考える力
シャイで内気だった12歳のイニエスタがピッチ内でのびのびプレーできた理由
公開:2019年7月17日 更新:2021年5月20日
ヴィッセル神戸に所属する元スペイン代表MFアンドレス イニエスタ選手の経験やビジョンを次世代の子どもたちに伝えるアカデミー「iniesta's Methodology(イニエスタ メソドロジー)」がさる6月30日に、大阪府堺市と兵庫県尼崎市で開校しました。
イニエスタ選手を9歳から知り、今でもイニエスタ選手が厚い信頼を寄せるスペイン人コーチのフアン カルロス氏がコーチを務めます。今回は、La Ligaの指導者養成プロジェクトのインストラクターも務めた育成のスペシャリストであるフアン カルロス氏にイニエスタ選手の幼少期について話をお聞きしました。
ドリブル、パス、リフティングの回数、キック力など個人のスキルにフォーカスするのではなく、味方と協力するプレー、相手の動きを読むプレーなどサッカーというチームスポーツにおいて大事なことを幼少期から理解し実践していたイニエスタ選手のエピソードは、日本の指導者、保護者にも参考になることでしょう。
(取材・文:森田将義)
■味方、相手の動きを読む力があった
イニエスタ選手は、8歳の頃に地元のクラブ「アルバセテ」のアカデミーに所属。12歳の時に出場した7人制の大会での活躍が目に留まり、FCバルセロナへの入団が決まりました。
当時から周囲とは違うプレーを見せていたイニエスタ選手について、カルロス氏はこう振り返ります。
「幼少期からグラウンド内では、頭の良さが目立つ存在でした。戦術的な理解力の高さや相手やチームメイトがどう動くかなどプレーの予測する力は他の選手よりも秀でていました。性格はシャイでしたが、練習や試合ではもう一人の自分を表現しようとしていたのではないでしょうか。グラウンドに居心地の良さや安心があったのだと思います。普段の彼は積極的にリーダーになりたいタイプではなかったのですが、グラウンドに出れば自然とリーダーとなっていました」
賢いプレーができるかどうかは、天性の部分でもありますが、戦術・技術・フィジカル・精神を練習で磨き、試合ではそれらを上手く組み合わせなければ活躍できません。イニエスタ選手は元々持っていた、判断を伴う頭脳的なプレーを伸ばしながら、それ以外の能力も伸ばせたからこそ、プロでの世界でも活躍できたのであり、「向上心と才能が合致したから、今の彼がある」とカルロス氏は口にします。
イニエスタ メソドロジーでは、そういった「判断を養う」トレーニングで、サッカーインテリジェンスを身につけるアプローチをしているそうです。
高い技術を活かしたパスとボールキープがイニエスタ選手の代名詞ですが、カルロス氏が評価するのはそれ以外の部分で、「パスを出す時も貰う時も献身的な動きができる。スペースへの読みがとてもうまい選手だった」と続けます。
日本語でいえば「献身」という言葉が当てはまる、チームメイトのための動きは、イニエスタ選手の幼少期の経験も無関係ではないでしょう。
FCバルセロナに入団するため、12歳で両親の下を離れましたが、当時のご両親のお話をこう語りました。
「(故郷から遠く離れたバルセロナに住むことは)アンドレスにとっても両親にとっても難しい決断でしたが、両親は彼の成長にとって価値のある経験になると信じていました。移り住んでからは楽しくサッカーに打ち込んでいる姿を喜んでいましたし、幼いうちに親元を離れ自立したのは、彼が人間としてサッカー選手として成長するために必要なことだったと思う」
FCバルセロナの寮(ラ マシア)ではプロサッカー選手として活躍するために必要な自立心を育むため、家事や洗濯など身の回りのことを自ら行いますが、そうしたピッチ外での行動により少しづつ精神的にも自立していったようです。
■大事なのは子どもがサッカーをする価値を見出すこと
イニエスタ選手が遠く離れた地で活躍するのを楽しみにしていた両親の立ち振る舞いは、サカイクの読者である日本の親御さんの参考になるかもしれません。多くのプロサッカー選手の親を見てきたカルロス氏はこう口にします。
「親はあくまで親、大人の振る舞いをしなければいけません。サッカーに介入しすぎないことです。大事なのは子どもがサッカーをやる価値を見出してあげること。スポーツで頑張った成果がどれくらい出たのか、長いスパンでは人としてどれくらい成長できたのか見守ってあげるべきです。親がサッカーの内容に関して口出しするのは好ましくありません。コーチが教えたことと親が伝えることが違うと子どもが戸惑うので、なるべく見守るスタンスが理想です。ただ、家庭で教える教育、学校が教える教育、サッカーで教える教育は同時進行で進めなければいけないと思っています」
