぶのだ。さらには選手として大切になる栄養学も学習。身体を自己管理する意識を高めることが大事だからだ。日本で開催するキャンプではトレーニング以外に栄養学やポルトガル語の講座を行い、日本でいう“心・技・体”をバランス良く指導する。
■日本人にはない、高いコミュニケーション力を学ぶ
「Oi(オイ)!=やぁ!」と気さくに話しかけてくるブラジル人。とにかく陽気で明るい彼らは、つねに誰かをつかまえては冗談を言い合ったりしている。わたしが南米パラグアイでクラブチームのトライアウトを受けたときのことである。緊張しきってガチガチの私のところに、ある3人のブラジル人がやってきてこういったのだ。
「Oi(オイ)!Japones(ジャポネス/日本人)?」。
満面の笑顔で陽気なダンスをはじめ、そのうち私の手をとって踊り出す。慣れない日本人の私はドギマギしたものだが、これがブラジル流のコミュニケーション。もしかすると、緊張しているわたしの顔を見て、リラックスしろよという配慮だったのかもしれない。しかしピッチ上では一転、さっきまでの陽気な素顔とは打って変わり、俊敏で危険な動物のように、鋭い目線で果敢にアタックしてくる。その豹変ぶりに圧倒させられたわたしは、技術の前に、まず気持ちの部分で負けていた。そして、ひとたびピッチから出れば、また、さっきの陽気なブラジル人の顔に戻る。このONとOFFの切り替えとコミュニケーションこそがピッチに立つ者に必要な資質なのではないだろうか。クルゼイロ・キャンプを通して、その本場・ブラジルの風を幼少期に体感しておくことは、今後のサッカー人生に大きな影響をもたらすだろう。
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