ジュニア年代の日本一を決める全日本少年サッカー大会(以下、全少)との「正しい関わり」について考える連載の第2回。1回目に引き続き、お話をお聞きするのはヴァンフォーレ甲府やセレッソ大阪のトップチーム監督を務め、関東担当JFAナショナルトレセンコーチ、セレッソ大阪の育成アドバイザーなどを歴任し、現在は山梨学院大学サッカー部の監督を務める塚田雄二さん。チームの勝利と個の成長、わが子にとっての最良の道を考えて悩んでいるお父さん、お母さんは必見です。
取材・文/大塚一樹 写真/サカイク編集部
■勝利の価値<次のステップに進むこと
「勝つことよりも大切なことは、次のステップに進むことです」
塚田さんは勝利至上主義に潜む問題点を、育成のエキスパートという視点から改めて指摘します。
「親やコーチが怒鳴ってしまったり、熱くなってしまったりすることは、子どもたちに不要なプレッシャーをかけるだけでなく、その後のサッカー人生に大きな影響を与えてしまいます。サッカーだけでなくスポーツの目的のひとつは勝利ですから、勝利を目指すことに問題はありませんが、それだけに固執することは子どもたちの将来にとって問題です」
■全少の結果で子どもの将来が決まるわけではない
塚田さんは、こうした議論が勝利の是非にすり替わる現状にも問題があると言います。
「大切なことは、子どもたち一人ひとりを見たときに、本当にその子のためになっているかということです」
塚田さん自身、コーチとして勝利によって選手が成長する姿を何度も目にしていますが、大切なのはチームではなく、「子ども」や「選手」が主語になっていることだと言います。
「勝つことの是非ではなく、勝つことを目指すにしても子どもたちがその犠牲にならないこと。“チームのため”を強調するあまり、試合に出られなかったり十分なチャンスを与えられなかったりすることを問題視してほしいと思います」
今年の全少は、塚田さんの古巣でもあるセレッソ大阪の優勝で幕を閉じました。決勝を戦ったセレッソ、柏レイソルをはじめ、全少に出場したチーム、選手たちはそこでしか得られないなにかを得たはずです。こうしたチームもそうですが、全少の舞台に出てくるようなチームは、個性がありチームの勝利が個人の成長につながる指導をしているチームが多いのです。これは、勝利だけに固執していては、結局、高いレベルでは勝利できないということを証明しています。
問題は各地域の予選、しかも比較的早い段階でコーチどうし、保護者どうしが目を吊り上げて勝ちに固執していることでしょう。
「がんばったことが目に見える形として欲しいというのはわかりますが、コーチや保護者が『勝たせてやろう!』なんていうのは思い違いです。指導しているわたしよりも子どもたちの方がアイディアを持っています。大人が誘導することで、指示を待ってベンチばかり見る子どもにしてしまうより、その発想を生かしてプレーしてもらった方がよほどいいんです」
なにかしてあげないとできないという考え方は子どもたちにとってはありがた迷惑。育成の現場でよく言われる“親の過保護”も「子どものため」と言いつつ、むしろ子どもの邪魔になっているのです。
「親が子どもに手を差し伸べ過ぎるケースは、よく目にしますね。練習が終わって、子どもが無言でカバンを差し出す。それを黙って受け取るお母さん。これは一見すると子どもがわがままに見えますが、何でも先回りしてやってあげるお母さんが、子どもの意思表示を奪った結果とも言えます」
両手が塞がっていてカバンが持てない、靴ひもを結ばなければいけないからちょっと持ってほしい。子どもがお願いする前にカバンを持ってしまう。必要なら意思を伝えればいいのにそれをしなくなる。こうした習慣は普段の行動から作られるものなので、自分の行動をもう一度見つめ直してほしいと塚田さんは言います。
取材・文/大塚一樹 写真/サカイク編集部