考える力
「ゆるい指導じゃ強くならない」と言われたけれど......周囲の予想を裏切った町クラブ躍進の秘密
公開:2017年11月30日 更新:2017年12月 8日
読者のみなさんはご存知のように、サカイクの連載コラム『蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~』を執筆している島沢優子さんは、少年サッカーのカリスマ指導者と言われる池上正さんの書籍や連載のお手伝いを10年やってきました。
叱らず、指示せず、選手を縛らない指導でスキルを伸ばす。
今回はそんな「池上さんスタイル」で、結果を積み上げているお手本のようなクラブを取材したのでご紹介します。(取材・文:島沢優子)
後編:大豆戸FCが支持される理由は「持続可能なクラブマネージメント」>>
■主体性を育む指導スタイルで成果も挙げる、稀有なクラブ
神奈川県横浜市にあるNPO法人大豆戸フットボールクラブ。横浜Fマリノス、横浜FCとJクラブを2つを擁し、4種登録が実に200チーム近い激戦区の同市にあって、ここ10年間で市内大会での優勝。毎回、8強以上に駒を進めてくる強豪クラブです。
小中一貫指導を取り入れており、ジュニアの希望者がそのまま上がるジュニアユースチームも強い。毎年のように全日本ジュニアユースの関東予選に駒を進めています。
大豆戸FCのように選手の主体性を育む指導を全スタッフが実践し、なおかつ成果を挙げている小中一貫のクラブはそうそうお目にかかれません。大豆戸FCの強さは、どこからきているのでしょうか。
同クラブで指導して13年になる末本亮太さん(39)は「失敗から学んだのです」と言います。
末本さんが社員として加入する以前から、指導スタイルは「池上さんが推奨するかたちだった」。つまり、怒鳴らず指示命令せず、子どもたちの自然体を大事に、主体性を引き出すやり方です。
では、何が足りなかったのでしょう。
■12歳にして燃え尽きていた子どもたち
10年ほど前から毎年のように、スタッフ同士でクラブを見つめ直す中で、末本さんらスタッフは自クラブに関する3つのネガティブなことに気づきました。
まず、卒業した子が中学や高校で思った以上に伸びていなかったこと。
「中学や高校の試合を観に行くと、わかるんです。ジュニアのときにすごく技術もあって、能力が高かった子があまり伸びていなかった」
伸びないどころか、中学から別のスポーツをやるなどサッカーをやめてしまう子も少なくなかったそうです。
「なんで続けないんだよ?サッカー、楽しんでいたじゃないか?」末本さんが尋ねると、卆団生たちは同じようなことを言いました。
「もう、サッカーはいいかなって......」
「なんか、サッカーやる気が起こらない」
子どもたちは12歳にして「サッカーはお腹いっぱい」の状態になっていたのです。「要するにバーンアウトですよね。燃え尽きちゃった感じでした」(末本さん)
3つめのネガティブな案件は、預かった子どもたちの身長(高学年時)が伸びないことでした。
「あまりにも小さい選手が多過ぎる。やり過ぎなのではないか」
個人差はあるものの、ジュニア期の低身長は、運動のやりすぎや成長ホルモンが分泌する時間帯に睡眠や十分な休息をとれていないことが大きな原因です。
つまり、能力も体も「あと伸び」していなかったのです。
■これじゃ子どもたちの未来につながらない
「何かを変えなきゃダメだ。これじゃ、子どもたちの未来につながらない」
加えて、本当に好きで練習にやってきているのかも気になりました。「始めるよ」とコーチが言わなければ、ボールを蹴り始めない。複数のスクールを掛け持ちして毎日サッカーをやる子も少なくありませんでした。サッカーは子どもたちにとって、英語教室などと同じ『習い事』になっていると感じたと振り返ります。
大豆戸のジュニアは当時、各学年ともAチームで年間150試合、Bでも70試合を消化していました。土日となれば、1日中練習試合を組んでいたそうです。
「やればやっただけ、うまくなると思っていましたね」
もちろん、目の前の子どもたちの技術は伸びました。それなりに上手くなり、ある程度の結果も出ていました。ただ、それが子どもたちの未来に決してつながっていない現実があったのです。
そこで、スタッフで何度も話し合った結果、試合数を減らすことにしたそうです。それまで年間150試合だったのを100試合以下に減らしました。加えて、土日はそれぞれ丸一日サッカー漬けだったのを、午前だけ、または午後だけと半日にしたそうです。
親の引率もなくし、現地集合、現地解散にして、子どもたち自らがサッカーに来るような環境にしました。迷って遅れても叱らない。親から「行くよ」と言われて連れて来られるのではなく自分からサッカーを求める環境に変えたのです。