イニエスタ メソドロジーでも家庭、学校、サッカーアカデミーの関係は大事だと考えて子どもたちに接しているそうです。
また、わが子のためを想って、FCバルセロナへと送り出した両親同様に、イニエスタ選手も家族を大事にする選手だとカルロス氏は明かします。
「彼は自分と自分の家族に一番良いことは何なのかを常に考えて行動していた。彼にとって良いことでも、周りにとって悪いことであればダメなのです。有名になってからも謙虚な心を持っていてアルバセテ時代の友人やラ マシア(FCバルセロナのアカデミー)時代で培った友情をとても大切にしている。サッカーでも長い年月をかけて関係性を築き上げた人が多い。自分と家族や仲間が常に笑顔でいてくれるのが彼にとっても喜びなのです」
家族、昔からの友人を大事にするイニエスタ選手が、どんなに有名になって富と名声を得ても謙虚な姿勢でいられるのは、大切な人たちの信頼を裏切りたくないという思いと、「自分はサッカー選手であり続けたい」という自身の信念から来るものではないかとカルロス氏は言います。
そして、世界トッププレーヤーとして名をはせた今もなお常に「より良い選手になりたい」という向上心があるからこそ、35歳になった今でも魅力的なプレーを見せ続けてくれるのです。
そんなイニエスタ選手が日本の子ども達のために、コーチ達と練習内容を考えたアカデミー「イニエスタ メソドロジー」では、サッカーの技術だけでなく、人としてどうあるべきかという点を大事にしているのだとカルロス氏は教えてくれました。
後編では、アカデミーで実践している「判断力が身につく練習」のお話などをご紹介します。
イニエスタ メソドロジー コーチングスタッフ
フアン カルロス(Juan Carlos)
サッカー指導者、UEFA-PROライセンス保有。
イニエスタが9歳の時に出会い、以来25年間に渡って成長を見守ってきた。
イニエスタが12歳まで所属していたアルバセテ・バロ ンピエで育成年代、トップチームの監督、コーチを務め、ヨーロッパのトップライセンスであるUEFA-PROライセ ンスを保有。
「イニエスタ メソドロジー」を日本で立ち上げるにあたり、自らの幼少期を知るフアン カルロスに指揮を執ってほしいというイニエスタ自身の熱い希望により、スペインより 来日してテクニカルダイレクターに就任。
<指導歴>
2017-19 La-Liga指導者養成インストラクター
2016-19 U.D.E.F Albacerスポーツダイレクター
2012-16 Albacete Balompié第2監督
2006-12 Albacete Balompié B監督
2005-06 Quintanar del Rey B監督
1994-2004 Albacete Balompié U-12、U-16、U-18監督
イバン カスカレス(IVÁN CASCALES)
フアン カルロスのアシスタントを務めており、今回のプロジェクトのため供に来日。
スクールではフアンコーチとともに、メインで指導をしている。
<指導歴>
2018-19 C.D.E.F ALBACERコーディネーター、U-17フィジカルコーチ、U-11、U-9監督
2016-18 CF Torre Levante Orriols U-17フィジカルコーチ兼U-9監督
2015-16 CF Torre Levante Orriols U-17フィジカルコーチ兼U-9コーチ
【受講者募集】フアン・カルロスコーチによるコーチングアカデミーTrain the Trainer - Basic
(トレイン ザ トレーナー :ベーシック)
指導者向け、指導者を目指す学生向けオンライン講座
スペインでの指導歴、日本でも多くの子どもたちを指導しているフアン・カルロスコーチが「世界の指導のノウハウ」を詰め込んだオンラインアカデミー(全4回)
受講者の方には、イニエスタ メソドロジーからデジタル認定証をお渡しいたします。
サカイクオススメ記事やイベントをお届けするLINEアカウント!
サカイクがお届けするイベント情報やサッカーを通した子育てに関するオススメ記事をLINEでの配信をご希望の方は、どうぞご登録をお願いいたします。
※LINEアプリをインストール後、スマートフォンから下記をクリックして「お友達追加」をお願いします。