清水エスパルスの10番・大前元紀選手をご存知でしょうか。166㎝という小柄な体格にも関わらず、Jリーグでコンスタントに得点を重ねるストライカーです。180cm超の選手が往来するJ1のピッチで、小柄な体格でも得点し続けるために彼が身につけた武器のひとつがJリーグ開幕戦でも見せたミドルシュートです。(取材・文 安藤隆人 写真 Getty Images)
4日前には、小さい体格を生かしたこんなゴールも。
今回は、小柄な体格を生かす術を考え続けることで、選手としても人間としても成長してきた大前選手が大切にしている言葉を紹介します。
■小さかったら高く飛べ
大前元紀はJリーガーのストライカーの中でも小柄だ。高校時代までは小さくても通用することはある。しかし、そこから上のレベルとなると難しくなる。
決して背が低いことがすべてにおいてマイナスというわけではない。しかし、プロの世界に入れば、180cmを優に超える選手たちはゴロゴロいるし、170cm台の選手が多く、フィジカルレベルも一段と高まることから、小柄な選手が第一線で、しかもFWとしてプレーすることは、思っている以上に難しい。
実際にJリーグの多くのスカウトの口から耳にするのが、「サイズは重要。うまくてもサイズが無いと獲得に動くのは二の足を踏むことはある」という言葉だ。やはりうまい選手であっても、身長があるに越したことはない。同じレベルの選手であれば、よりサイズが大きい方を選ぶ。それが170cm後半以上あればなおのことだ。
高校まではアジリティーを高めることでなんとかなった。しかし、プロの世界に入ると、それだけでは太刀打ちできない。アジリティーの高さは絶対条件で、さらに大きな武器を持たないと、この厳しい世界で生き続けるのは非常に難しい。
では、なぜ大前は清水エスパルスのエースストライカーとして、大きな存在感を発揮し続けることができるのか。
「よく周りに『小さい』と言われたけど、小さいことは長所ではないけど、短所とも思っていません。生かす術を身につけてきたつもりです。小さい選手でも大きな選手に勝てることを自らの力で証明したい」。
これは彼がプロ1年目のときに語った言葉だ。小柄であることを受け入れつつ、それを生かす術=武器を磨き上げていったからこそ、今の彼がある。
「小さかったら高く飛べ」という言葉を知っているだろうか?
これは元NBAプレーヤーだったスパッド・ウェブ選手のキャッチコピーだ。彼は2mを超す大男がずらりと並ぶバスケットボール界最高峰のリーグにおいて、168cmというずば抜けて低い身長ながら、トッププレーヤーの一人として活躍した。なぜ活躍できたのか。それは垂直跳び117cmという脅威の跳躍力で軽々とダンクを決める大きな武器を持っていたからだ。小さくてもより高く飛べば、2m近くの身長がずらりと並ぶNBAでも十分に通用する。彼は武器を持つこと、その武器を磨くことの重要性をプレーで問いた。
大前もまさにこれに当てはまる。彼の武器はフィジカルの強さと、ずば抜けた得点感覚。小さくても当たり負けしないフィジカルとボディーバランスを磨けば、高さと強さのある選手の当たりにも負けないし、プロのステージでも戦える。これは流通経済大柏高校で磨き上げた賜物であった。
流通経済大柏を率いる本田裕一郎監督は、技術の高い選手を好むが、この技術の高さに“強さ”を植え付ける指導に長けている。球際の強さにこだわり、普段のトレーニングでも徹底してフィジカルコンタクトや、球際の攻防への妥協を許すことはない。その一方で、サッカーはしっかりとパスを繋ぎ、ドリブルやスピードなどの個性を発揮できる環境を作る。大前もその環境の中で、フィジカルと天性の得点感覚をしっかりと磨き上げることができた。
(取材・文 安藤隆人 写真 Getty Images)