先日開催されたAFCU-16選手権。ベスト4以上に入れば、来年チリで開催されるU-17W杯に出場できるこの大会において、U-16日本代表は準々決勝でU-16韓国代表に敗れ、3大会連続で掴んでいた世界の切符を逃した。
年代別カテゴリーのW杯では、このU-17が一番下のカテゴリーとなる。そのアジア予選である今大会に出場した選手たちは、16歳で初めて本物のアジアの戦いを経験することになる。この貴重な場で、若き日本代表はどのように立ち振る舞ったのか。チームを率いる吉武博文監督が強調したのは、『自立』というキーワードだった。
取材・文・写真 安藤隆人
■ポゼッションサッカーには、自立した選手が不可欠
16歳といえば高1と早生まれの高2(※U-16のカテゴリーは、1月1日で区切るため、早生まれの選手は対象内となる)の選手が中心となる。このカテゴリーは、子どもとみなすか大人とみなすか、ちょうど境目となる年代である。サッカーでは個の技術の向上だけでなく、大人のサッカーへとステップアップしていくための戦術や戦略を身につけていかなければいけない。そういう面で、吉武監督はこの戦術と戦略を重視し、『明確な方向性の中で、個を生かす』ことを実践する指揮官であった。
吉武監督が標榜するサッカーはポゼッションサッカー。日本人のウイークポイントであるフィジカル勝負を避け、特徴である俊敏性と勤勉性を生かし、全員が的確なポジション取りをすることでパスを繋いでいくサッカーだ。
このサッカーをこの年代で体現するために、吉武監督が何度も口にしていたのが『自立』という言葉だ。
「ポゼッションサッカーという言葉の意味を、ぼくは前に出て行って崩すことだと捉えています。しかし、選手たちは『繋げばいいんでしょ』と思っています。それは違う」
『やらされているサッカー』ではなく、『相手を崩すために、自ら考え、動くサッカー』をしないと、同じポゼッションサッカーでも意味は全く違ってくる。あくまでポゼッションは『目的』ではなく『手段』である。では吉武監督は、選手の自立にどのようにアプローチしたのか。
まず吉武監督は今回の98ジャパンの前にも、94、96ジャパンを率いて、U-17W杯においてそれぞれベスト8、ベスト16という成績を残している。当時から吉武監督は選手たちに『自立』を求めていた。
「選手には自分で考え、自分たちで相談し、実行する。我々はこれを『共鳴』と呼んでいますが、一人ひとりが『自立』できるようにしたい」。
吉武監督は、自分たちの言いなりになって子どもたちがサッカーをすることを嫌い、あくまで選手主体のサッカーを強調する。
「サッカーをよりおもしろくさせるためには、中学年代のうちにある程度の技術を植え付けないといけない。15、16歳までの間に、もっともっと『宝物』を持たせて、次(の指導者)に渡していかないといけない。日本人は精神的な強さの中に集中力があるし、分析力もあると思う。分析力がないと、精神的な強さは成り立たない。だからこそ、選手個々の『自立』が必要なんです」
取材・文・写真 安藤隆人