考える力
「しっかりやれ」じゃ変わらない。子どものパフォーマンスがぐんぐん良くなる魔法の声かけとは
公開:2018年5月24日 更新:2018年5月29日
「コミュニケーションとはお互いが考える力を持ち、相手の考えていることを引き出し合いながら会話していくこと」
つくば言語技術教育研究所の三森ゆりか先生は、このように「コミュニケーション」という言葉の定義を説明してくれました。
「考える力」がなによりも必要であり、大前提として求められる能力なのです。
では「考える力」はどのように身に付けていけばいいのでしょうか。後編ではスポーツの指導における言葉の力や、家庭でできる考える力を育むコミュニケーションについてお伺いしました。(取材・文:原山裕平)
(C)新井賢一
(指導者はプレーを分析し「言語化」することが大事 ※写真はイメージです)
■情報を鵜呑みにせず自分で分析、判断するクセをつけよう
三森先生は「クリティカルシンキング」というキーワードを用いて説明します。「クリティカルシンキング」とは「批判的思考」と訳されますが、物事や情報を鵜呑みにせず、疑問を持ち考察・分析したうえで、結論を導き出すという考え方です。
分析的に考える習慣を付けさせるために有効なのは、ものの考え方を記述に落とすこと。三森先生は日本オリンピック委員会(JOC)のエリートアカデミーで講師を務めており、レスリングの須崎優衣選手や、卓球の平野美宇選手ら若いアスリートに対して指導を行っています。
そこで三森先生は「対象について分析的に考察しながら議論し、その結果をどう記述に落とすか」をテーマに講義を行うなか、はじめはなかなか文章にできなかった選手たちが、1年も経てば自身の考えをきっちりした文章に落とし込めるようになったと言います。そして選手たちは、「考えることによって勝つ力がつく」ことに気付いていったと教えてくれました。
「自分の悩みを紙に書き出して、整理分類して、構造的に考えると、今悩んでいることはこのポイントだと明確になる。悩みには理由があることに気付けば、解決策も分かりやすい。感覚ではなく分析することによって、選手たちは成長できるのです」
■「しっかり跳べ」では高く跳べないない、必要なのは動作の「言語化」
平昌オリンピックで銀メダルを獲得したスノーボードの平野歩夢選手も、自身のパフォーマンスを感覚ではなく、きちんと分析したことで結果につながったと言います。
「平野選手はずっと感覚的にやってきたそうですが、大きな怪我をして4回転ができなくなった時に、自身の演技を全部動画にとって、細かく分析したそうです。どこで踏み切ればいいのか。どれだけ膝を曲げればいいのか。一つひとつを分析して修正した結果、見事に復活したのです」
三森先生は、その分析作業を言語化することが大事だと言います。
「感覚でとらえていたものを言語化することで、自分のものになる。そうすれば同じ失敗を繰り返さなくなりますし、良い動きやプレーを再現できるのです」
三森先生は一度、バレー協会に招かれ、小学生の子どもたちを指導したことがあるそうです。監督が「しっかりと跳びなさい」と指導するのですが、子どもたちは始めはなかなか求められたプレーを見せることができないでいました。
ところが三森先生がアドバイスを送ると、子どもたちのプレーは大きく変わったのです。では、どのような指導を行ったのか。それはプレーの分析を行い、言語化したことでした。
「今どれくらい膝を曲げて飛び上がったの? どうやったらもっと高く飛べると思う? さっきと今とではどれくらい膝の曲げ方が違った? これくらい曲げるとどれくらい飛べると思う? このように言語化して伝えれば、子どもたちは何がダメで、何をすべきかを理解できる。ただ『跳びなさい』といったところで、跳べるわけがないのです。考えや動作を言語化することで、子どもの動きが大きく変わりました。バレー協会の人たちも驚いていましたね」
子どものスポーツの現場では、いまだに怒鳴るような指導が行われていることが珍しくはありません。
しかし、ただ怒鳴っても意味がありません。
いかに分析し、言語化できるか。そうすることで子どもたちは聞く耳を持ちますし、理解できる。分からないことがあれば、積極的に聞きに来ることにもなるでしょう。
「言語化されることで初めて、どうすればいい? こうすればいいよ、というコミュニケーションが成り立つのです」
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